Yahoo!ニュース

なんとかボーナスポイントを獲得してジャパン白星発進! アイルランド戦への課題は?

永田洋光スポーツライター
ハットトリックを達成してプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたWTB松島幸太朗(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「みんなガチガチだった」と流は振り返った!

 辛うじて合格点のボーナスポイントをゲットしての勝利だった。

 ジャパンは本当に“ヤバかった”。

 SH流大は、試合直後にこう言った。

「みんな、ガチガチでした」

 そもそもの立ち上がりから、ジャパンは「ガチガチ」というより「ガタガタ」だった。

 キャプテンのリーチ・マイケルが、目測を誤ってロシアが蹴り込んだキックオフを後逸。カバーしたNO8姫野和樹がノックオン。アドバンテージの間にアタックを継続されて、いきなり自陣22メートルライン内での相手ボールラインアウトとなる。

 そこからモールを組まれ、続く一連でCTBラファエレ・ティモシーがノット・ロール・アウェーの反則を取られる。

 もう一度ラインアウト勝負を挑まれたところで今度はロシアにミスが出て、ジャパンがようやくマイボールを確保。ところがSO田村優がキックをチャージされてしまう。幸いアドバンテージが生きていてジャパンのスクラムとなったが、続くアタックでラファエレがスペースにキック。ロシアも、これを蹴り返して攻めた。

 そこで出たのが、FBウィリアム・トゥポウの、緊張のあまり足が前に出ないノックオンだった。

 しかも、そのこぼれ球をロシアWTBキリル・ゴロスニツキーが拾い上げてインゴールへと駆け抜けた。

 前半4分。

 ラグビーW杯2019日本大会の記念すべきファースト・トライは、ロシアが挙げたのだ。

 ジャパンも、10分過ぎにロシア陣ゴール前5メートルでスクラムを得て、11分にWTB松島幸太朗のトライにつなげた。しかし、田村のコンバージョンは外れて、まだリードしているのはロシアだ。

 嫌な流れは止まらない。

 16分には、ロシアSHワシリー・ドロフェエフがボックスキックを蹴ると見せかけて、ショートサイドのWTBゲルマン・タビドフにパスを通してゲインラインを切る。

 25分には、孤立した姫野がボールを奪われ、ロシアの逆襲を食らう。さらに直後には、SOユーリー・クシナリョフがジャパン防御ラインの背後に、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ目指すところの“ジェイミー流”ショートパントを落とす。これがラッキーバウンドとなってCTBドミトリー・ゲラシモフの腕にスッポリ入り、またまたジャパンは自陣に押し込まれた。

 それでも、前半終了間際に苦しみながらもフェイズを重ね、最後は松島が2つめのトライを決めて、何とか12―7のスコアでハーフタイムを迎えた。

パスが遅いジャパンはサポートが遅いロシアに救われた?

 後半44分(以下、80分通しての時間表記)、田村のPGでジャパンは15―7とワンチャンスで追いつかれないところまでリードを広げ、46分にはFLピーター・ラブスカフニが、ロシアから腕力でボールを奪い取ってそのまま独走。この試合3本めのトライを挙げて20―7とした。

 これで、前半からフルスロットルでジャパンに挑み続けたロシアが、そろそろ息切れするのではないか――と思われたが、本番のW杯開幕戦は、そんなに簡単にはことが運ばなかった。

 50分には、スクラムを押し込まれてペナルティを取られ、ゴール前のラインアウトからロシアFWにゴリゴリ攻められて、トライラインを背負った防御を強いられる。それでもジャパンは粘り強く守り、56分にラブスカフニがジャッカルに成功。ロシアの反則を誘ってピンチを脱出した。

 ところが、続くマイボールのラインアウトをロシアに奪われ、ふたたび攻め込まれる。

 しかも、防御が前に出たところでゴロスニツキーにすれ違われて、あわやのピンチを招く。

 そして、ロシアにPGを決められて、10点差に縮められた。

 ジャパンに危惧された“もろさ”が随所に顔を覗かせた展開は、ロシアのアタックの“鈍さ”に救われたが、それでもツーチャンスで逆転される圏内でゲームを進められるのは、あまり気持ちの良いものではない。

 そう。

 この展開で相手FWがロシアのようなマッタリしたサポートではなく、機敏にボール目がけて集散を繰り返すFWならば、かすり傷で済んだほころびが、致命傷となっただろう。

 後半のこの辺りから、体力的にいっぱいいっぱいのロシアに勝つか負けるかではなく、これでアイルランドやスコットランドに勝てるのか――という思いで試合を見つめていた。「W杯ベスト8」を目標にするチームとしては、あまりにも不安をかき立てるような展開がずっと続いたのである。

 ジャパンは、63分に田村がPGを追加。その5分後には、松島が、ハットトリックとなる3つめのトライを奪って勝負は決まった。

 最終スコアは30―10。

 4トライを奪っての勝利を確定させたのだ。

 ただ、ラスト10分となった時点でも、フレッシュな選手が次々と投入されたにもかかわらず、明らかにフィットネスに劣るロシアからダメ押しトライを奪えなかった。

 なぜか――?

 やはり、前を向いてパッパッとボールを外に送るクイック・ハンズではなく、ある程度勝負してからオフロードでつなぐジェイミー流の特徴が、悪い方に出たのだった。

 ロシアと比べれば早かったパスも、ベスト8を目指すチームとしては、明らかに遅かった。

 左に位置したWTBレメキ・ロマノ・ラヴァが、パスに対してトップスピードで走り込んでボールをもらうような場面は訪れず、逆にレメキが止まってパスを受けるような状態だ。結果的に、そのおかげでロシア防御が、ジャパンから見て左サイドに集まり、その分、右サイドの松島の前にスペースができたが、これもカバーディフェンスの早いチームを相手にしたら、かなり苦しくなる。

 ジャパンは、7月27日のフィジー戦で、オフロードを極力抑え、早いテンポでパスをつないでフィジー防御を混乱に陥れた。それが、チャンスでのハンドリングエラーを減らし、キックを蹴り込むスペースを作ることにもつながった。

 けれども、ロシア戦は、最初から「行ける!」とばかりに、“いつものスタイル”に戻っていた。

 対戦当日時点のランキングで、フィジーが1つ格上で、ロシアが10ランク格下だということも影響したのかもしれないが、苦労しながらの勝利は、ジャパンの欠点をさらけ出すような結果とも受け取れた。

 ここでもう一度フィジー戦の前のような集中力を取り戻し、同じように地道に、けれども手数をかけて多くのパスをつなぎ、相手防御をしっかり前におびき出さなければ、ジェイミー流のキッキングラグビーも、相手にボールをプレゼントするだけの結果に終わる。

 ギリギリとはいえ、何とか合格点をクリアしたジャパンは、この反省を次のアイルランド戦にどう活かすか。

 早速取り組まなければならない課題は、アタックの再構築だ。

 嫌な感じでアタマをよぎるのが、前回大会の開幕戦でフィジーを相手に35―11と、ジャパンと同じようなスコアで開幕戦を勝ったイングランドの結末だ。この試合、イングランドのトライ数は、ジャパンと同じく4だ。

 そして、イングランドは、オーストラリアと、満身創痍のウェールズに敗れて1次リーグで姿を消した。

 ジャパンには、同じ轍を踏まないように、早急な修正を求めたい。

 

 

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

永田洋光の最近の記事