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アトピー性皮膚炎の新たな治療戦略:IL-4と樹状細胞の意外な関係

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎:皮膚バリア機能の重要性と免疫系の関与】

アトピー性皮膚炎は、非常に一般的でありながら、まだ完全には解明されていない興味深い皮膚疾患です。世界疾病負担研究によると、アトピー性皮膚炎は全ての皮膚疾患の中で最も負担が大きく、致命的でない疾患の中でも上位に位置しています。

この疾患の特徴として、皮膚バリア機能の異常が挙げられます。これは、新生児や乳児のアトピー性皮膚炎の症状が現れる前から存在することが多く、症状の主要な部分を占めています。しかし、同時に免疫系の異常、特に「タイプ2免疫反応」と呼ばれる反応も重要な役割を果たしています。

タイプ2免疫反応に関わる遺伝子(IL4/KIF3A、IL13、STAT6など)の変異が、アトピー性皮膚炎と強く関連していることがわかっています。このことは、アトピー性皮膚炎が食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、喘息などの他のアレルギー疾患と密接に関連している理由の一つと考えられています。

【IL-4と樹状細胞:アトピー性皮膚炎における新たな発見】

最近の研究で、インターロイキン4(IL-4)という物質と、樹状細胞と呼ばれる免疫細胞が、アトピー性皮膚炎の発症や進行に重要な役割を果たしていることがわかってきました。

IL-4は、アレルギー反応を引き起こす物質の一つです。これまでの研究で、IL-4受容体(IL-4が結合するタンパク質)を阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状が改善することが示されていました。

今回の研究では、IL-4が樹状細胞に直接作用し、アレルギー反応を引き起こすTh2細胞(ヘルパーT細胞の一種)の産生を促進することが明らかになりました。つまり、IL-4には二つの作用があるのです。一つは直接Th2細胞を活性化すること、もう一つは樹状細胞を介してTh2細胞の産生を促進することです。

【アトピー性皮膚炎治療の新たな展望:IL-4受容体阻害薬の可能性】

この発見は、アトピー性皮膚炎の治療に新たな可能性を示しています。現在、IL-4受容体を阻害する薬(デュピルマブ)がアトピー性皮膚炎の治療に使用されていますが、この薬の効果がさらに広範囲に及ぶ可能性が示唆されました。

デュピルマブは、すでに存在するアレルギー反応を抑えるだけでなく、新たなアレルゲンに対する感作(アレルギーになること)も防ぐ可能性があります。これは、IL-4受容体の阻害が樹状細胞を介したTh2細胞の産生も抑制するためと考えられます。

この研究結果は、アトピー性皮膚炎の治療戦略に大きな影響を与える可能性があります。IL-4受容体阻害薬の使用により、既存の症状改善だけでなく、新たなアレルギーの発症予防も期待できるかもしれません。ただし、さらなる研究が必要であり、日本人患者でも同様の効果が得られるかを確認する必要があります。

今後の研究では、IL-4が樹状細胞にどのように作用するのか、その詳細なメカニズムを解明することが重要です。また、皮膚の微生物叢(マイクロバイオーム)がこのプロセスにどのように影響するかも興味深い研究テーマとなるでしょう。

アトピー性皮膚炎は、患者さんの生活の質に大きな影響を与える疾患です。この研究成果が、より効果的な治療法の開発につながることが期待されます。

参考文献:

1. Leyva-Castillo JM, Das M, Strakosha M, et al. IL-4 acts on skin-derived dendritic cells to promote the T(H)2 response to cutaneous sensitization and the development of allergic skin inflammation. J Allergy Clin Immunol 2024.

2. Schuler CFt, Tsoi LC, Billi AC, et al. Genetic and Immunological Pathogenesis of Atopic Dermatitis. J Invest Dermatol 2024; 144:954-68.

3. Geba GP, Li D, Xu M, et al. Attenuating the atopic march: Meta-analysis of the dupilumab atopic dermatitis database for incident allergic events. J Allergy Clin Immunol 2023; 151:756-66.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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