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緊急事態宣言と自粛要請への「そんなのムリ!」に答えて:私たちの命を救うためにできること

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:新型コロナで緊急事態宣言を発令へ 小池都知事が会見(写真:REX/アフロ)

■緊急事態宣言と都知事の要請と都民の反応

次のような都民への要請案が出されています。

  • 外出しない
  • 人との間隔は2メートル確保
  • 買いだめは厳に慎む
  • 慌てて帰省などは控える
  • 通勤は最小限に。在宅勤務を。

誰だって新型コロナの感染爆発は防ぎたいと思います。自分も家族も病気にかかりたくはありません。

でも、小池都知事からの要請を聞いて、「そんなの、ムリ!」という声も聞こえます。

たとえば、ツイッター上ではこんな意見も賛同を集めています。

外出しないと通勤できません。通勤しないと生活できません。生活できないから実家に帰るしかないという人も帰れません。在宅勤務できる人は全然いません。通勤時に2mも人と間隔あけられません。~

おっしゃる通りです。

新型コロナ自覚なく出勤ケースも 風邪と似た症状 感染症医「『仕事を休む』こそ効果的な戦い方」:4/7沖縄タイムスY!>という記事に対しても、次のようなヤフーコメントが寄せられています。

「そうね。でも、それが簡単にできれば苦労しないわ」

「勇気を持って休むようにって言われた。覚悟がいると思う」

「疑いがあったら休みたいけど、そんな環境でもないし」

会社から、少しでも症状があったら休め、微熱でも熱があたら5日休め、と言われている人なら良いのですが、ほんのちょっとした体調不良ぐらいで休んだら首になってしまう人もいるでしょう。

では、どうしたら良いのでしょうか。

■科学の考え方:科学でわかること、わからないこと

私が今の日常生活を続けていて、新型コロナウイルスに感染するかどうか、そんなこと世界最高の科学者でも医師でもわかりません。

科学って、個別のことが苦手なんです(科学技術を応用して、一人ひとりを見ていくことはできますけどね)。

私が何歳まで生きるかは、誰にもわかりません。何の病気にかかるかも、わかりません。

タバコをたくさん吸っても肺がんにならないかもしれないし、まったく吸わなくても肺がんになるかもしれません。

私が誰かと「3つの密」が重なる場所で濃密接触を繰り返し繰り返し続けても、新型コロナウイルスには感染しないかもしれません。

逆に、とても気を付けて「密」を避けていても、感染してしまうかもしれません。それは、わからないのです。

でも科学は、統計的確率的にはとてもよくわかります。

1万人の60歳男性が、10年後に何の病気にどれだけかかり、何パーセントの人が生きているのか、よくわかります。喫煙者と非喫煙者がどうなるのかもわかります。どのくらい自動車事故を起こすかもわかります。

だから、生命保険や自動車保険が成立します。人々からどのくらいお金を集め、どのくらい支払っても大丈夫かを、計算できるわけです。

■感染拡大のためには、一人ひとりが自分のできることを

私が感染するかどうかはわからなくても、私たちみんなが感染するかどうかはわかります。計算できます。

私たちが今まで通りの生活をしていたら、感染者数は爆発的に増え、医療崩壊する確率が高くなります。一方、私たちが要請を受けて、できるだけ「3つの密」を減らしていけば、感染者数の爆発的増加と医療崩壊を防げる確率が高くなります。

私たち全体で、どの程度「3つの密」を防げるかが勝負です。社会全体の「3つの密」を少しだけ減らしても効果はないようですが、一定程度減らすことができれば、統計的に見て感染者の爆発的増加も防げます。

様々な家庭の事情や仕事の事情、社会の事情で、外出が必要な人もいます。2メートルの距離が守れない時もあります。それは、仕方がありません。個人や社会にとって、必要不可欠な外出、電車通勤もあります。

だから「できるかぎり」です。

そんな要請されてもできないと、嘆いていても仕方がありません。私にもできる自粛があるはずです。外出している人を責めても仕方がありません。その人なりの事情があるのかもしれません。

できる人が、できるだけ、一生懸命、「3つの密」を避ける努力をしましょう。

実家の親が倒れて、慌てて田舎に帰る人もいるでしょう。それを誰も強制的に止めません。様々な事情があります。でも、特別な事情がなければ、慌てて帰省するようなことは、今はやめておきましょう。

どの会社もテレワークにするわけにはいきませんが、できるところはテレワークにしましょう。

私たちのこのような個別の努力の結果、社会全体の「3つの密」を減らすことができます。その減少量が一定の量に達すれば、感染防止の効果が目に見えて現れてくるはずです。

子供には子供の事情があり、大人には大人の事情があります。一か月家の外には一切出ないことが一番良いとも限りません。それでは、心も体も持たない人もいるでしょう。

いくら緊急事態宣言でも、命令ではないし、逮捕されるわけでもありません。でもだからこそ、わたしたちみんなの協力が必要です。

要請の全てを、全ての人に完全にせよと押し付けているわけではありません。絶対に要請を守れと言われていると誤解してしまうと、かえって上手くいきません。自分を責め、他人を責め、ギスギスとした世の中になってしまいます。

各自ができるだけの努力をして、社会全体で成果を上げましょう。私たち全体が助かる可能性が高まれば、結果的に私やあなた、その家族が助かる確率も高まります。

そうして、私たちの国は、新型コロナウイルスに勝利するのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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