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手倉森ジャパンが五輪予選のグループリーグ突破をかけるタイ戦。注目するべき5つのマッチアップとは?

河治良幸スポーツジャーナリスト
U-23日本代表キャプテン遠藤航は相手エースのチャナティップと対峙する。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

リオ五輪予選を兼ねるUー23アジア選手権。初戦で北朝鮮に1−0と勝利した日本はタイと対戦します。ここで勝利すれば2位以上でグループリーグ突破が決まりますが、サウジアラビアと1−1で引き分けたタイはここ数年で大きく成長しており、侮れない相手となります。

北朝鮮戦に引き続き、タイ戦もニコ生サッカーキング『U-23リオ五輪最終予選TV実況!日本vsタイ』で解説を担当させていただきますが、この試合に先立ちタイUー23代表の基本的な特徴を押さえながら、注目するべき5つのマッチアップを抽出して解説します。

近年のタイは若年層の育成に力を注いでいますが、リオ五輪の出場を目指す代表チームはその象徴的な存在となっています。現在はA代表も兼任する、現役時代のレジェンドでもあるキャティスク・セナムアンを監督に任命したことが何よりのメッセージで、カリスマ性の高い指揮官のもと、個性派の集まりである選手たちが勝利のためにハードワークするスタイルが磨かれてきています。

基本システムは4−1−4−1を用いていますが、ボールに対してタイトに守備をしていくため、状況に応じて可変する傾向があります。特徴的なのが4バックの主力メンバーは全てタイ・プレミアリーグのテロ・サーサナに所属する選手ということ。かつて鹿島アントラーズで守備の中心を担い、現在はファジアーノ岡山で活躍する岩政大樹が2014年に在籍していたことで知られるチームですが、この経験豊富な“リーダー”と共にプレーすることで、組織的な守備の理解が高まったことは間違いないでしょう。

守備は東南アジアのチームとしては非常に統率が取れていますが、攻撃は個人技を押し出す攻撃が特徴で、縦に仕掛けるドリブルは日本の守備陣にとっても危険です。ただし、コンビネーションで予想を上回る様な動きはあまり無いため、チャレンジ&カバーをベースにしっかり1対1を制していけば、十分に守り切れるでしょう。言い換えると、そこで負けてしまえば大きなピンチになりうるということです。スタメン予想は下記の通り。

GK:1ソムボーン・ヨス

DF:19トリスタン・ドゥー、5アディソン・プロムバック、17タナボーン・ケサラット、2ベラパット・ノティチャイヤ

MF:(アンカー)9チャヤワット・スピナウォン

(ハーフ)10パコーン・スペムパック、7ティティパン・プワンジャン、18チャナティップ・ソングラシン、16タナシット・シリパラ

FW:11ピンヨ・インピニット

※並びは右から

本来は1トップにチェンロップ・サムファオディという技巧的なFWがいますが、サウジアラビア戦で負傷交代しているので、欠場の可能性が高いと見てピンヨ・インピニットを左サイドハーフからトップに上げ、タナシット・シリパラが左に入ると予想しました。この中で注目したいのがGKのソムボーン・ヨス、CBのタナボーン・ケサラット、アンカーのチャヤワット・スピナウォン、右サイドハーフのパコーン・スペムパック、そしてエースの攻撃的MFチャナティップ・ソングラシンです。そこに日本の選手を当てはめ、5つのマッチアップを解説します。

【1】チェンロップ・サムファオディ VS 南野拓実

チェンロップは周囲が見上げるほどの長身ではありませんが、筋骨隆々としていて存在感のあるGKです。特に至近距離の反射神経が鋭く、ワイドな角度からシュートを打たれても、即座に体勢を変えてボールを弾くことができます。一方で技巧的にコースを狙うシュートにはやや弱いところがある様です。また同サイドのニアに寄り過ぎるポジショニングも気になります。

南野は現在のチームで主に4−4−2の右サイドハーフを根城とするため、これまで通りのポジションで起用される場合、先ずはタイミング良くゴール前に入っていくことが必要ですが、そこで咄嗟に強いシュートを打つよりも、左足でファーにグラウンダーのボールを蹴るなど、落ち着いたフィニッシュで狙っていく方がゴールの可能性が高まるはずです。

また第一の選択はシュートであるべきですが、厳しい角度であればファーに浮き球のショートクロスを入れるのも有効です。タイの右CBアディソン・プロムバックは強靭ですがボールウォッチャーになりやすいので、その外側を久保や鈴木武蔵が取れればフリーでヘディングシュートを打てるかもしれません。

【2】タナボーン・ケサラット VS 久保裕也

タナボーンはタイ人のDFにしてはバランス感覚があり、ポジショニングのセンスも高いCB。スピードもなかなかのものがあります。相棒の鈴木あるいはオナイウ阿道はアディソンが付くことが多くなり、タナボーンはより機動力を持ち味とする久保をチェックする時間が長くなると予想されます。久保としては中盤の味方が高い位置で前を向いた瞬間に動き出してマークを外したいですが、一発ではそう簡単に自由にさせてはくれないでしょう。

ただ、久保が効果的な動き出しをすることでタナボーンを引き付ければ、もう1人のFWのマークに応じたカバーリングを無力化できますし、一瞬空いたギャップに南野を飛び込ませるなど、日本の攻撃陣ならではの連携を活かした崩しにもつながります。久保自身がフィニッシュする最大のチャンスは鈴木やオナイウのポストでフリック気味にダイレクトパスが出てきた時でしょう。そこでタナボーンがタイトにブロックしてくる前にダイレクトでシュートを打てればゴールネットを揺らせる可能性が高いです。

時間帯によっては浅野拓磨がタナボーンとマッチアップすることになりますが、彼が爆発的なスピードを活かし、裏に飛び出す動きでDFを引っ張ることで、その手前にミドルシュートのスペースを作ることもできます。久保にしても浅野にしてもストライカーとしてゴールする機をうかがいながら、自分たちの効果的な動きでタナボーンをシュートスポットから外すことにより、周囲の決定的なチャンスを拡大させるというイメージを味方と共有してほしいところです。

【3】チャヤワット・スピナウォン VS 中島翔哉

運動量が豊富で、対人守備にも優れるアンカーの選手です。日本の基本システムである4−4−2に明確なトップ下の選手はいませんが、左サイドハーフを担う中島がかなりの頻度で中に入ってくるため、チャヤワットと1対1になるシーンも多くなると予想できます。抜群のキープ力を誇る中島がチャヤワットのタイトな守備をいなし、その間に動き出す攻撃陣の味方をうまく使えれば、大きなチャンスになるでしょう。そこで直接ラストパスを通せれば理想ですが、ボランチの大島僚太に一度下げて、スルーパスを狙わせるのも1つのオプションとなります。

またタイの守備は1つ“弱点”があります。それは中盤で相手がサイドに振ったところから、中に素早くリターンするとインサイドがガラ空きになりやすいこと。そこで例えば遠藤航がボールを受けて前を向けばチャヤワットが慌ててチェックに来るでしょう。そうなると本来のアンカーの位置が空いてきます。そこに中島が入り込んでボールを受け、相手のCBを引き付けながらスルーパスを出す。そうした後手後手のシチュエーションに持っていければ流れからチャンスを掴める可能性が高まります。

【4】パコーン・スペムパック VS 山中亮輔

ゴール方向にドリブルを仕掛ける基本スタイルのタイにあって、縦を突いて速いクロスを上げて来るパコーンの存在は日本にとって厄介です。左SBで先発が予想される山中は攻撃面でも重要な選手ですが、パコーンをサイドで自由にさせないことが第一の仕事になります。山中は北朝鮮戦でCKからアシストをマークするなど活躍しましたが、マークに付いていながら危険なクロスを上げられるなど、守備ではやや“軽さ”が目立ってしまいました。

タイのセットプレーでキッカーも担うパコーンは足首をしならせる様な右足のキックが特徴で、ドリブルで前に進んだ状態からインサイド気味に鋭いボールを蹴ることができます。つまり、抜き切らなくてもクロスを上げられる選手なのです。日本のゴール前には長身のGK櫛引政敏と植田直通&岩波拓也の長身CBコンビがいると言っても、速く低いボールを入れられるとスペースで合わされてしまう危険が高まります。

ここで山中が振り切られることなく厳しく付き、危険なクロスを限定していくことが重要になります。逆にもしここで劣勢に立たされる様であれば、対人守備と機動力に定評のある亀川諒史を投入する手もありますが、後手の交代でカードを1枚使ってしまうことになるので、山中が先発した場合は何とか踏ん張ってほしいものです。また直接のマッチアップではないですが、セットプレーのキッカー同士ということでも注目です。

【5】チャナティップ・ソングラシン VS 遠藤航

A代表の主力でもあるチャナティップは”タイのメッシ”という異名通り、現在のUー23タイ代表でも絶対的な存在です。本家と違って右利きですが、左足も自在に操るドリブルで相手陣内を切り裂いていくスタイルです。ただ、このチームではキャプテンを任されていることもあってか、A代表より周りを使ったプレーが目立ちます。例えば1トップの手前でシンプルにボールを捌き、後ろの味方に前を向かせて裏に飛び出すなど。個人技を中心としたタイの攻撃にバリエーションをもたらしています。

また最も危険なのがカウンターで起点になった時で、最短距離でゴールの道筋を描き、1、2本のパスとドリブルを織り交ぜてゴール前に迫ってきます。そのチャナティップを止めるのは日本のキャプテンでもある遠藤の役割でしょう。前所属の湘南で3バックの右ストッパーを担っていた遠藤は体の強さに加えて、一瞬でボール保持者にプレッシャーをかける寄せのスピードがあります。チャナティップに対しても、その強みを活かしたいところですが、注意するべきはターンで体を入れ替わる様なキープで、そこで逆を取られると一気にゴール前まで運ばれてしまいます。その感覚は周りから見えるものと実際に感じるもので違うかもしれません。決定的な仕事をさせない様にしながら、早めに掴んでほしところです。

4−1−4−1のインサイドハーフに位置するチャナティップは守備意識も決して低くないですが、攻守が切り替わった瞬間に動きが止まり、守備の対応が遅れるケースが見られます。遠藤が直接的にボールを奪えた場合はもちろんですが、味方のインターセプトやセカンドボールの奪取などで攻撃に切り替わった瞬間、遠藤が機を見て攻撃に出ていけばアンカーの横に生じるスペースから大きなチャンスになるかもしれません。基本的にはチャナティップの攻撃と遠藤の守備という関係になるでしょうが、90分の中で関係が入れ替わったところでの勝負も明暗を分ける大きな要素になるかもしれません。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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