アップルのReality OS商標出願の審査が中断している理由
「AppleのMRヘッドセットの商標取得が進んでいない?中国企業がxrOS商標を申請」という記事を読みました。アップルがまもなく発表すると見られているMR(複合現実)ヘッドセット製品関連の商標”Reality OS”等の審査プロセスが滞っているという話です(元記事では「商標申請プロセスが止まっている」と書いてあってちょっとわかりにくいです)。
問題の”REALITYOS”という米国商標登録出願(97163164(9類)と97163139(42類)の2つあります)は、いずれも、Realityo Systems LLCというデラウェア州法人(アップルのダミー会社と思われます)によって2021年12月8日に行われていますが、2023年3月16日付けで米国特許商標庁よりSuspension Letterが出ており、審査が中断状態になっています。理由は類似先出願の存在です。”RealityOS”という類似先出願(88726903)がTMRW Foundation IP & Holdingというルクセンブルグの企業により、2019年12月13日に行われています(冒頭引用記事の見出しに出てくる中国企業はまた別の話でこの件とは関係ありません)。
米国の商標制度は先願主義なので類似先登録商標があると登録できません。そして、先に出願された商標がまだ審査中であると、後の出願の扱いが確定できないので、後の出願を審査中断状態にしてもらうことができます(これは日本でも同様の運用です)。先の出願が放棄・拒絶されたり、後の出願の出願人に譲渡されれば状況は解消し、後の出願の審査が進みます。余談ですが、特許の場合は、一度公開されてしまうと新規性がなくなりますので、仮に先願が放棄等されても、後願は登録できません。
さて、このルクセンブルグの企業ですが、VR関連の事業を行っている会社であり、商標ゴロではなさそうです。そして、先の出願の出願日である2019年12月13日以前にアップルがReality OSという名称の製品を販売するであろうという情報は少なくともネット上では見られないので(比較的ありがちな名称であることも考えれば)偶然の一致ではないかと思います。
では、なぜ、この先の出願の審査は完了していないのでしょうか?Zerodensity Yazilim Anonim Sirketiというトルコの企業(こちらもVR関連の実業をやっている企業のようです)により、異議申立が請求され、まだ進行中だからです。異議申立の理由は「記述的である」というものです。もし、この異議申立が認められると先願が取消になり、アップルの方の審査が進みますが、そうなるとアップルの方にも同じ理由による異議申立が請求される可能性が高くなる(このトルコ企業に限らず誰でも請求できます)ので、アップルにとっては問題が完全に解決したことにはなりません。
なお、日本においては、このアップルの(ダミー企業の)出願を基礎としたマドリッドプロトコル経由の出願がまもなく登録されそうです。暫定拒絶が通知されていますが軽微なものなのでほぼ確実に解消するでしょう。
なお、上記記事で言及されている、"REALITY PRO"(97552845)、”REALITY ONE”(97546520)、”REALITY PROCESSOR”(97541320)については、2022年8月に、 Immersive Health Solutions LLC(これもアップルのダミー企業と思われます)という名義で出願された後、審査は進展していません。特に理由はなく単にまだ審査に入ってないだけだと思われます。今後、こちらも類似先願の存在により一悶着あるかもしれません。
META社によるメタバース関連商標でも言えることですが、VR/MR関連分野で”REALITY”を含む「そのまんま」に近い商標を登録しようと思うと苦労するのは仕方ありません。とは言え、アップルの場合であれば、最後の手段として商標を”Apple Reality OS”とでもすれば、少なくともコンピューター関連分野においてはApple部分の識別力が強力なので登録可能性および他社の勝手登録防止という点では問題なくなるでしょう(iWatchをあきらめてApple Watchにしたのと同じです)。