都心にも多い春の妖精ツマキチョウが意外に気付かれない訳
いよいよ春本番。春の妖精「スプリングエフェメラル」と呼ばれる、春限定の可憐な蝶の季節だ。しかし都会に暮らしていると、ギフチョウなんて見かけることはまずない。そんな都市住民でも、割と簡単に目にできるありがたい妖精がツマキチョウだ。
雄の前翅の尖った先端に黄色のオシャレな紋をあしらったツマキチョウは、今頃の季節、東京都心の公園でも飛び交っている。皇居周辺や新宿御苑、小石川植物園などがお勧めのフォトスポットだ。
しかし、ツマキチョウの存在に気付く人は少ない。その理由は、①発生時期が短い②飛び方が素早い③一見モンシロチョウと見間違う(特に黄色の紋がない雌はモンシロと大差ない)④翅の裏側が迷彩柄なので翅を閉じると突然発見困難になる―などだ。
特に問題なのが④の迷彩柄だ。飛んでいる時には目立っていたツマキチョウが、草むらや生垣にとまった途端、視界から姿を消してしまうのだ。翅裏の迷彩柄は、陸軍特殊部隊の迷彩服のような役目を果たす。ツマキチョウ本人もこのカモフラージュ姿に相当な自信を持っているようで、カモフラージュ中は人が指先で触れるぐらい近づいても逃げないことが多い。
雄が翅を広げた姿はまさに春の妖精だが、この迷彩服姿にも、ミリタリーファンにはたまらない格好良さがある。
ツマキチョウの擬態はこれだけではない。幼虫も蛹も擬態が得意なので、見つけるのは結構難しい。幼虫はモンシロチョウと同様にアブラナ科の草を食べるが、葉よりも実の方が好物で、幼虫の姿はアブラナの実の細長い鞘にそっくりなのだ。幼虫を見つけたい人(あまりいないと思うが)は、アブラナの実を丹念に見て回るといい。
そしてこの幼虫が蛹になると、さらに発見が困難となる。蛹は草木の棘にそっくりの形状なのだ。最初は緑色の蛹は、やがて茶色になり、ますます見つけにくくなる。
春先にはモンシロよりツマキチョウの方が多い公園もあるのだが、これらの理由から、ツマキチョウの存在は、一般の人々には気付かれにくい。しかし「気づかれないのは、誰も関心がないから」ということであれば、虫好きとしてはちょっと悲しい。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)