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ぶどう膜悪性黒色腫の転移と闘う:免疫チェックポイント阻害薬の可能性と課題

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ぶどう膜悪性黒色腫の転移:その特徴と課題】

ぶどう膜悪性黒色腫は、成人の眼球内で最も多く見られる悪性腫瘍です。この腫瘍は、目の虹彩、毛様体、脈絡膜にある色素細胞から発生します。初期段階で適切な治療を受けても、約半数の患者さんで転移が起こることが知られています。

転移先として最も多いのは肝臓で、95%の患者さんに見られます。次いで肺(24%)、骨(16%)、皮膚や軟部組織(11%)へ転移することがあります。この高い転移率と、転移後の治療の難しさが、ぶどう膜悪性黒色腫の大きな課題となっています。

皮膚の悪性黒色腫と比べると、ぶどう膜悪性黒色腫は転移後の治療効果が限られています。これは、腫瘍の生物学的特性や免疫応答の違いによるものと考えられています。

【最新の治療法:免疫療法と放射線療法の組み合わせ】

近年、転移性ぶどう膜悪性黒色腫の治療において、免疫療法と放射線療法を組み合わせたアプローチが注目されています。

免疫療法の中でも、特に注目されているのが免疫チェックポイント阻害薬です。イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)とニボルマブ(抗PD-1抗体)の併用療法が、一部の患者さんで効果を示しています。この治療法では、約18%の患者さんで腫瘍の縮小や消失が見られました。

放射線療法は、肝臓や脳などの転移巣に対して局所的に行われます。体幹部定位放射線治療(SBRT)やガンマナイフ定位放射線治療(GK SRS)といった高精度な放射線治療が用いられ、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えながら、効果的に腫瘍を攻撃します。

これらの治療法を組み合わせることで、一部の患者さんでは生存期間の延長が期待できます。しかし、すべての患者さんに効果があるわけではなく、個々の症例に応じた治療選択が重要です。

【治療効果予測のバイオマーカー:PD-L1発現の重要性】

治療効果を予測するバイオマーカーとして、PD-L1(Programmed Death-Ligand 1)の発現が注目されています。PD-L1は、腫瘍細胞が免疫系から逃れるために利用するタンパク質の一つです。

研究結果によると、転移巣のPD-L1発現が陽性の患者さんは、イピリムマブとニボルマブの併用療法に良好な反応を示す傾向がありました。PD-L1陽性の患者さんの生存期間中央値は56ヶ月だったのに対し、PD-L1陰性の患者さんでは17ヶ月でした。

しかし、PD-L1の発現が陰性でも治療効果が得られる場合もあるため、PD-L1だけで治療の適否を判断するのは適切ではありません。他のバイオマーカーや臨床所見も考慮しながら、総合的に治療方針を決定することが重要です。

PD-L1の発現状況は重要な指標ですが、それだけでなく、腫瘍の遺伝子変異の状況や患者さんの全身状態なども考慮に入れた総合的な判断が必要です。今後は、より精密な予測モデルの開発が期待されます。

免疫療法には、免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる副作用が伴うことがあります。下痢や皮膚炎、肝機能障害、内分泌障害などが報告されており、適切な管理が必要です。特に、PD-L1陽性の患者さんでは、irAEの発生頻度が高い傾向にあります。これは治療効果と関連している可能性があり、注意深い観察が求められます。

ぶどう膜悪性黒色腫の転移は、皮膚の悪性黒色腫と異なり、紫外線との関連が低いのが特徴です。そのため、遺伝子変異の数が少なく、免疫療法の効果が限定的になる傾向があります。しかし、一部の患者さんでは、MBD4遺伝子の変異により高い変異負荷を持つ場合があり、そのような患者さんでは免疫療法が効果的である可能性が示唆されています。

今後の展望として、新しい免疫チェックポイント分子を標的とした治療法の開発が進んでいます。例えば、TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)やLAG-3(Lymphocyte-activation gene 3)を標的とした治療薬の臨床試験が行われており、これらが新たな治療選択肢となることが期待されています。

ぶどう膜悪性黒色腫の転移に対する治療は、まだ多くの課題が残されています。しかし、免疫療法と放射線療法の組み合わせ、そして新たなバイオマーカーの発見により、徐々に治療成績が向上しています。個々の患者さんの状況に応じた最適な治療法の選択と、新しい治療法の開発が、今後の生存率向上につながるでしょう。

参考文献:

1. Tran DH, et al. Radiation and systemic immunotherapy for metastatic uveal melanoma: a clinical retrospective review. Front. Oncol. 14:1406872. (2024)

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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