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「年末年始は空き巣に注意」は本当か? 新しい「ピンポイント強盗」と「電脳アプローチ強盗」とは何か?

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:イメージマート)

12月に入り、「空き巣に注意」の呼びかけが、至る所で見られる季節となった。年末年始が近づくと、犯罪が増えるというイメージは根強い。しかし実際、この時期に空き巣は急増するのか。

確かに、かつては年末年始が特別な期間であり、空き巣のリスクは高かった。しかし近年、ライフスタイルは変化し、そうした傾向は薄れつつある。

かつては長期休暇で家を空ける家庭が多く、その分、犯行の機会も増えた。だが、テレワークや生活リズムの変化によって、一年を通じて家を留守にする時間は分散化した。

そのため、「年末年始だから空き巣に注意」という認識は、過去の常識に縛られたものかもしれない。

地縁型から電縁型へ

むしろ、空き巣に代わって社会問題化しているのが強盗の増加だ。

特に、若者たちが電脳空間の「闇バイト」に応募し、犯罪者となる事案が相次いでいる。その背景には、若者が貧困に苦しむ一方、欲望の煽りを受け続けている現状がある。

リクルート役は、それを見越して、「金持ちから奪っても、大した被害にはならない」と、彼らを誘導している。そして、軽い気持ちで参加した彼らが踏みとどまろうとしても、提出させた身分証明書をちらつかせながら、「家族に危害が及んでもいいのか」と脅かし、犯行を断れなくしているのだ。

ここで重要なのは、リクルートの舞台が、「地縁」から「電縁」にシフトしていることだ。地縁ベースの対策では、電脳空間で募集する電縁には効果が薄い。「電脳警察」の拡充が求められる由縁である。

強盗といえば、昨年までは、ルフィ事件といった「ピンポイント強盗」が中心だった。これは、多額の現金や高価な品物があるという情報を得た家だけをターゲットにする。

この種の強盗では、経済的な情報が記載されたターゲット・リストが使用されており、そのリストはダークウェブと呼ばれるインターネットの裏市場で取引されていた。

このリストを入手できるのは資金力のある大規模な犯罪組織に限られており、実行犯は「使い捨て」として、闇バイトでリクルートするというわけだ。

こうしたピンポイント型の強盗は、計画性が高く、犯行後に多額の収益を得ていた。これを羨ましく思った人が、「自分も」ということで、強盗の世界に参入してきた。もっとも、このグループは、大規模組織ではないので、高度な情報が掲載されたリストを購入する資金は持っていない。

今年に入って急増しているのは、情報リストを持たない小規模組織による強盗だ。そのため、ピンポイント型の強盗と比べ、無計画性が目立つ。

金品の有無を確認せずに侵入し、結果として予期せぬ事態を引き起こすことも多い。現金が見つからない場合には、住人を脅してクレジットカードを利用させたりもしている。

このグループが、ターゲットとして選定するのは「見えにくい家」だ。言い換えれば、犯行が目撃されにくい家である。

指示役は、周囲からの視線が届きにくい家を選んでいる。その際、グーグルマップのストリートビューを利用しているようだ。

特に周囲が林や田んぼに囲まれている家、高い塀で囲まれた一軒家、窓が見えない寺社や工場の隣接地などが狙われている。つまり、この種の強盗は、リクルートだけでなく、物色もネット上で行う「電脳アプローチ強盗」なのだ。

上流対策と下流対策

では、こうした犯罪には、どう対処すればいいのか。

ピンポイント強盗の対策としては、情報管理の徹底である。自宅に多額の現金や高価な宝飾品があることを周囲に知らせないことが、最も基本的な対策だ。特にSNSなどを通じた情報漏洩には細心の注意が求められる。

これがダム建設のような上流対策だ。

一方、堤防設置のような下流対策としては、家の守りを固めることが必要だ。

自宅を物理的に「見えやすい家」にするためには、防犯カメラを設置することが有効だ。ただし、防犯カメラはコストがかかるため、導入できない家庭も多い。

その場合には、近隣住民との連携や地域の防犯パトロールが鍵となる。

地域内での情報共有や互いに見守り合う体制を築くことで、自宅を、心理的に「見えやすい場所」にすることはできる。

特に、実行犯が犯行前に集合する「ホットスポット」の巡回は効果的だ。なぜなら、そこが、実行犯の作戦本部になっているからだ。

ホットスポットとは「犯罪が起きやすい場所」のことで、強盗の場合、「入りやすく見えにくい空き地」「入りやすく見えにくい駐車場」「入りやすく見えにくい公園」などだ。

そうした場所を重点的にパトロールすることで、実行犯にプレッシャーを与え、強盗を未然に防ぐことができる。実行犯は、別の場所で犯行に及んだ方がリスクが低いと思うからだ。

「空き巣注意」が喚起される年末年始だが、現代では、空き巣や強盗のリスクは特定の時期に限られない。特に最近では、「ピンポイント強盗」と「電縁リクルート強盗」の二極化が進んでいる。

「ピンポイント強盗」は、情報リストの入手のプロであり、「電脳アプローチ強盗」は、ネット上での物色のプロである。しかし、そのどちらも、伝統的な空き巣のような、住宅侵入のプロではない。侵入手口に関しては素人だ。

そのため、侵入の段階では、荒っぽい手口が目立つ。実行犯は、近視眼的だが行動力に富む、まるで暴力団の「鉄砲玉」のような若者なのだ。

このように、「ピンポイント強盗」や「電脳アプローチ強盗」を防ぐには、上流で情報管理を徹底し、下流では、近隣と協力して「心理的に見えやすい環境」を作ることが必要なのである。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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