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有村智恵が考える「今すべきこと」 中止続く女子ゴルフでSNSから情報発信する理由

金明昱スポーツライター
「ファンのためにも色々なことを発信していきたい」と語る有村智恵(写真/佐々木啓)

「みなさん、やっぱり暇ですか」

 3月初旬、インタビュー場所に現れた有村智恵は、開口一番、こう切り出した。

 女子ゴルフの国内ツアーは、新型コロナウイルス感染拡大により、3月の開幕戦から4試合が中止となり、第5戦目以降の開催も不透明だ。明るい話題を探すことが難しいなか、女子プロゴルファー有志が新しい試みを始めている。

 昨年末、インスタグラム「ladygo.golf」のアカウントを立ち上げたのだ。

「もっとゴルフ界を盛り上げたい」という趣旨で開設されたが、女子ツアー中止の流れで、同アカウント内に多くのプロが生配信で登場したことなどを機に、今では約1万7000人までフォロワーが増えた。

「『こういうのを待っていた』というファンの声を聞いて、始めてよかったなって思います」

 そう話すのは、アカウントを立ち上げたメンバーの一人の有村智恵。2019年からプレーヤーズ委員会(選手会のような組織)の委員長を務め、選手側の立場から女子ゴルフ界の発展に貢献しようと活動を続けてきた。

 今年も委員の一人として活動中の彼女に「ladygo.golf」の立ち上げの経緯や意義、この状況下でこれから女子プロゴルファーがすべきことなどについて聞いた。

試合の中止が続くなか、調整を続けながら、自分たちができることが何かを考えている有村(写真/佐々木啓)
試合の中止が続くなか、調整を続けながら、自分たちができることが何かを考えている有村(写真/佐々木啓)

「体と健康を第一に考えてのこと」

――国内女子ツアーが開幕戦から中止になりました。以降の試合開催も不透明な状況ですが、いまどのような思いでいますか。

 もうこればかりは何とも言えないというか……。試合ができないことで、もちろん残念な気持ちはあります。ただ、日本女子プロゴルフ協会の方や大会主催者の方が、どのような思いで中止という判断を下したのかを考えたときに、みなさんの体や健康のことを第一に考えているからこその決断だったという思いがあります。私たち選手はとにかく誰一人として体調を崩すことなく、ツアーが開幕したときに全員がそろって試合に万全の状態で、臨めるのが一番大事だと思います。それを考えていくしかないという状況ですね。

――女子ツアー開幕戦の中止をどこで、どのような状況でお聞きになりましたか?

 確か沖縄で練習をしているときに、協会からメールが届いたのと同時に、プレーヤーズ委員会のLINEで中止が発表になったことが発信されたのを確認しました。中止になると聞いたときは、本当に何ともいえない気持ちでした。ちょうどツアーの開幕がどうなるか分からないとき、協会の方々からは選手の意見を求められていました。選手はどのように思っているのか、不安なことはないか、こうしてほしいという要望はないかとか。それで私たちも色々な意見を出すなかで、総合的な判断での中止なのでしょうがないと思います。

――とにかく今は状況を見守るしかない、と

 仮に無観客で試合をしたとしても、運営側やボランティアスタッフ、メディアなどを含めると、少なからず数百人規模の人が必ず集まらなければなりません。それがどれぐらい影響があるのかは正直、読めませんし、難しい判断になりますよね。試合をしてほしい、という言葉は安易に発することはできません。

「ファンに向けて楽しいことをやろう」

――そんな中で有村選手をはじめ有志で昨年末、インスタグラム「ladygo.golf」を立ち上げました。今では約1万7000人までフォロワーが増えましたが、きっかけはなんだったんでしょうか?

 これは数人の選手たちに声をかけて始めたものですが、私がきっかけというよりも、以前から選手同士で「何か面白いことやりたいね」と常々話し合っていたんです。今年は女子ツアーの開催もいつになるかわからないので、「ファンに向けて楽しいことをやろう」となり、様々な企画を考えていました。そもそもは私たちも楽しめて、ファン、スポンサー、協会の方もみんなに喜んでもらえるアカウントにしたいというのが一番でした。ファンやスポンサーなど、何か一方に偏る目線にならないように、バランスをすごく大事にしたいなと思っています。話をさかのぼると、私がアメリカの女子ツアーに行っていたときに感じたSNSの使い方がおもしろいなと思ったことも影響が大きいです。

インスタライブに渋野日向子の登場で一気にファンが集まり、「さすがの人気ぶりに驚いた」という有村(写真はインスタグラム「ladygo.golf」より)
インスタライブに渋野日向子の登場で一気にファンが集まり、「さすがの人気ぶりに驚いた」という有村(写真はインスタグラム「ladygo.golf」より)

――アメリカの女子ツアーでインスタグラムやツイッターなどのSNSはどのように使われているのでしょうか?

 私がすごく面白いなと思ったのは、例えば「ずっと携帯をいじっている選手は誰?」とか「一番体を鍛えているのは誰?」などの質問をして、選手のパーソナリティーにフィーチャーさせたコーナーです。実際に選手の意外な一面が知れるので、より親近感がわきます。日本では試合で結果が出ないとなかなか取り上げてもらえないので、メディアに出ない選手でもこういう面白い選手がいるんだよとか、こういう特技を持った選手がいるんだよというのを知ってもらいたいなと感じます。逆にトップのポジションで戦っている選手たちも、実はこういう面があるんですという人間性を見せられる発信ができればいいなと。

――「ladygo.golf」では「入場曲を選ぶとしたら?」とたくさんの選手に聞くコーナーがありましたが、選手同士だからこそできる面白い試みですね。

 かなり意外な答えが多くて、私も楽しかったです。選手側の目線としては、プレーヤーの良さをもっと知ってもらいたいという気持ちがあります。

――いま女子ゴルフ界では人気の渋野日向子選手もインスタライブで登場していました。反響はかなり大きかったのでは?

 ものすごい反響でした(笑)。ライブ配信をリアルタイムで見ている人がそれまでは数百人だったのですが、渋野さんが登場して2500人を超えていました。その時点でトータルの閲覧者は2万人を超えていました。そのときまだフォロワーが1万2000人ぐらいだったので、それをもはるかに超えてきたので驚きました(笑)。私たちも何か好きになっちゃうような選手なので、彼女の魅力をどんどん伝えていきたいです。ゴルフファンの方にも末永く、女子ゴルフを応援していただけるようにしたいですし、渋野さんをきっかけにゴルフを知ってくださった方にもずっと長く楽しんでもらえたらなと思っています。

「選手たちには様々な企画に参加してもらっている」(有村)という。(写真はインスタグラム「ladygo.golf」より)
「選手たちには様々な企画に参加してもらっている」(有村)という。(写真はインスタグラム「ladygo.golf」より)

「こういうのを求めていた」のリアルな声

――ファンの反響を見ながら、新たな発見はありましたか?

 ファンの反応がすごく面白いんです。私は個人でSNSをやっていたので、自分のファンの方々のコメントはよく見ますけど、いろんな選手に対する感想が見られるのがとても新鮮です。この選手はこういうイメージで見られているのかとか、この選手の場合はこういうコメントになるのかとか。毎回、新しい発見があります。あと、すごく嬉しかったのは「こういうのを本当に求めていた」というようなみなさんの声。「コンテンツとして面白い」とか、「ますます女子ゴルフを見に行きたくなった」という声があり、やってよかったと思いました。

――今後、どのような企画を準備していますか?

 これからが課題ですね。試合が始まった場合、みんなが忙しくなります。私たちも発信できる内容も限られてきますし、動けることも限られていくので、逆にこういうのが見たいという声をどんどん頂けたらいいなと思います。逆にその試合を開催しているスポンサーさんたちからもこういうのを載せてほしいというのがあれば、それも大歓迎です。ゴルフ界全体で楽しんでもらい、いい方向に使ってもらえるアカウントであればいいなと思います。

――試合開催の目途が立たない状況下で、女子プロゴルファーとして、今すべきことは何でしょうか?

 私の場合は自分自身がまず、体調を崩さないようにすることが一番大事なことですね。それに加えて、ゴルフの調子を保ち続けること。来週には開幕します、と言われたらすぐに対応できるように。常にそういう準備はしておかなければいけないので、その2つですね。

――最後にファンへのメッセージを。

 今は試合の中止が続いている状況なので、ファンの方も楽しみにしてくださっている中、何もお届けできないというのが残念です。でも、こうしたアカウントから、選手同士の発信を少しでも楽しんでいただけたらいいなと思いますし、女子ゴルフをファンの方にはこれからもっと盛り上げてほしいです。

いつ試合が開催されるか分からない中、「自分自身がまず、体調を崩さないようにすることが一番大事」と話す。(写真/佐々木啓)
いつ試合が開催されるか分からない中、「自分自身がまず、体調を崩さないようにすることが一番大事」と話す。(写真/佐々木啓)

有村智恵(ありむら・ちえ)/1987年、熊本県生まれ。東北高校を経て、2006年のプロテストでトップ合格。08年「プロミスレディスゴルフトーナメント」で初優勝。09年は年間5勝して賞金ランキング3位に。12年まで国内女子ツアーで通算13勝をマーク。13年から米女子ツアーに本格参戦。16年途中から日本ツアーに復帰。18年の「サマンサタバサガールズコレクション・レディーストーナメント」で6年ぶりの優勝を果たし、賞金シードに復活。19年は日本女子プロゴルフ協会の選手会にあたる「プレーヤーズ委員会」の委員長を務めた。日本HP所属。

【取材協力】/五反田 馬ブル

東京都品川区西五反田2-5-8 野津ビル 5F

03-6420-3819

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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