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餅による窒息死のリスクが高い地域は

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

餅(もち)の窒息を起こして救急搬送される事例は毎日のようにどこかで起こっています。日本は次第に高齢化社会となりつつあり、飲み込む能力が低下していることを自覚していない人が増えています。そのため、正月に窒息で救急搬送される高齢者はなかなか後を絶ちません。

一番危ない日は「元旦」

人口動態調査死亡票を用いた研究において、1月のうち元旦、2日、3日の「三が日」に窒息による死亡が集中していることが報告されています(図1)。一番左のグラフは、縦軸ではなく、これがグラフの値そのものです。ほかの暦日と比べると圧倒的に多いことが分かります。

図1.食物の誤嚥による窒息死(参考資料1より引用)
図1.食物の誤嚥による窒息死(参考資料1より引用)

現場レベルにおいても、たとえば大阪府の窒息による心肺停止を調べた研究によると、これも1月に搬送例が集中していることが分かりました。特に餅によるものが多いとされており、1月の元旦、2日、3日の「三が日」に搬送例が集中しています。これもやはり、元旦が最も多いです(図2)。

図2.餅の窒息による救急搬送例(参考資料2より引用)
図2.餅の窒息による救急搬送例(参考資料2より引用)

餅による窒息死のリスクが高いのは東北地方

餅の消費量が多い都道府県で、救急搬送の時間がかかってしまう過疎地では注意が必要です。

たとえば、窒息による標準化死亡比は新潟県が最も高いとされています(最低は京都府)。新潟県の1世帯当たりの餅の消費量は全国8位で、救急搬送までの時間は全国ワースト7位であり、これらの組み合わせによって餅による窒息死のリスクが高いとされています(1)。地図を見ても、東北地方のリスクが高いことが分かります(図3)

図3.都道府県別の窒息の標準化死亡比(参考資料1をもとに筆者作成)
図3.都道府県別の窒息の標準化死亡比(参考資料1をもとに筆者作成)

餅が窒息したらどうすればよい?

餅が詰まって窒息した場合、救急車を呼ぶことが重要です。通常の窒息と違って、なかなか詰まったものが取れにくいので、救急車をすぐに呼ぶ必要があります。

応急処置としては、背中を叩いて吐き出させる背部叩打法がもっとも簡単ですが、餅はネバネバしているのでなかなか排出は結構難しいです(図4)。その他、腹部突き上げ法などもよく行われますが、これも相手が餅だとなかなか取れません

図4.窒息の応急処置(イラスト・説明は政府広報オンラインの参考資料3、4より一部使用)
図4.窒息の応急処置(イラスト・説明は政府広報オンラインの参考資料3、4より一部使用)

そのため、上記の応急処置が無効なら、心肺蘇生を開始しましょう。訓練を受けていない人やよく分からない人は、救急隊到着まで胸骨圧迫をできるだけ続けることが重要です。

餅は細かく切ろう

多くの餅は大きいので、細かく切るなどの工夫をすることで窒息リスクを減らすことができます。事前にお茶や汁物でのどを潤しておいて、餅が引っかからないようにしておきます。また、高齢者は餅に限らず誤嚥が多いので、しっかり噛んで飲み込むことが重要です(図5)。

図5.餅の窒息を予防する工夫(DALL-E 3 にて筆者作成)
図5.餅の窒息を予防する工夫(DALL-E 3 にて筆者作成)

まとめ

餅の窒息事故は、医療機関が手薄な正月の「三が日」に集中します。小さな子どもや高齢者は窒息のリスクが高いので、特に救急搬送に時間がかかる地域にお住まいの方は注意してください。餅を食べる場合、高齢者の場合は、餅を小さく切るなどの工夫をするとよいでしょう。

(参考)

(1) Taniguchi Y, et al. J Epidemiol. 2021 May 5;31(5):356-360.

(2) Kiyohara K, et al. J Epidemiol. 2018 Feb 05;28(2);67-74.

(3) 政府広報オンライン. 「えっ?そんな小さいもので?」子供の窒息事故を防ぐ!(URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/2.html

(4) 餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は?(URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202212/2.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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