バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ開催は日本バスケットボール界にとって大きなプラス
「NIKE ALL ASIA CAMPのようなエリートキャンプの日本開催は育成面で大きなプラスになる」という記事を書いてからわずか2か月後、バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(BWB)が8月14日から17日まで東京都内の体育館で開催されたことは、いい意味で驚きだった。八村塁がワシントン・ウィザーズにドラフトされたことや、日本代表が8月31日に開幕するワールドカップに出場することを考慮すれば、主催するNBAにとっても決してマイナスではないことも理解できる。
受け入れる日本側は、Bリーグが主体となって準備を進めた。体育館の確保やどの選手を参加させるかでかなり苦労したものの、BWBのようなエリート・キャンプを開催する環境はしっかり整えたことで、NBA関係者から「キャンプを開催するにはいい環境だった」と高い評価を得ることに成功。次の開催がいつになるかまったくわからないといえ、近い将来再び開催されるだろうという気がした。
BWBは2001年からスタートし、世界30か国で60回開催されてきたエリート・キャンプ。昨季NBA王者となったトロント・ラプターズのマルク・ガソルが2003年のヨーロッパ、パスカル・シアカムが2012年のアフリカに参加し、2016年のオールスター・ウィークエンド中に開催されたBWBグローバルには八村もプレーしていた。昨季のNBA開幕時にBWBの経験者が27名いたことでも、関係者の目に止まれば高いレベルでプレーする機会を得る可能性が増すことを意味している。
初日と最終日に取材した今回のBWBアジアだが、選手のレベルはNIKE ALL ASIA CAMPのほうが少し高いという印象を持った。今回男子でMVPとなったヨ・ジュンソクは昨年のNIKE ALL ASIA CAMPに参加した後、2学年下ながらU18アジア選手権に韓国代表と出場し、平均16.2点、6.2リバウンドをマークした実績の持ち主。現在オーストラリアのNBAグローバル・アカデミーに留学していることからすれば、他の参加者よりも実力が上だったことは、プレーを少し見ただけでわかった。
選手のレベル以外でも、NIKE ALL ASIA CAMPとBWBの間に幾つかの違いがある。NIKE ALL ASIA CAMPはNBAのコーチによる指導がドリルのみで、試合になると中国人のコーチが指揮する。その理由は、参加している選手だけでなく中国人コーチのレベルアップを図る意味があるからだ。一方、BWBはNBAのコーチだけでなく、ロビン・ロペス(ミルウォーキー・バックス)やケボン・ルーニー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)といった現役や田臥勇太(元フェニックス・サンズ)のような経験者たちが、ドリルと試合の両方でしっかり指導したこともあり、キャンプでありがちな個人アピールのプレーは少し抑制されていた。
また、NBAファイナルで50回笛を吹いた実績のあるジョーイ・クロフォードを招き、レフェリーのレベルアップに力を入れていた点も違う。試合で吹いていたのは、国際大会の経験が豊富な加藤誉樹らBリーグで笛を吹いているS級の人たち。クロフォードは会議室でのミーティングだけでなく、コートサイドで試合を観察しながら、ゲームが終わるごとに細かな動きを交えながらアドバイスをしていた。
NIKE ALL ASIA CAMPとBWBを少し比較したが、2つとも素晴らしいエリート・キャンプであることはまちがいない。両方ともゲストのNBA選手によるコミュニティ活動がしっかりと行われており、今回のBWBでは日本代表として活動中の八村が2日目に来場し、子どもたちにいい刺激を与えていた。また、コーチ向けの時間帯を用意するなど、日本バスケットボール界の普及と発展をサポートした点でも、BWBの東京開催は大きな意味があったと言えるだろう。次に日本で開催される時に一般の人が見学できる時間帯を作ることができれば、より多くの人がバスケットボールの良さを知る機会になるという気がしている。
日本から参加したのは、男子から木林優(福岡大学附属大濠高)、小川敦也(洛南高)、ケイン・ロバーツ(ナイルキニック高)、脇真大(岡山商科大学附属高)、山之内勇登(リベットアカデミー)、女子が平下愛佳(桜花学園高)、林真帆(岐阜女子高)、荻田美(京都精華学園高)の8人。この中から小川、ロバーツ、平下、林、荻田がオールスターチームのメンバーに選出。ロバーツがハードワーカーに送られるGrit賞、林がオールスターゲームMVP、荻田が3Pコンテストで優勝するなど、日本人選手たちは素晴らしいパフォーマンスを見せていた。