米国人はタピオカティより好き No.1バリスタが語る、スタバの功績とコーヒーシーンの賑わい
ニューヨークではここ数年、コールドプレスジュース、お茶(抹茶、緑茶、コンブチャetc)が人気だ。
タピオカドリンクはこちらでバブルティやボバと呼ばれ、日本ほどの勢いはないにしてもチャイナタウンを中心に店は増えている。日本でのヒットの余波か、台湾の「Tiger Sugar」(タイガーシュガー)などの新店が海を越えて続々と進出し、行列も見かけるほど。
しかし、どんなニューウェーブがどれほど起ころうと、昔から群を抜いて不動の地位を築く「コーヒー」を無視して、ドリンク市場は語れない。
サードウェーブのブーム、今も
ニューヨーカーの片手にはいつも、タンブラーやマグカップ(数は減ったが紙コップも)が握られている。「前日よく眠れなかった」「ちょっと一息つきましょう」という時のマストドリンクとして、コーヒーは忙しない現代生活に欠かせない。
サードウェーブコーヒーのブームで、ニューヨークには10年ほど前から個性的なカフェが続々とオープン。今もその勢いは止まらない。
そのシーンの賑わいを表すかのように、10月11日から13日まで、マンハッタンでコーヒーの祭典「The New York Coffee Festival 2019 」が開催され、3日間で1万1,000人(主催者発表)以上のコーヒー好きが集まった。
世界46ヵ国の豆を使い、2010年のオープン以来不動の人気の「Brooklyn Roasting Company」。マネージャーのシオン・ウィルソンさんは、コーヒーシーンのトレンドとして「引き続きサードウェーブ、フェアトレード、シングルオリジン」と言う。
そして、同社で今回決めた出展テーマは「啓蒙」。利き酒ならぬ利きコーヒーとして、産地による味の違いを色分けで紹介した。
イベントはチェルシー地区にあるインダストリアルビルの5フロアにまたがって開催され、上階ではコンペティションやワークショップ、コーヒーアートの展示も行われた。
以下が今年の勝者たち。
- 北米のローストマスター勝者: Rodrigo Vargasさん, Brian Lamさん (Elixr Coffee Roasters)
- ブリージーマスターコンペの勝者:Sean Ben-Zviさん
- NYのベストバリスタ: Dylan Klymenko (Liv Bread)
ベストバリスタが考える「良いバリスタ」「コーヒーシーンの賑わい」とは?
「NYベストバリスタ」に選ばれた、ディラン・クリメンコ(Dylan Klymenko)さんは、申し込み総数476組から出場枠にノミネートされた106人の中からナンバーワンに選ばれた。どんなバリスタなのか、ディランさんに話を聞いた。
── おめでとうございます。「ベストバリスタ」に選ばれたお気持ちは?
すごく嬉しくて、とても信じられないです。私はプロのバリスタとして、長くこの業界にいるわけではありません。キャリアは、今働いているカフェ「Liv Breads」でのほんの1年4ヵ月です。
そもそもこのコンペティションに出るには、まず出場枠にノミネートされる必要がありました。私を出場枠に選んでくれたのは、バリスタのトレーニングを受けた「Counter Culture Coffee」 (カウンターカルチャーコーヒー、以下CCC)のメンターで、バリスタ業界のトップを行くジェナ・ゴセルフ(Jenna Gotthelf)さん。昨年トレーニングを受けた1,000人以上の中で、私に何かを見出してくれ出場枠に選んでくれたことは、驚きと共に大きな名誉です。
── イベント自体はいかがでしたか?
初参加にして素晴らしい経験になりました。ベストバリスタの発表後、ほかのバリスタに話しかけられ、コーヒーについて熱く語り合いました。会場(The Metropolitan Pavilion)も充分すぎるほどの広さで、たくさんの来場者を迎えることができてよかったです。全5フロアにそれぞれ良いエネルギーが充満していました。
── 「ベストバリスタ」にはどんな素養が必要だと考えますか?
(1杯のコーヒーを通して)「お客さまをどのような気持ちにすることができるか?」が問われる仕事だと思います。顧客の好みに応じて、おいしく見た目にも美しいものを作るために日々努力を重ねていかなければなりません。しかし、それは基本ラインにすぎません。ホスピタリティ業界でやっていくというのは、そのラインを越える必要があります。
私にとってベストバリスタとは、お客さま一人ひとりを知っていくことだと思っています。名前やいつも注文されるものを覚えることはもちろん、人としてどのような方なのか、ということを知るということです。お待たせしているときに積極的な会話をするよう心がけていますが、ただ業務として会話をするのではありません。今日はその方にとってどんな日か、この後どう過ごされるのか、友人のように心から興味を持ってお客さまに向き合うということです。
ですので、1番目の質問の答えにも関連するかもしれませんが、私の今回の受賞については、きっとお客さまも嬉しく感じてくださるのではないかと想像します。
── バリスタとしてCCCで学ぶことになった経緯は?
CCCは自社のコーヒーを使っているカフェと提携し、無料のバリスタ・トレーニング・プログラムを提供するコーヒー焙煎所&訓練センターです。Liv BreadsもCCCと提携しているので、私もCCCで今年の7月まで約1年間、訓練を受けました。
トレーニングの集大成として実技試験に合格し、CCC認定バリスタ全米50人の1人になり、すべての努力が報われました。もちろん今も日々、新しい技術を学び続けているところです。
── コーヒーシーンの賑わいをどのように感じますか?
2003年ごろから「サードウェーブコーヒー」という言葉が聞かれるようになって、サードウェーブ系のカフェがたくさんオープンしました。ここ5年間では、カフェ・ルネッサンス(再生、復活)が進行し、独創的な内装とコンセプトを備えた独立系カフェがどんどん増えています。
ワインと同じように、人々はコーヒーやクラフトビールのハイエンド版を追求するようになり、高品質を体験するためにお金をかけるのを厭いません。
そしてこの数年で、トレンドは郊外の小さな街まで広がり、私の住むニュージャージー郊外もすごく変わりました。以前は、質の良いコーヒーやトレンディなカフェを求めて、マンハッタンまで出かける必要がありましたが、今はその必要がありません。
── ところで、人々はなぜお茶やバブルティ(タピオカティ)よりコーヒーが好きなのでしょうか?
これは私にとって面白い質問です!実は私はバブルティにハマっていて、バリスタになる前はお茶をよく飲んでいたので、私は典型的なアメリカ人とは少し異なります。
でも一般的に、コーヒーはこの国で王座に君臨する飲み物ですから、人々はバブルティやお茶よりコーヒーの方を好んで飲みます。
なぜ嗜好がコーヒーに傾くようになったのか。これは、1773年のボストン茶会事件がきっかけになったとよく言われています。お茶といえばイギリスを代表する嗜好品でしたから、アメリカがイギリスと仲が悪かった時代にお茶を飲めば非国民のように思われました。
また、現代のコーヒービジネスの成功が、道を切り開くことに大きく貢献しました。セカンドウェーブを語る上でスターバックスがよく引き合いに出されますが、スタバの成功がコーヒーブームの足がかりになり、それを基盤にCCC(カウンターカルチャー)、 Intelligentsia Coffee & Tea(インテリジェンシア)、Stumptown Coffee Roasters(スタンプタウン)、Blue Bottle Coffee(ブルーボトル)など、サードウェーブの今に繋がっています。
── 最後に将来の夢は?
第二言語としての英語を教える教師になる勉強もしているところなので、将来は外国でコーヒーと英語教育の分野に携わりたいです。日本は自分が行きたい国のトップリストに入っています。いつか叶ったら、皆さんにも私のコーヒーを飲んでもらえればうれしいです。
(Text and some photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止