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白石阿島、16歳。シニア大会デビュー戦のW杯で見せた煌めく才能の可能性[クライマーズファイル]

津金壱郎フリーランスライター&編集者
白石阿島 Photo: Eddie Fowke / IFSC.

スポーツクライミングの最高峰の舞台ワールドカップ。この週末にイタリア・アルコで開催されたリード種目でWCデビューを果たした白石阿島(シライシアシマ)が、予選、準決勝の熾烈な争いを勝ち抜いてファイナルへと駒を進めた。デビュー戦で5位入賞した阿島が、これから世界最高の舞台で頂点を狙うための武器と課題を探る

身長155cmをハンデに感じさせない多彩なムーブで世界トップに迫った阿島

運も味方につけて準決勝を突破

 名前は知っていても、これまで彼女がクライミングする姿を観たことのなかった人も多かったのではないだろうか。

 8月25日、26日にイタリアで開催されたリード・ワールドカップ・アルコ大会で、シニア大会のデビュー戦に臨んだ白石阿島が5位という好成績をおさめた。白石阿島についてはこちらの記事を参照

 阿島は出場全選手が同一の課題を2本登る予選で9位になり、上位26名で争う準決勝に駒を進めた。準決勝は18番目に競技エリアに登場し、やや重めな動きで高度を稼いでいく。

 25手目、26手目で長めにレスト(休憩)し、腰につけた時計を確認。息を整えると再び登りだし、丁寧に27手目を左手でとって確保支点から下がるクイックドローにロープをクリップした。

 だが、そのまま右手を28手目には伸ばさず、再び25手目、26手目に戻ってチョークアップ(すべり止めをつけること)。そして、再度ムーブを起こして28手目を保持したものの、直後に力尽きて落下した。

 この時点で2位。出番を控える予選成績で阿島よりも上位だった8選手のうち2選手が、28手目より低い位置で終わらないと、8名が進める決勝戦に残れないという苦しい状況になった。

 ひとりが阿島よりも低い場所で落ちた後、2選手が続けて阿島を上回っていく。この時点で4位、残るは5選手。ここで登場したのが昨季は年間5位で、2011年、2012年、2015年にリード年間女王になったミナ・マルコヴィッチ(スロベニア)。

 今季もここまで年間5位につける元女王は、軽快にスタートを切る。しかし、予期せぬ場所でつまずく。16手目へのムーブに迷って立ち往生し、解決策を見出せぬまま動き出して落下。ミナのまさかの結末もあって、阿島はギリギリ8位で決勝進出を決めた。

アルコ大会・準決勝

阿島のアテンプトは1:29:30頃に始まる

 トップバッターで競技を開始した決勝戦は、準決勝で多少見られた硬さも取れ、自分のペースでスムーズに課題の中間部まで登っていった。そして、課題の核心部となったセクションで、体の振られに耐えるフィジカルの強さを見せたものの、伸ばした右手が次の33手目のホールドに届かずにフォールとなった。

 ただ、このセクションを後続のほとんどの選手も攻略できず、超えられたのはわずか2選手のみ。阿島が落ちた高度で3選手が並び、準決勝の成績によって5位となったが、阿島は初めてのシニア大会で世界トップレベルの選手たちと互角に渡り合えることを証明した。

プロクライミングコーチが見る阿島の特長とは

 その阿島のクライミングの特長を、多くの日本代表選手を指導し、7月には来日した阿島を指導したプロクライミングコーチの伊東秀和氏は次のように解説する。

「スムーズで動きの柔らかさが特徴的ですね。体の柔軟性も高く、ムーブの引き出しが多いことで、現場での対応力が高い」

 ムーブの引き出しとは次のホールドを取るための動きにバリエーションが豊富なこと。選手はトレーニングで様々な動き方を練習するが、試合になると得意にする動きに頼り、それ以外の動きを瞬時に出せないタイプもいる。

 リード種目は制限時間6分以内(準決・決勝)でトライできる回数は1度のみ。選手は事前にルートを下見(オブザベーション)し、出番を待つ間に登るための手順や体の使い方などのイメージを膨らます。

 しかし、実際に登りだしてみたら、想定していたよりもホールドが持ちにくいといった事態に直面する。そのときにムーブの引き出しが多いと、現場で瞬時に別の登り方に切り替えることができる。

 さらに伊東氏は、「ホールドをとるときの体のポジションが良く、ブレが少ないことで持久力も高い」と、初参戦のシニア大会でも上位の成績を残せた要因をあげる。

 前腕に頼らない登りがどれだけできるかが順位につながるリード種目で、阿島は155cmと決して大きいとは言えない体を上手に使って、安定したポジションでホールドをとることで指や前腕への負荷を少なくしている。これまでの日々で体に染み込ませてきたそうしたムーブが、デビュー戦での好成績につながった。

リードWCアルコ大会 決勝ハイライト

最高峰の舞台で表彰台の中央に立つための課題

 一方で、シニア大会の経験がなかったことによる課題もあった。阿島は準決勝で28手目をとった次のムーブが出せず、元の場所に戻ろうとした瞬間にフォールした。

 だが、ほかの上位陣はそこが勝負所と判断し、目の前のクイックドローにロープを通さずに28手目をとったら次のホールドに向けてムーブを起こした。

 リード種目においてホールドを持った後に、次のホールドに向けて重心移動をともなうムーブをしたら「プラス」の判定がつく(体を動かさずに腕だけ伸ばしてもプラス判定にはならない)。そして、この「プラス」の有無が順位を大きくわける。

 ほかの選手たちが27手目以降を勝負所と判断できたのは、彼女たちがシニア大会における序列のなかで自分の実力がどの位置にあるかを知っていたからだ。

 出番を待つ間はほかの選手の登りを見られない。歓声とライバルの力量、そして実際に登りだしてからの「ここでこんなにキツイなら、ほかの選手も苦労したはず」といった判断をして勝負所を嗅ぎ分けていく。

 そうした顕著なシーンが1大会前のフランス・ブリアンソン大会であった。優勝したヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)と2位になったアナク・ヴァーホーヴェン(ベルギー)との差をわけたのが勝負勘。クリップしてから次のムーブへ入ったアナクに対し、ヤーニャはクリップをしないことを選んで勝負をかけて手数を稼いで勝利を引き寄せた。

 今大会はミナのまさかの落下という運が味方したが、こうした経験則がない阿島にとって、次戦以降にアルコで得た情報と経験をどれだけ競技中に生かせるかが、さらなる飛躍のカギになるだろう。

リードWC第3戦ブリアンソン大会・決勝

47:30からアナーク、ヤーニャと続けて登場する

阿島が再び世界最高峰に挑む日はいつ? 

 気になる阿島の今シーズンの次戦は、8月30日からオーストリア・インスブルックで開催される世界ユース選手権。ユースAのカテゴリーに出場し、同世代との争いでリードとボルダーのダブル3連覇を狙う。

 リードWCの出場についてはIFSCチャンネルでのインタビューに「エディンバラと中国」と阿島は答えている。

 スコットランドの首都エディンバラでのリードWC第5戦は、9月23・24日に開催される。中国でのリードWCは、10月7・8日の呉江区大会と、10月14・15日の廈門市大会の2試合ある。再びトップクラスの選手たちのなかで阿島が躍動する姿を見られるのを楽しみにしたい。

子どもにサインをする阿島。Photo: Eddie Fowke / IFSC.
子どもにサインをする阿島。Photo: Eddie Fowke / IFSC.

呆気にとられる波乱が続出したアルコ大会

 シニア大会デビュー戦という阿島の注目度が高かった今大会だが、男女ともに予期せぬ結末が続出した。

 女子は開幕4連勝を狙ったヤーニャが、決勝で阿島と同じセクションでまさかのフォール。準決勝の成績の差でかろうじて表彰台は守ったが、開幕からの連勝は昨年同様に3でストップした。

 優勝したのは元女王キム・ジャイン(韓国)。33手目の厳しいセクションを、身長153cmの体を上手に使って切り抜けた。制限時間に達して完登こそ逃したものの、2015年10月の中国・呉江区大会以来となる12大会ぶりの表彰台の中央で笑顔を咲かせた。

 男子はオーストリアのヤコブ・シューベルトが優勝。2位にアダム・オンドラ(チェコ)、3位にマックス・ルディジェ(オーストリア)。準決勝で圧倒的な高度を獲得してトップ通過したアレックス・メゴスは、決勝課題でほかの選手がクリアした人工壁が直角に曲がる左面から右面へと移るジャンプセクションでまさかの落下、8位に終わった。

 日本勢も健闘が光った。是永敬一郎は2位になった第2戦シャモニー大会以来の決勝進出で5位。ボルダリングWCで個人年間8位になった緒方良行は、自身初のリードWCで準決勝、決勝と粘り強さを発揮して4位になった。

リードWCアルコ大会結果

《女子》

1キム・ジャイン(韓国)

2アナ-ソフィ・コレル(スイス)

3ヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)

4ジュリア・シャノーディ(フランス)

5白石阿島(アメリカ)

6アナク・ヴァーホーヴェン(ベルギー)

7ジェシカ・ピルツ(オーストリア)

8モーリー・トンプソン-スミス(イギリス)

………………………

14大田理裟(24歳)準決勝敗退

26義村 萌(20歳)準決勝敗退

42戸田萌希(18歳)

45森脇ほの佳(17歳)

《男子》

1ヤコブ・シューベルト(オーストリア)

2アダム・オンドラ(チェコ)

3マックス・ルディジェ(オーストリア)

4緒方良行(20歳)

5是永敬一郎(21歳)

6トーマス・ヨハネス(フランス)

7ハンネス・プーマン(スウェーデン)

8アレックス・メゴス(ドイツ)

………………………

11樋口純裕(24歳)準決勝敗退

23波田悠基(20歳)準決勝敗退

25野村真一郎(20歳)準決勝敗退

26島谷尚季(20歳)準決勝敗退

27清水裕登(24歳)

43沼尻拓磨(24歳)

伊東秀和(いとう・ひでかず)

1976年8月8日生まれ、千葉県出身。

 20歳から本格的に競技を始め、2002年にリード・ジャパンカップで優勝。2003年リード・ジャパンツアーの年間王者になるなど国内第一人者として活躍。リードWCには2004年から出場し、2005年にチューリッヒ大会で12位の成績をおさめた。

 現在はクライミングスクールを立ち上げて、ジュニア・アスリートからクライミング愛好者まで幅広く指導。解説者やルートセッターとしても活動している。伊東秀和氏のHP

フリーランスライター&編集者

出版社で雑誌、MOOKなどの編集者を経て、フリーランスのライター・編集者として活動。最近はスポーツクライミングの記事を雑誌やWeb媒体に寄稿している。氷と岩を嗜み、夏山登山とカレーライスが苦手。

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