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温暖化は人為起源ではないー 勝手に公表されたホワイトハウスの「公式」温暖化懐疑論

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(写真:PantherMedia/イメージマート)

トランプ大統領の発言を巡り、混乱が起きているアメリカですが、気象の世界でも「争い」が起きています。

トランプ氏と言えば、温暖化を『でっち上げ(Hoax)』と呼び、その存在を否定してきたことは有名です。昨年は、温暖化懐疑派の気象学者2人を連邦政府の科学者に抜擢しました。それが連邦政府の下に設置された「米国地球変動研究プログラム」の長デビット・レゲーツ氏と、「アメリカ合衆国科学技術政策局(以下、OSPT)」の高官となったライアン・マウエ氏です。

かねて2人の動向が注目されてきましたが、いよいよ動きがありました。

大統領の紋章付きで発表された文書

先週この2人が主導して書かれたとされる禁断の文書が、温暖化懐疑派の団体のホームページに掲載されました。

その文書の内容は温暖化を軽視するものであったうえに、大統領の紋章付きOSTPの見解として発表されていました。OSTPは合衆国内外における科学技術の影響について、大統領を補佐する組織です。

むろん、この文書は同局の見解とは異なるもので、OSTP局長やホワイトハウスの承認なしに勝手に公表されていたといいます。

文書の内容

文書の内容は、どのようなものだったのでしょうか。

気候変動のフライヤー(Climate Change Flyer)」と題されたその文書は、レゲーツ氏の序文と、温暖化懐疑派の学者らによって書かれた9つの記事から構成されています。

その中身は、農作物や森林にとって二酸化炭素の増加は利益をもたらす、温暖化は人為起源ではなく自然起源である、コンピュータモデルは意味のある気候シミュレーションを生成するには「小さすぎて遅い」などと、温暖化を軽視するような内容が書かれてあります。

文書の経緯

どういった経緯でまとめられたのでしょう。

文書の著者の一人である米アラバマ大学のロイ・スペンサー博士は、自身のブログに下記のような内容を載せているようです。

「昨年末レゲーツ氏から、気候危機は起きておらず、メディアを通して継承者が間違った情報を広めているという趣旨の論文を書くように要求された。さらに彼はこの文書が1月20日までに発表されることを望んでいた。」

期日が1月20日なのは、トランプ大統領の任期が切れる前に発表されることで、政府の公式な見解として記録させようとしたからではないかということです。

2人の処遇

結局レゲーツ氏とマウエ氏は、OSTP局長で気象学者のケルビン・ドロージマイヤー氏の怒りを買い、12日(火)に解任され、アメリカ海洋大気庁(NOAA)に出戻りになりました。

さらにトランプ氏の退任後はその職も解かれる形となりそうですが、ホワイトハウスの承認なしに紋章を利用したことについて、後に罪に問われる可能性もあるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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