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最新研究が明かす小児アトピー性皮膚炎治療の革新:デュピルマブvs従来薬の実力

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【小児アトピー性皮膚炎治療の新たな展開】

アトピー性皮膚炎は、子どもたちの日常生活に大きな影響を与える慢性的な皮膚疾患です。かゆみや炎症による睡眠障害、学校生活への支障など、患者とその家族は多くの困難に直面します。これまで、重症の小児患者に対しては主に免疫抑制剤が使用されてきましたが、長期使用による副作用の懸念から、新たな治療法の開発が待ち望まれていました。

そんな中、近年注目を集めているのが「デュピルマブ」という新薬です。デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす免疫系のメカニズムを特異的に抑制する、画期的な生物学的製剤です。

今回、12歳未満の小児を対象に、デュピルマブと従来の全身治療薬(メトトレキサートとシクロスポリン)の効果や安全性を比較した大規模な実世界研究「PEDISTAD」の2年間の追跡調査結果が発表されました。

【デュピルマブの優れた治療効果】

PEDISTAD研究の結果は、デュピルマブの優れた治療効果を明確に示しています。

1. 皮膚症状の改善:

デュピルマブを使用した患者群では、皮膚の炎症の程度を示す「EASI(Eczema Area and Severity Index)」スコアが、治療開始時の平均19.9から最終観察時には8.6まで大幅に改善しました。これは重症から軽症レベルへの改善を意味します。一方、メトトレキサート群とシクロスポリン群では、それぞれ16.8から11.1、18.5から15.2への改善にとどまり、中等症レベルに留まりました。

2. かゆみの軽減:

6歳以上の患者における夜間のかゆみスコアは、デュピルマブ群で2.1ポイントの減少が見られました。これに対し、メトトレキサート群では0.4ポイントの減少、シクロスポリン群では0.1ポイントの増加となりました。6歳未満の患者でも、デュピルマブ群で最も大きなかゆみの改善が確認されました。

3. 生活の質の向上:

患者の生活の質を評価するPOEM(Patient-Oriented Eczema Measure)スコアも、デュピルマブ群で最も顕著な改善が見られました。デュピルマブ群では7.0ポイントの減少、メトトレキサート群で4.7ポイント、シクロスポリン群で1.5ポイントの減少となりました。

4. 皮膚の状態改善:

患部の体表面積(BSA)も、デュピルマブ群で最も大きく減少しました。デュピルマブ群では19.9%の減少、メトトレキサート群で11.8%、シクロスポリン群で8.8%の減少が確認されました。

【デュピルマブの安全性と治療継続性】

PEDISTAD研究は、デュピルマブの優れた安全性プロファイルと高い治療継続率も明らかにしました。

1. 副作用の発生率:

治療に関連する有害事象(TEAE)の発生率は、デュピルマブ群が18.1%と最も低く、メトトレキサート群(29.8%)やシクロスポリン群(31.4%)を大きく下回りました。重篤な有害事象や治療中止に至る有害事象も、デュピルマブ群で最も少ないことが確認されました。

2. 治療中断率:

治療の中断率も、デュピルマブ群が8.3%と最も低く、メトトレキサート群(28.9%)やシクロスポリン群(43.0%)と比べて圧倒的に少ないことがわかりました。特に、「効果不十分」や「副作用」による中断が、デュピルマブ群では非常に少なかったことが特筆されます。

3. 感染症リスク:

皮膚感染症(例:伝染性軟属腫や膿痂疹)の発生率も、デュピルマブ群で最も低いことが確認されました。これは、デュピルマブの作用機序が従来の免疫抑制剤とは異なり、過剰な免疫反応のみを抑制することによるものと考えられます。

4. 結膜炎:

一方で、結膜炎の発生率はデュピルマブ群でやや高い傾向が見られました。これはデュピルマブの既知の副作用であり、適切な管理が必要です。

【治療の長期継続性】

研究期間中の治療継続期間の中央値は、デュピルマブが8.1ヶ月、メトトレキサートが13.0ヶ月、シクロスポリンが10.7ヶ月でした。観察期間終了時点で、デュピルマブ群の91.7%、メトトレキサート群の71.1%、シクロスポリン群の57.0%が治療を継続していました。この高い継続率は、デュピルマブの効果と忍容性の高さを反映していると考えられます。

PEDISTAD研究の結果は、デュピルマブが12歳未満の中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者にとって、効果と安全性の両面で優れた治療選択肢となる可能性を強く示唆しています。特に、従来の免疫抑制剤では十分な効果が得られなかった患者さんや、副作用のリスクが懸念される患者さんにとって、新たな希望となるでしょう。

アトピー性皮膚炎は、適切な治療と日常のスキンケアの継続により、多くの場合、症状のコントロールが可能です。新しい治療法の登場により、子どもたちがより快適な生活を送れるようになることを期待しています。ただし、個々の患者さんの状態や背景は異なるため、必ず皮膚科専門医との綿密な相談のもと、最適な治療法を選択することが重要です。

この研究結果は、小児アトピー性皮膚炎の治療に新たな選択肢を提供するものであり、多くの患者さんとそのご家族に希望をもたらすものと言えるでしょう。今後も、さらなる研究と長期的な観察を通じて、より安全で効果的な治療法の確立が進むことを期待しています。

参考文献:

Paller AS, de Bruin-Weller M, Marcoux D, et al. Real-world treatment outcomes of systemic treatments for moderate-to-severe atopic dermatitis in children aged less than 12 years: 2-year results from PEDISTAD. Journal of the American Academy of Dermatology. 2024. DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.09.046

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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