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7月7日午後7時7分「水辺で乾杯!」。水辺空間は「人びとの健康にプラスの効果」という研究も。

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:アフロ)

身体活動を活発にし、心身の回復を促進し、環境を改善する

 7月7日午後7時7分、全国の水辺で乾杯が行われます。「水辺で乾杯」は7月7日「川の日」に水辺を粋に、静かに楽しもうというソーシャルアクションです。

 まちなかの水辺には「人びとの健康にプラスの効果」があるという研究があります。グラスゴウ・カレドニアン大学のマイケル・ジョルジウ博士らが行った研究(「ブルースペースが人間の健康に与える影響のメカニズム: 体系的な文献レビューとメタ分析」)では、身体の活動を活発にし、心身の回復を促進し、環境を改善することがわかりました。

水は変化をもたらすもの

 この論文にまとめられているようなことは、昔から感じられていたようです。

「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」という『方丈記』の冒頭は「流れていった水は戻ってこない、世界はいつも変化する」という無常を表現したものです。

 『万葉集』にはこんな和歌があります。

写真:イメージマート

  天橋も 長くもがも

  高山も 高くもがも

  月読の 持てる変若水 い取り来て

  君に奉りて 変若得しむもの

 この歌の意味は、「天からのはしごがもっと長ければなあ。もっと山が高ければなあ。そうすれば月読(月の神様)がもっている『若返りの水』をとってきて、愛する人を若返らせてあげられるのに」というものです。

 女性が不老不死の水をもらうために月に行こうとして、「天橋よ、もっと長くなれ。高山よ、もっと高くなれ」と願っています。日本の神話では、太陽の神様である天照大神の弟に、月読という月の神様がいます。月読は「変若水」(をちみず)という不老不死の水をもっていると考えられていました。この和歌はその伝説を踏まえたものでしょう。

 不老不死と水が結びついた話は世界各地にあるのですが、共通している点もあります。

「太古、人は不死であった。それは神から若返りの水をもらっていたからだ。ところがある日、蛇がその水で沐浴すると、若返りの力が消えてしまった。その水を飲んでから、人間は不老不死ではなくなった。一方、蛇は若返りの力をもつようになった(脱皮して若返ったような姿になる)。」

 伝承に共通しているのは、水が老いた肉体を若い肉体へと変化させる役割を果たしていることです。不老不死というと永遠のイメージがありますが、蛇が脱皮するように、心身ともにリフレッシュして、「新しい自分に生まれ変わる」ことを指すのかもしれません。

水辺は潜在的に貴重な公衆衛生資産

 かつて禊という習慣がありました。水で身をそそぐから、「みずそそぎ」→「みそぎ」というのですが、水は体の汚れだけでなく、精神的な汚れも落とすと信じられていました。気持ちのうえで新しい自分になるということで、これも生まれ変わりということになるのかもしれません。

 マイケル・ジョルジウ博士らの論文は、「さらなる研究の必要性」を述べつつ、「世界のほとんどの都市が海岸、湖、川などの水の空間を中心に建設されていることを考えると、水辺は潜在的に貴重な公衆衛生資産であり、都市化の進展に伴う健康リスク因子を軽減するのに役立つ可能性がある」と締めくくられています。

 水辺で乾杯し、心も体も元気になりたいものです。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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