三重・高3女子刺殺事件の犯罪心理と自殺予防
未成年の子どもが殺害され、同じく未成年の少年が殺人容疑で逮捕されるという最悪の事件が起きました。しかも殺害動機は、敵意でも恨みでもないようだと報道されています。
■各紙が伝えた三重県高三女子刺殺事件
9月30日朝刊各紙に、この事件の見出しが踊りました。
・高3女子刺殺「頼まれた」 三重 容疑の少年逮捕(朝日新聞)
・高3女子刺殺男子逮捕 伊勢 同学年、容疑認める(読売新聞)
・殺人容疑で同級生逮捕 三重伊勢 「頼まれた」と供述 「恋愛の聖地」で何が LINEで連絡 友人ら現場に(毎日新聞)
・高3女子刺され死亡 三重伊勢 容疑の男子「頼まれた」 被害者7月に失踪騒ぎ(産経新聞)
・女子高生刺殺 男子同級生を逮捕 伊勢 「頼まれた」容疑認める 級友に「18歳で死ぬ」(東京新聞)
・高3男子が同級生女子を「頼まれて殺した」 過去に自殺未遂 母親や友人現場に9人(スポーツ報知)
被害者は女子高生。殺人容疑で逮捕されたのは、同級の男子生徒。「頼まれた」と供述。そして、救急隊と警察がついたときには、被害者の母親、逮捕された少年の母親。母親の知人男性。そして友人たち9人が遺体を取り囲んでいました。
■テレビ報道
NHKは、9月30日夕方、高校の会見を受けて次のように報道しています。
■高校による記者会見:容疑者少年
高校によると、逮捕された少年については、上記の報道のように述べ、被害者の少女については次のように述べています。「入学時から授業には熱心で、成績は常に上位。演劇部に所属し、看護系専門学校への進学を希望」〜「自己否定が強かった」〜「2人は互いを「親友」と呼び合っていた」(時事通信)。
■少年はなぜ依頼を聞いてしまったのか:「愛他的殺人」
少年は、被害者少女に頼まれたと供述しています。殺害現場の様子は、逃げた跡も争った様子もなかったと報道されています。少年の供述には信憑性が感じられます。
容疑と供述が真実だとするならば、この殺人は「愛他的殺人」と言えるでしょう。相手が憎いから殺すのではなく、愛するから殺す殺人です。家族無理心中なども、愛他的殺人です。
自殺者の心理は、死ぬしかないと思い込み、死にさえすれば全てがうまくいくと感じています。少年は、少女の思いに巻き込まれたのではないでしょうか。少年にとっても、少女の願いを聞いて殺してあげることこそが、彼女にとっての最善と感じたのかもしれません。
(もしも殺人ではなく嘱託殺人ということになれば、罪も軽くなります。)
■二人の関係:友情は純粋だが歪んでしまったのか
二人は恋愛関係にはなかったようです。報道によれば被害者少女は成績優秀だが自己否定が強く家出失踪騒ぎも起こしています。一部報道によれば、自殺未遂や自傷行為もあったのではないかと言われています。
少年は、報道によればまじめで親切なタイプのようです。
ここから先は一般論ですが、とても不安定な女性が、悪気はないものの周囲を振り回すことは珍しいことではありません。そんな女性を助けたいと感じて、まじめで世話好きの男性が支援しようとするのですが、トラブルが起きることもあります。
不安定な女性は、しばしば無理な要求をします。情緒不安定な女子学生の要求でキャンパス内の屋外で全裸になった大学講師もいました(大学講師、情緒不安定な女子学生の要求で全裸に)。
不安定な人を助けるためには、ただ言いなりになれば良いわけではありません。適切な距離を保ちつつ、支える続けることが大切になります。
今回の二人は、中学も同じで仲の良い親友でした。詳細は不明ですが、どちらも悪意はないのに、ただその友情が歪んだのかもしれません。中学生の自殺などでは、死にたいと悩む友人に同情して一緒に自殺してしまう「同情自殺」などもあります。純粋な気持ちではありますけれど、それは健康的な関係ではありません。
■空白の時間:子どもを守るとは
報道によれば、殺害現場に被害者加害者の母親や友人らが集まったのは、午後8時頃です。ところが、119番をしたのは、午後9時43分でした。この空白の時間は何なのでしょうか。
これも一般論ですが、何か困った事態が起きたとき、しばしば大人たちは子どもを「守ろう」とします。何とか、穏便に済まそうとします。
今回の事件では、119番は少年の一人がしています。そして、こう言ったと報道されています。
「人が倒れています。今、心臓マッサージをしています。」
今回の事件の詳細は不明です。なぜこのような通報内容になったのかもわかりません。そして一般に、子どもを守るとする親の気持ちはわかります。しかし、本当の意味の子どもを守るとは、単に穏便にすますことではないでしょう。
■なぜ恋愛の聖地で:若者の自殺予防
若者たちの死にたい気持ちは真剣です。しかし心理学的にみると、若者たちの「死にたい」は、実は「幸せになりたい」です。だから、しばしば自殺のサインを出します。
また若者たちは、しばしば死に方にこだわります。美しく、寂しくなく死にたいと感じたりします。今回もそうだったのかもしれません。美しく寂しくなく死ぬ方法として、今回の事件が発生したのかもしれません。
今回、少女の自殺への思いは、多くの人が知っていました。それぞれの人が最善を尽くしたかと思うのですが、結果的には効果的な自殺予防はできませんでした。
自殺への思いは強く、優秀であっても不安定なところも持ち、「18歳になるまでに自殺したい」と語っていた少女は18歳になり、ますます死への思いを強めたのかもしれません。
一般論ですが、死にたい思いを打ち明けられた人にとって、まず話を聞くことが大切です。説教も感動的な話も、あまり役に立ちません。まず、話を聞くことです。
次に問題を共有します。子どもたちにも、そんな話を友人から聞いた時には、必ず大人に話そうと教えておきましょう。それは、裏切りではないと教えましょう。仮に友人が怒ったとしても、それでも、友情より命の方が大切です。
子どもの友人、親、教師。みんなの力で見守ることが大切です。話を聞いた大人たちとしては、「無視をせず、大騒ぎもせず」です。冷静に迅速に対処しましょう。本当に自殺の危険性が高まっているなら、医療につなげる道もあるでしょう。
死にたい若者の多くは、孤独と絶望感に潰されそうな状態ですが、本当は幸せになりたいと願っています。子ども若者を本当の意味で守っていきたいと思います。