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日韓首脳会談の謎 日本「竹島についても話した」 韓国「話はなかった」 どっちが本当?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
議員時代に竹島に上陸した朴振外相(前列右端(「JPニュース」提供)

 紆余曲折を経て3年9か月ぶりに開かれた日韓首脳会談で争点となっていた元徴用工問題が韓国側の歩み寄りでどうやら一件落着し、今後政府レベルの関係は進展しそうだ。

 日韓にはこの他にも佐渡金山の世界文化遺産登録問題や福島原発処理水の放流問題、元慰安婦問題やさらに最大の懸案である領土(竹島=韓国名「独島」)問題などが山積しているが、「共同通信」などの報道によると、延べ85分にわたる少数及び拡大会議で岸田文雄首相は尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に対して日韓「慰安婦」合意の履行を含め、福島産水産物の輸入規制解除、「哨戒機レーダー照射」問題などを提起し、さらに竹島問題も切り出したようだ。

 岸田首相は外相時代の2015年12月に当時の朴槿恵(パク・クネ)政権との間で「日韓慰安婦合意」を交わした当事者なので合意の確認と速やかな履行を求めるのは至極当然のことだ。

 また、日本にとっては竹島問題も避けては通れない問題である。歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土で、それを韓国が不法占拠していることを容認するわけにはいかないからだ。とはいうものの現実的には対話による「返還」も、また力の行使による「奪還」も容易ではないことは歴代首相の誰もが重々承知しているようだ。さりとて、黙認というわけにもいかず、今では「言うべきことは言う、主張すべきは主張する」との外交方針に則って、首脳会談の場で提起したものとみられる。

 ところが、韓国側は「日本からはその種の話はなかった」と否定している。首脳会談に同席した大統領室の高官は首脳会談後に確認を求めた韓国随行記者団に対して「独島に関しては、少人数会談でも拡大会談でも全く話がなかった」と否定し、翌17日にも大統領室はマスコミ向けに「慰安婦問題も、独島問題も議論されたことはない」と全面否定する見解を出していた。

 首脳会談に同席した朴振(パク・ジン)外相も昨日(18日)出演したKBSのニュース番組で「首脳会談で独島なり慰安婦問題は議題として議論したことはない」と否定し、また金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長も昨日、YTNの番組に出演し、「独島問題はホットなイッシュにならない。独島は我々が占有している我が領土である。私が記憶している限り、最近日本の当局者が独島の話をした記憶がない」と朴外相と口を合わせるかのような答弁に終始していた。

 日本は「話をした」と言っているのに韓国は「そんな話はなかった」と言い張っている。どちらかが嘘をついていることになるが、共に国民向けに発していることを勘案すると、首脳会談ではよくある話で、決して不思議なことではない。

 あえて韓国政府寄りに解釈すれば、「議題になかったのに日本が一方的に切り出しただけで、韓国側は議論に応じなった」ということかもしれない。というのも、朴外相はKBSの司会者が「議題になかったものを岸田首相が持ち出したということか」と質問したことに「首脳会談の内容を具体的に言うのは適切ではない」と言葉を濁したからだ。

 元慰安婦問題はさておき、仮に領土問題が首脳会談で取り上げられたのが事実ならば、元徴用工問題での譲歩とは次元が違うだけに尹政権を支持する保守層も含め国民の猛反発を買うのは必至だ。まして、尹大統領の対日外交を「売国外交」と、批判を強めている野党「共に民主党」が「独島まで売り飛ばす気か」と世論を煽っていることもあって尹政権が躍起になって否定に走る気持ちはわからないわけでもない。

 しかし、客観的にみて、「竹島」の話そのものが「なかった」と否定していることは問題だ。「話が出たが、反論した」と言えば済むものを話しそのものがなかったというからややこしくなる。韓国駆逐艦による日本の海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射も「そんな事実はない」と抗弁したことから日本の韓国への不信が高まったのはまだ記憶に新しい。

 韓国政府がこれまでに日本との密約や「内緒話」を韓国国民に隠し通したことは枚挙にいとまがない。その典型が日本から無償3億ドル、有償2億ドル、民間協力資金1億ドル以上で対日請求権問題を政治決着させた「大平・金鍾泌極秘メモ」である。記憶に新しいところでは2008年の李明博(リ・ミョンパク)大統領(当時)の「竹島発言」がある。

 後者の「竹島発言」とは李大統領が2008年4月に訪日した際に開かれた日韓首脳会談で福田康夫総理(当時)が「中学校社会科の新学習指導要領の解説書に竹島を表記せざるを得ない」との日本の立場を説明したところ「今は困る。待ってほしい」と発言した件を指す。

 首脳会談から数か月後に日本政府が領土問題の明記を明らかにするや韓国の野党やマスコミから「李明博政権の屈辱外交、無能外交が招いた結果である」と叩かれた李大統領は「(福田首相の説明に)認めるわけにはいかないと強い懸念を表明していた」と弁明し、「待ってもらいたい」とは口が裂けても言わなかったと言い張っていた。

 李大統領の「今は困る。待ってほしい」の発言は当時、読売新聞がすっぱ抜いたことで明るみに出たが、「大統領は独島を放棄した」と怒った約20の韓国の市民団体が大統領府に「誤報ならば(読売新聞に対して)毅然たる対応を取るよう」求めたものの青瓦台は「大統領はそのような発言はしていない」と否認するだけで何の対抗措置も講じなかった。当然、読売新聞も「報道内容は事実である」と訂正には応じなかった。

 業を煮やした市民団体は事の真相を明らかにするため読売新聞を相手に集団訴訟を起こしたが、結果は原告側の全面敗訴で終わり、読売新聞のスクープが事実であることが証明される結果となった。

 今のところ、尹政権が「竹島問題も取り上げられた」と伝えた日本のメディアに「訂正」を求めたとの話は聞こえてこない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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