原発事故後、無人となった町にひとり残った男性との日々。区切りとなる完結編に向けて #知り続ける
![](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mizukamikenji/00285906/title-1646950485917.jpeg?exp=10800)
少し前の話になってしまうが、昨秋に開催された<第34回東京国際映画祭>で、個人的に気になる日本人女性監督が何人かいた。
そのひとりが、Nippon Cinema Now 部門に「親密な他人」を出品していた中村真夕監督だ。
中村監督は、2011年の「孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜」を皮切りに、2015年の「ナオトひとりっきり」、2020年の「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」など、主にドキュメンタリー映画を発表してきた。
ドキュメンタリー映画作家の印象を抱いている人も少なくないに違いない。
その中で、デビュー作「ハリヨの夏」以来になる劇映画「親密な他人」を発表。
また、東京国際映画祭(TIFF)併設ビジネス・コンテンツマーケットとして実施されていた<TIFFCOM>のMPA/DHU/TIFFCOMピッチコンテストにおいては、中村監督の企画「ボクとワタシと、僕の彼女」がMPA Grand Prizeに輝いた。
さらに、東京国際映画祭の前には、10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭(※今年はオンライン開催)に「ナオトひとりっきり」の続編になる「ナオト、いまもひとりっきり2020(仮)」で参加。
その最終章と予定される「劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編」も現在制作進行中である。
今年、いろいろと動きがありそうな中村監督に東京国際映画祭時に話を訊くインタビュー(第一回・第二回)の第三回へ。(全三回)
最後は、現在制作進行中の「劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編」について訊いた。
2011年の福島第一原子力発電所事故後、無人地帯となった町に残り、
置き去りにされた動物たちの世話をしながらひとり暮らす松村直登さんに密着
まず、「ナオトひとりっきり」は、 2011年の福島第一原子力発電所事故後に無人地帯となった町に残り、置き去りにされた動物たちの世話をしながらひとり暮らす松村直登さんに密着したドキュメンタリー映画。
2015年に第一弾となる「ナオトひとりっきり」を発表。その続編にあたる「ナオト、いまもひとりっきり2020(仮)」を昨年発表している。
そして、最終章となる「劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編」が現在制作進行中となる。
完結編の前段となる「ナオト、いまもひとりっきり2020(仮)」だが、実は現在の段階ではオンラインでの配信のみ。
その経緯を中村監督はこう明かす。
「『ナオトひとりっきり』に関しては、2015年に作品を発表して以降も、毎年、ナオトさんのところに通い続けて、いまも撮影を継続しています。
その中で、昨年、震災から10年を迎えて、ひとつの節目ですし、なにか発表しないといけないのではないかと当初考えていました。
ただ、プロデューサーのほうから助言が入ったんです。
『震災から10年ということでおそらくいろいろと関連した作品が発表される。そこに無理に合わせる必要はない。『復興五輪』と銘打たれた東京オリンピックが終わるまでをひとつの区切りしたほうがいいのでは』と。
確かにわたしの中にも、オリンピック後を危惧する気持ちがありました。
震災10年と復興五輪ということをひとつの節目にしてしまって、そこから一気に震災や原発について報じることや伝えることが激減するのではないかと。
それでなくても年を追うごとに、東日本大震災や福島の原発事故の記憶が薄らいでいる。
仕方ないことかもしれないですけど、風化が一気に進行している気がしてならない。
それで、東京オリンピックまでをひとつの区切りにして、作品としてまとめようと思いました。
現在制作進行中の『劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編』がそれにあたります。
ただ、いまも続いていますけど、一昨年のコロナ禍で、もう忘れられているところがありますけどひとつ逆転現象が起こりました。
原発事故で福島の方々が避難生活を余儀なくされたとき、東京をはじめとした各地で『こちらに来られるのは迷惑』といった差別が起きました。
対して、今回のコロナ禍では、『東京から来られるのはいい迷惑』という立場が逆転することが起きた。
それこそ一昨年の7月ぐらい、東京の雰囲気を色で表すとグレーで、どんより雲がかかったような状況で。
なんともいえない閉そく感がただよっていた。
そのなんともいえない閉そく感が昨年も継続されていた。
さらに、世界的なパンデミックでフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションができないことになり、人間関係が少なからず変化したところがある。
このタイミングで改めて福島と向き合うことでいろいろと日本の社会が見えてくるところがあるのではないか。
そう思って昨年、基本的には配信のみの作品として発表したのが『ナオト、いまもひとりっきり2020(仮)』になります」
![「ナオト、いまもひとりっきり2020(仮)」より](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mizukamikenji/00285906/image-1646963351014.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
ひとつの節目に当たり、わたしがどう向き合い続けたのかを、
きちんと出したほうがいいのではないか
同作は昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭「ともにある2021」部門でも上映。そこでも反響を呼んだ。
それに続く「劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編」は、どんな作品になり、どんな完結を迎えるのか?
「まだなんとも言えないんですけど、今回の作品を作るにあたって、ひとつ自分の意識としても、立ち位置としても大きく変えたことがあるんです。
8年以上、ナオトさんと対話を重ねてきたんですけど、自分がカメラを回していることもあって、わたし自身は一度も映っていない。
そこにはわたし自身の中に、『作り手が顔を出す必要はない』という気持ちもあった。あくまでナオトさんのことを伝えることが主体にあるので、自分は存在を消したほうがいいと思っていました。
ただ、今回は、ひとつ完結ということで、もちろんナオトさんがメインではあるんですけど、ひとつの節目に当たり、わたしがどう向き合い続けたのかを、きちんと出したほうがいいのではないかなと。
なので、おそらくわたし自身も前面に出るのではないかと思っています。
ある意味、わたしがどうナオトさんと時を共有して何を考え、何を思ったのか描かないとと思っています」
今年は、「親密な他人」「劇場版ナオト、いまもひとりっきり2022完結編」に続き、「ワタシの中の彼女(仮)」の公開も予定。
コロナ禍で精力的に作品を発表することになりそうだ。
「劇映画長編第2作が届いたと思ったら、もう3作目も控えていて、みなさんびっくりすると思います。
最初に言いましたけど、わたしはピンチはチャンスと思う性格で、逆境になればなるほど燃える(笑)。
コロナ禍で立ち止まってばかりいられないと思って、いろいろと企画を推し進めていたら、たまたまこうして今年3本の新作を届けることになったんですよね。
矢継ぎ早にお届けすることになるんですけど、まずは劇映画『親密な他人』(※現在公開中)に注目していただけたらうれしいです」
![「親密な他人」より (C) 2021 シグロ/Omphalos Pictures](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/mizukamikenji/00285906/image-1646952573898.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
「親密な他人」
監督:中村真夕
出演:黒沢あすか、神尾楓珠
ユーロスペースほかにて全国公開中
※<第34回東京国際映画祭>「親密な他人」Q&Aの写真は、(C)Tokyo International Film Festival All Rights Reserved.