「尿の臭いをかぎたかった」小便器の目皿を盗んだ男、驚きの動機巡る法的問題とは
松江市のスーパーにある男性用トイレの小便器からプラスチック製の目皿1個を盗んだとして逮捕、起訴された32歳の男が、懲役1年6か月、保護観察付き執行猶予4年の有罪判決を受けた。ゴミ詰まりなどを防ぐために小便器の排水口に設置されている穴のあいた蓋であり、1000円程度のものだ。「尿の臭いをかぎたかった」などと供述しており、それで性的快楽を得ていたという。
「不法領得の意思」がポイント
事件は9月に発生した。男は気に入った顔立ちの見知らぬ男性を見つけると、その排尿後、小便器から目皿を盗んだ。スーパーが警察に被害届を出し、防犯カメラなどを捜査した結果、男の関与が浮上し、逮捕に至った。
このスーパーでは過去にも同様の被害があったが、男の自宅からは複数の目皿が発見されており、同性愛を背景とした常習犯だったと判明した。男は容疑を認め、被害弁償も済ませた。
ただ、自宅などの小便器に設置して使ったり、金目当てに売り払ったりするためではなく、臭いをかぐためだったということになると、法的な問題の検討が必要となる。
被害者からすると、犯人に使われたり転売されたりしようが、壊されたり捨てられたりしようが、被害品が手もとから失われたという事態に変わりはないが、刑法が窃盗罪を器物損壊罪よりも格段に重く処罰しているからである。
そこで、窃盗罪が成立するためには「不法領得の意思」、すなわち「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思」まで必要だとされている。小便器の目皿の臭いをかぐことが「経済的用法に従い利用処分する」といえるか否かがポイントとなるわけだ。
「臭いフェチ」の事件はほかにも
似たような例として、自分で使うのではなく、「臭いフェチ」が臭いをかいで性的快楽を得るため、女性用の自転車からサドルを取り外して持ち去るとか、小学校の下駄箱から女子児童の上履きを盗むといった事件もよく起きている。
ただ、裁判所は「不法領得の意思」について、必ずしも本来想定されている利用方法や交換価値の実現に限らず、その物自体から生じる何らかの効用を利用・享受する意思があれば構わないと広めにとらえている。
直ちに戻したり隠したり廃棄したりするのでなければ、サドルや靴を持ち去った場合でも、なお窃盗罪が成立するというわけだ。臭いをかぐために物干し竿から女性用の下着を持ち去る「下着ドロ」の男が窃盗罪で処罰されるのと同じ理屈である。そこで、今回のケースも窃盗罪に問われた。
札幌でも、5月から6月にかけ、市内の公園にある複数の公衆トイレの男性用小便器から50枚以上の目皿が相次いで盗まれる被害が発生しているものの、犯人検挙には至っていない。ステンレス製であり、金属品としての転売目的ではないかとみられるが、もしこちらも臭いをかぐのが動機だったとすると、驚くほかない。(了)