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北九州の中学生殺傷事件 殺人容疑で再逮捕へ 動機の解明は? #専門家のまとめ

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
写真はイメージ(写真:アフロ)

福岡県北九州市のファストフード店で、中学3年生の男女2人が刃物で刺され死傷した事件。面識のない生徒を襲った犯人の動機に注目が集まっている。しかし、本当に動機は解明できるのだろうか。動機に注目すれば、犯罪を防げるのだろうか。

ココがポイント

北九州中3殺傷、2人連れ認識か 福岡県警、容疑者再逮捕へ
出典:共同通信 2025/1/5(日)

福岡県警は平原容疑者が2人を襲った動機の解明などを進める。
出典:朝日新聞デジタル 2025/1/5(日)

中3殺傷「平原政徳」近隣住民が明かした“資産家の坊っちゃん”としての顔
出典:デイリー新潮 2025/1/2(木)

機会なければ犯罪なし 動機に注目しても犯罪を防げない。では、どうする?
出典:小宮信夫 2023/1/1(日)

エキスパートの補足・見解

人格(精神病理)や境遇(社会病理)、つまり犯罪者の異常な人格や、劣悪な境遇(家庭・学校・職場など)に犯罪の原因を求める立場を「犯罪原因論」と言う。

しかし、「犯罪原因論」は海外では人気がない。なぜなら、犯罪の原因を解明することは困難であり、仮に解明できたとしても、それを除去するプログラムを開発することは一層困難だからだ。

海外で採用されているのは「犯罪機会論」だ。犯罪性が高い者でも、犯罪の機会がなければ犯罪を実行しないとする立場である。これに基づき、海外では、施設を犯罪が起こりにくいように設計するなど、犯行に都合の悪い状況を作り出す取り組みが推進されている。

日本でも「犯罪原因論」の呪縛を解くことが望まれる。

日本人の多くは、動機があれば犯罪は起こると考えているが、それは誤りだ。動機があっても、それだけでは犯罪は起こらない。動機を抱えた人が犯罪の機会に出合った時、初めて犯罪が起こる。それはまるで、体にたまった静電気(動機)が金属(機会)に近づくと、火花放電(犯罪)が起こるようなものだ。

だからこそ、海外では、犯罪対策のコストパフォーマンスが高い「犯罪機会論」が支持されているのである。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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