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アロノフスキーもラッセル・クロウも緊急来日!『ノア 約束の舟』“乗船”日誌

杉谷伸子映画ライター

『ブラック・スワン』でナタリー・ポートマンにオスカーをもたらしたダーレン・アロノフスキー監督の最新作『ノア 約束の舟』。旧約聖書の「創世記」に登場する「ノアの箱舟」を斬新な視点と壮大なスケールで描きだした話題作は、ラッセル・クロウ主演作としては最大のヒット作となった。壮大なスペクタクルでありながら、神の声を実現するために次第に狂気にも似た世界へはまり込んでいくノアをはじめ、人間の業の深さを濃厚に描き出すあたりはアロノフスキーならでは。その日本公開を6月13日に控え、アロノフスキーとラッセル・クロウが立て続けに緊急来日。人間の業もしっかり描き出した知性派監督とワイルドな主演男優は、作品のみならず製作裏話も満喫させてくれた。

壮大なスペクタクルと人間ドラマに息を飲む!

5月13日(火)『ノア 約束の舟』完成披露試写会@TOHOシネマズ日本橋

せっかくだからこの試写室ではなくドルビーアトモスで観たくて出かける予定にしていた完成披露試写会に、ダーレン・アロノフスキー監督が急遽登壇することに。舞台挨拶程度かと思っていたら、髪をパンクな紫に染めていたのに取材陣の誰もそれに触れてくれなかったという初来日時のエピソードまで飛び出す、充実のひとときに。

なぜ、今、ノアの箱舟の物語を映画化するのかと問われたアロノフスキー。

「自分が聖書を読んだときはノアの箱舟の物語が実際に起きたことかどうかにはとらわれず、偉大な詩としてとらえた。ギリシア神話のような存在としてとらえたときに、すべての人たちのものだ。ここに含まれる多くのテーマは現代に通じるものであり、自分自身に照らし合わせていろんなことを考えられる作品になっている」とコメント。

ええ、私は「神の声に従うのではない、自分の意志で生きるのが人間だ」というカインの末裔トバル・カイン(トム・ウィルキンソン)の台詞にこの作品の最大のテーマが託されていると感じました。「肉食は悪だ」というノアの台詞もありますが、ちなみにアロノフスキーはベジタリアン。そのへんにもメッセージが込められていますよね。

国連のコンテストで優勝していたアロノフスキー少年

5月14日(水)ダーレン・アロノフスキー監督来日記者会見

「13歳のときにノアについて詩を書き、コンテストで賞をもらったときから、この物語は始まっていた」と舞台挨拶で語っていたアロノフスキー。実はそのスタートからして才能を感じさせるものだった。

「学校の授業で平和についての詩が課題になり、私はノアと箱舟の話を詩にしました。それを国連のコンテストに提出したところ、優勝したんです。ですから、私は国連で自分の書いた詩を朗読するというチャンスに恵まれました。それがきっかけで、私はストーリーテラーになろうと決めました」

まさに栴檀は双葉より芳し。そして、生徒の才能を伸ばしてくれる教師との出逢いがいかに大切かもうかがえるエピソードでもある。本作の撮影にあたってアロノフスキーはこの恩師と再会。恩師はラッセル・クロウと共演することに。「ノアが街を彷徨うシーンですれ違う片目が潰れた老婆と、ノアの夢の中に出てくる死体を演じてもらっているんです」と、本編がより楽しめるポイントを教えてくれた。何も知らずに観ても、この老婆はとても印象に残るのはそういう理由があったんですね。

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建造に6か月かかったという巨大な箱舟も本作の大きな見どころだが、使用した大量の木材は「エコロジカルとか自然に対するメッセージもこの映画には含まれてますので、全部リサイクルしました」とのこと。大量といえば、大洪水をもたらす雨のシーンに使われた水の量も破格。本作のために製作された降水機は、1分間に5000ガロン(約19000リットル)の雨を降らせることが可能という。「それもリサイクルして使いましたよ」と笑顔で話すアロノフスキーだったが、その“雨”が俳優たちには想像を絶する過酷なものだったことはラッセル・クロウによって明らかになるのだった。

自由で豪快、ラッセルらしさ全開のファンとのひととき

5月19日(月)ラッセル・クロウ舞台挨拶『ノア 約束の舟』スペシャル上映会@TOHOシネマズ六本木ヒルズ

アロノフスキーの来日も緊急だったが、カンヌ国際映画祭に参加したあとラッセル・クロウも緊急来日。シリアスで重厚な役柄がハマるラッセルだが、ラッセル自身は豪快でいながらユーモアもたっぷりのキュートな人柄。そんな生ラッセルを拝める機会を逃すわけにはいかない! そして、オスカー俳優は舞台挨拶でもファンとマスコミの期待をはるかに超えるものを見せてくれたのだった。

「コンニチハ、トーキョー」と登場したラッセル。「みなさん、来てくださってどうもありがとうございます。特にその帽子をかぶった人たち」と挨拶。そして、この“帽子をかぶった人たち”が本日の会見を盛り上げてくれることになる。

熱心なファンに向ける眼差しが温かい。
熱心なファンに向ける眼差しが温かい。

MCからの役作りについての質問に、ラッセルは「今9個ぐらい質問されませんでした?」とのっけからユーモア全開。ノア役のオファーを光栄に思ったものの、撮影が始まってすぐに役を引き受けた自分を呪ったそう。その理由は、そう、アロノフスキーも自負していたアレ。

「The rain…」とあの渋い声でタメをきかせる。「1日12時間の撮影でロングアイランドの冬の水だから、凍りつくようだった。ニューヨークであるインタビューを受けたとき、ダーレンが先にその記者のインタビューを受けていて、水は温めて使っていると彼に話してたんだ。それはまったくの嘘だからって教えたよ。みなさん、ダーレン・アロノフスキーのこと知ってますよね? インディペンデント系映画出身の彼が、水を温めるために1セントだって使おうとするはずがない(笑)」

実力派揃いのキャストによるノアと家族たちの葛藤も本作の大きな魅力。養女役のエマ・ワトソンとは初共演だが、エマとは親子のような関係だったとか。「撮影がすごくハードだったので日曜日には彼女と一緒にブロードウェイにワルツのレッスンを受けに行ってたんだ。日曜にハーマイオニーと踊るのを楽しみに撮影を頑張ってたんだよ」と微笑ましい話を聞かせてくれた。

最後の質問ではラッセル自ら、冒頭に挨拶した帽子をかぶったファンの方を指名。彼女がかぶっていたのはサウスシドニー・ラビトーズのキャップだ。「みなさん、ご存じないかもしれないけど、サウスシドニーっていうのはオーストラリアのラグビーリーグのチームなんです。8年前に愚かにも僕はそのチームを買ってしまったんだ。スポーツチームってのは買うもんじゃないよ。もし買うつもりがあったらお薦めはしないね(笑)」と解説。

日本や日本への思いをたずねられて「日本は大好きだが、いつも東京にしかいないので、いつか子供たちをつれてきて日本文化を体験させてあげたい。みなさんはぜひシドニーへ、サウスシドニーのラグビーチームを応援に来てください。すごい文化体験にはならないと思うけど、楽しめると思います」とチーム愛をのぞかせた。

締めくくりは「撮影はかなり大変だったけれど、観る方も結構大変だと思うよ(笑)。楽しんではいただけると思いますけど、いろんなことが起きます。明日の朝起きたときに、たぶんこの映画のメッセージについてまだまだ考えさせられると思います。ぜひ、楽しんで、そしていろいろ考えて、堪能していただきたい」と観客と取材陣にメッセージ。

そのままフォトセッションに移るかと思いきや、サウスシドニーのキャップをかぶった女性のもとへ挨拶に向かい、場内を回ってファンと握手やハグという大サービス。「ラッセル、フォトグラファーのところに戻ってきて!」と通訳とMCが呼びかける事態に(笑)。この自由すぎるサプライズもラッセル・クロウらしかった。次回のラッセル来日にはサウスシドニーのキャップをかぶったファンが増えそうだ。(撮影/杉谷伸子)

『ノア 約束の舟』は、6月13日(金)全国ロードショー。

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『SCREEN』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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