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意外にもあっさり終わったフォックスのワーナー買収劇。歯止めをかけたのはウォール街

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

ルパート・マードック帝国の巨大化は、かなわなかった。

21世紀フォックスがタイム・ワーナーを現金と株混合の約80億ドルで買収したいとオファーし、ニュースになったのは先月のこと。ワーナーは即、拒否したが、欲しいものは絶対に手に入れたがるマードックは、あきらめずに交渉を続けるだろうと大方が予測していた。

しかし、今週、フォックスはワーナーへのオファーを取り下げたと発表。これ以上追いかけるつもりも、代わりに別のスタジオをターゲットにするつもりもないと断言した。

マードックが意外にもあっさりと引き下がった背景には、株主と株価の問題がある。フォックスがワーナーに買収をオファーした報道が出た直後から、ワーナーの株は上昇を続けたが、フォックスの株は11%下落。過去にマードックがばか高い値段でウォール・ストリート・ジャーナル紙を買収し、その結果30億ドルの損失を出した例があることが、不安感をあおったと思われる。先月末に、フォックスがイタリアとドイツの衛星テレビ局の株を売却すると、目的はさらに高い金額をワーナーにオファーするための資金調達でマードックは90億ドル以上出すつもりだとの憶測が流れ、株主をますます緊張させた。

株価の下落で現状のオファーの価値も下がり、この買収計画は株主にとって魅力的ではないとマードックは判断。株価を上げるために、60億ドル相当の自社株を買い戻すと発表したこともあり、その日、フォックスの株は3.3%上昇した。ワーナーの株は12.9%下落したが、それでもフォックスの買収オファーが報道される前よりは上だ。

帝国の拡大を続けてきた83歳のマードックは、史上最大のメディア合併を実現させることで伝説を完結したかったのではと推測する人は多い。だが、株価が下降の一途をたどれば、伝説は悪いほうに向かう。また、たとえマードックの願う巨大メディア帝国が実現しても、彼の子供たちにはそこまでの大きな責任を背負う能力はないとの見方もある。

引き際の良さも、美談のひとつ。今回の大騒動は、マードックの伝記に、またひとつおもしろいエピソードを加えることになったのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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