中国で"Vision Pro"の商標権をHuaweiが取得していた件について
「Appleどうする?Vision Proの名称、Huaweiが商標登録していた」という記事(iPhone Mania)を読みました。中国で”Vision Pro”という商標をコンピューター関連の指定商品でHuawei(华为技术有限公司)が登録済であったという話です。
Huaweiの出願は2019年5月16日なので意図的なものではなく、偶然の一致と思われます。アップルは、”Apple Vision Pro”という商標を中国で使えなくなってしまうのでしょうか?
ここで、アップルの新デバイスの名称は”Apple Vision Pro”であって、”Vision Pro”ではないことに注意が必要です(記事等でスペース節約のために”Vision Pro”と略されることはあるでしょうが、商標としては”Apple Vision Pro”です)。
結局、問題になるのは、”Apple Vision Pro”と”Vision Pro”が商標として類似するかです。商標の類似判断において重要となる要素は、消費者を混同させるかです。これにより、自他商品識別力の強い部分(Apple)は、識別力の弱い部分(Vision Pro)より重視されることになります。Visionは、ディスプレイ関連製品であれば機能そのものを表していますし、Proは高機能の製品を表すのに使う一般的な表現であり、識別力はかなり弱いです(そもそも、Huaweiの出願が記述的商標として拒絶されなかったことが意外なほどです)。
たとえば、”Apple Watch”と”Swatch”は”watch”部分が共通ですが、これによって商標として類似とされることはないでしょう。もう一つ例を挙げるなら、仮に飲料を指定商品とする”ZERO”という登録商標があったとして(日本ではおそらく記述的であることを理由に登録できていませんが海外では登録されている国もあります)、これが、”Coca-Cola Zero”と類似とされることはないでしょう。同じ理由付けで”Apple Vision Pro”と”Vision Pro”が商標として非類似とされる可能性は高いと思います。
ただし、一般に、中国における商標の類否判断や識別性判断は予測可能性が低く、日本や米国での常識では考えられないような判断がされたりします(中国の専門家に聞いても読みが外れたりします)。特に、かたや中国を代表する企業のHuawei、かたやHuaweiに強力な規制をかけてきている米国を代表する企業のAppleなので、仮に中国で訴訟になれば、Huawei有利になる可能性も十分にあるでしょう。
リスクと言えばリスクですが、Appleとしては回避可能と判断したのだと思います。
なお、Huaweiは”Vision Pro”の商標をまだ使用していないようなので、不使用取消審判が可能かも検討すべきですが、登録が2021年11月28日で、まだそこから3年を経過していないので不使用取消審判の対象にはなりません。出願は2019年5月16日だったので登録までかなり時間がかかっていますが、審査経過を見ると拒絶査定後の不服審判を経由して登録されたためでした。中国の商標審査経過記録は(たとえ有料でも)第三者は閲覧できませんので、具体的内容はわかりませんが、”Vision Pro”が記述的で識別力がないという拒絶理由に反論していたのかもしれません。
なお、余談ですが、Apple Vision Pro用のOSの名称として”Reality OS”が噂されており、実際、アップルもダミー会社経由で商標権獲得に動いていたのですが、先登録の存在により審査が中断しています。この件については、ちょっと前に書いています。この中断状態は現在もまだ続いています。この問題が解決したら、”Reality OS”の名称が使用されることになるのか、あるいは、もう使用はあきらめたのかは不明です。