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田中角栄名誉八段、中曽根康弘七段、小渕恵三六段 首相経験者に贈られた将棋の段位

松本博文将棋ライター
アマチュア向けの将棋の免状(画像撮影:筆者)

 日本の歴代総理大臣の中で、将棋をよく指した人物としてまず挙げられるのが、田中角栄(1918-1993)だろう。

 評伝を読めば、関係者や、同じ政治家同士で将棋を指す場面がよく現れる。同郷の原田泰夫(棋士九段)とは親しく、原田の引退記念パーティーに出席してあいさつをしている。また芹沢博文(棋士九段)は田中の私邸を訪れた時のことなどを、エッセーに綴っている。得意戦法は中飛車だった。

 1999年にオープンした新潟県の「田中角栄記念館」には愛用の将棋盤が展示され「実力は初段」と説明されているそうだ。田中は早指しで、一局15分ぐらいで終わったという。

 1971年。将棋連盟は福田赳夫外務大臣と田中角栄通産大臣に五段免状を贈った。これはアマチュアの名誉段位である。

 1972年。田中が首相となった後、将棋連盟は六段の免状を贈っている。首相に六段を贈る慣例は、これが最初の例となった。

 アマチュアの段位も時代とともにインフレ化が進んでいくが、もし実力で免状を得ようとすれば、アマチュアの県大会優勝で四段、全国大会優勝で六段という、高いハードルが設定されている。

 1993年に田中が亡くなった後、将棋連盟は追贈で名誉八段を贈った。現在のところ、これが総理大臣に贈られた最高の段位である。

 歴史に目を向けると、プロアマの段位の区別がなかった江戸時代には、徳川将軍に八段を贈った例はあった。

【参考記事】

八段を贈られた十代将軍徳川家治はどれぐらい将棋が強かったか

 比較的最近では小渕恵三(1937-2000)に六段が贈られた例がある。

 この名誉的な段位の贈呈には、とくに規定はなく、政・財、文化など各界の著名人で、将棋に理解がある、もしくは普及に功績があった人を対象に、理事会が決定します。

 総理大臣に贈るようになったのは、田中角栄首相からで、1972年に六段が贈られ、その後、名誉八段が追贈されています。

 以後、福田赳夫、鈴木善幸両首相が六段(いずれも後に七段)、三木武夫、中曽根康弘両首相が七段、竹下登、村山富市、橋本竜太郎の各首相が六段を贈られています。

政界以外では、戦前の1932年に幸田露伴、戦後の49年に菊池寛、81年に豊田章一郎の各氏がそれぞれ六段、87年に松下幸之助氏が七段を贈られています。

出典:「中日新聞」1999年7月12日夕刊

(「中日新聞」1999年7月12日夕刊)

 将棋連盟が政治家に名誉段位を贈ることは現在も続いているが、小渕首相以後は、首相に六段免状を贈るというニュースは見られなくなったようだ。

 ところで筆者は、菅直人元首相が実際に将棋を指しているのを見たことがある。

 所持している免状は、首相就任以前に贈られた二段のままのようだが、歴代首相経験者の中ではおそらく、トップクラスの強さだろう。

(文中敬称略)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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