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ハリウッド史に残る名作が「久々の復活」なぜ続く。偶然? 今だからこその意味が?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『マトリックス レザレクションズ』

ハリウッド映画がシリーズものに頼る。それは今に始まったことではない。

しかし2021年の日本での洋画ヒット作、2トップを振り返っても、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』と『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と、それぞれシリーズ9作目、25作目。3番手の『ゴジラvsコング』もある意味でシリーズ。“有名タイトル”に頼りきった興行になっているのは明らかだ。

これら3作は定期的に新作が公開され、継続的に愛されているシリーズでもある。観客の次作への期待感を高め、興行も安定、あるいは上昇という好循環の流れにある。しかし、この年末から来年にかけて、単にシリーズものではなく、「メジャータイトルの復活」というケースが相次ぐ。誰もが知っているタイトル、あるいはシリーズが、長いブランクを経て新作を公開……という、ちょっと特殊な様相を呈している。

『マトリックス』『トップガン』とメジャータイトルが次々と…

そのオリジナル・タイトルを挙げると『マトリックス』『ゴーストバスターズ』『トップガン』『ウエスト・サイド物語』と、まさしく映画史に名を刻んだ名作、大ヒット作ばかり。映画ファンならずとも、その新作には何がしかの期待を高めているだろう。一方で、これらの作品が「久しぶり」の復活なので、まったく親しみのない世代も増えている。

直近のシリーズ作、およびオリジナル作品とのインターバルは次のとおり。

マトリックス18年ぶり

ゴーストバスターズ5年ぶり(正統な続きとしては32年ぶり)

トップガン36年ぶり

ウエスト・サイド物語60年ぶり

このうち公開が迫っているのが『マトリックス』だ。1999年〜2003年にかけて公開された前3部作は、映像もアクションも、そしてテーマも革新的で、18年を経た新作『マトリックス レザレクションズ』(12/17公開)が、どのようにアップデートされて驚かせてくれるのか、期待も高まっている。

1999年。全世界に衝撃を与えた『マトリックス』1作目の撮影風景より。
1999年。全世界に衝撃を与えた『マトリックス』1作目の撮影風景より。提供:Warner Bros./ロイター/アフロ

18年というタイムラグがあるものの、その後、伝説の作品として新たに出合った人も多い。「ワイスピ」や「007」のような継続的シリーズの新作ではない場合、どのように観客にアプローチして、ヒットをめざすのか。新規のタイトルの場合、認知度を上げるだけで、お金と労力が想像以上にかかり、「その段階をクリアできる作品はありがたい」という声は、宣伝の現場からも聞こえてくるが……。

『マトリックス レザレクションズ』を担当するワーナー ブラザース ジャパンの宣伝プロデューサー、遠藤正広氏は次のように語る。

「超有名なタイトルで、『マトリックス』と聞けば誰もがあの“マトリックス避(よ)け”を思い浮かべるほど浸透し、認知度が高いメリットがあります。リアルタイムで『マトリックス』を観ている40代以上の人たちの鑑賞意欲はとても高いので、若い人たちに観てもらえる宣伝を心がけています」

リアルタイムで“観ていなかった”層を、いかに劇場へ呼び込むことができるのか。たしかにその層は、DVDや配信などで『マトリックス』3部作を観ているわけで、この新作のためにどこまで劇場へ足を運ぶかは未知数だ。しかし同時に、『マトリックス レザレクションズ』のような作品は、明らかに劇場のスクリーンで体感したい、と考える人は多数。配信の活況などで、より「劇場で観るべき作品」の意味が重視される時代でもある。この配信との関係について、遠藤氏はこのような点を指摘する。

「『マトリックス レザレクションズ』の予告編が解禁され、話題になった直後に、Netflixでは『マトリックス』が人気急上昇中の作品に入ったりしました。そうしたアクセスのしやすさは実感しています」

人気シリーズの場合、配信によって過去の作品が観やすくなったメリットは当然、ある。また、最新作を観てから初期の作品を振り返ることも、以前よりラクになってきた。劇場公開と配信の関係がWinWinになっていきたい。そうしたハリウッドのスタジオの思惑も、メジャータイトル優先の製作傾向に拍車をかけているようだ。

そして長いブランクは一見、デメリットのようで、作品に厚みをもたらすことにもなる。『マトリックス レザレクションズ』では、『マトリックス』3部作の映像も使おうと思えば使えるわけで、その世界観の広がり、および時間の経過を実感させ、このシリーズの偉大さを証明する。同じく『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(来年2/4公開)では、シリーズ最初の2作、1984年の『ゴーストバスターズ』、1989年の『ゴーストバスターズ2』とのリンクが、作品の重要テーマとなる(2016年の『ゴーストバスターズ』はスピンオフという扱い)。前2作のアイヴァン・ライトマン監督の息子、ジェイソン・ライトマンが今回、監督を務めたこともあって、「32年ぶりのドラマ」が大きく意味をもっているのである。

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の主人公はフィービーという少女。このメガネ姿で思い出すのは……。
『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の主人公はフィービーという少女。このメガネ姿で思い出すのは……。

『トップガン』の場合も、主人公のピート(劇中のコールサイン:マーヴェリック)が、そのまま歳を重ね、同じトム・クルーズが演じて『トップガン マーヴェリック』(来年5/27公開)で36年ぶりに復活するわけで、映画の歴史、時間の流れが体感できる。

トム・クルーズ以上に驚くのは、1961年の『ウエスト・サイド物語』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したリタ・モレノが、60年ぶりの『ウエスト・サイド・ストーリー』に出演したことである(演じた役は異なる)。

60年前の作品が、いま語られることの意味

この『ウエスト・サイド・ストーリー』も、かなり異例の“復活”となる。アカデミー賞で作品賞など10部門受賞の、名作中の名作。しかし60年前ということで、『マトリックス』や『ゴーストバスターズ』、『トップガン』と比べると、“伝説すぎて”若い世代の関心の薄さは避けられない。「いや、スティーヴン・スピルバーグが監督するから」と言う人もいるが、そのスピルバーグ自体も、かつてのように名前で作品をヒットさせる存在ではなくなった。

「若年層にはスピルバーグ作品や、監督自身を知らない方もいます。逆に監督の偉大さを十分すぎるほど認知している層も多くいます。洋画であれ、邦画であれ、監督の知名度があれば作品を多くの方に観ていただけるという時代ではありません」と、冷静に分析するのは、『ウエスト・サイド・ストーリー』を配給するウォルト・ディズニー・ジャパンの宣伝担当者だ。

しかし同時に、スピルバーグが、映画史に名を残す名作を今なぜ復活させたのか、そこには大きな意味があると、同担当者は続ける。

「『ウエスト・サイド・ストーリー』は1957年に(舞台版として)製作され、『異なる立場を超えて、私たちは手を取り合うことができるのか?』というメッセージが込められました。スピルバーグ監督自身、1957年よりも今の時代のほうが社会の分断は進んでいると語っています。(日本では)多くの方が自国でのオリンピックを経験し、多様性といったテーマを身近に感じる今だからこそ、そのテーマを最高のエンターテインメントとして楽しんでほしいのです」

『ウエスト・サイド・ストーリー』
『ウエスト・サイド・ストーリー』

この点は『マトリックス レザレクションズ』も似ており、コンピュータに支配される人間という同シリーズのテーマが、SNS、仮想空間、フェイクニュース、AI(人工知能)などがより日常的になった2021年、新作が持つ意味は大きくなりそうだ。

“ネタ枯れ”と言っていいのか、それとも?

また、コロナによって、とくにシニア世代がなかなか映画館に戻ってない現状を、こうしたビッグタイトルが起爆剤として打破するのではないか。「映画館から足が遠のいてしまった方々が、再び映画館に戻って来られるきっかけになれば」と、『ウエスト・サイド・ストーリー』の宣伝担当者は希望を託す。映画興行、とくに洋画の場合、とりあえず今は、観客の意識を変えるうえで、シリーズもの、メジャータイトルはカンフル剤としてしばらく有効になる、というか、頼らざるを得ないのだろう。

このような状況を見る限り、ハリウッドの“ネタ枯れ”と感じる人も多いかもしれない。作品を売る側にも、巨大な映画帝国のアイデア不足のジレンマを感じるのではないか。しかしこの点について、前出のワーナーの遠藤氏は、こう言い切る。

「過去の人気作であろうとなかろうと、面白い映画が作られることを望んでいます

それは観客にとっても同じことである。メジャータイトルの復活作は、どの程度、今の観客にとって面白くなっているのか。そして、どこまで求められているのか。こうして連続する公開によって、その結果は検証されていく。

『トップガン マーヴェリック』では、マーヴェリックが教官となっているが、トム・クルーズは自ら飛行シーンに挑むなど36年経っても全開の大活躍!
『トップガン マーヴェリック』では、マーヴェリックが教官となっているが、トム・クルーズは自ら飛行シーンに挑むなど36年経っても全開の大活躍!

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

『マトリックス レザレクションズ』

12月17日(金)全国公開 配給:ワーナー・ブラザース

(c) 2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』

2022年2月4日(金)全国公開 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『ウエスト・サイド・ストーリー』

2022年2月11日(祝・金)全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(c) 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『トップガン マーヴェリック』

2022年5月27日(金)全国公開 配給:東和ピクチャーズ

(c) 2021 PARAMOUNT PICTURES. CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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