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もう弱小とは呼ばせない!2017年8月以来月間勝ち越しに成功したオリオールズが見せる変化

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ラッチマン選手のMLB初昇格とともに上向き始めたオリオールズ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕当初とは明らかに変貌を遂げたオリオールズ】

 いよいよシーズン前半戦が残り10日余りとなったMLBだが、ア・リーグ東地区のヤンキースや同西地区のアストロズのように早くも独走態勢を整えてしまった地区があれば、ナ・リーグ東地区や同中地区のように熾烈な首位争いを演じている地区もある。

 ただ各地区で首位争いを演じ、勝率5割以上を維持しているチームは、そのほとんどが開幕前から善戦が予想されていたチームばかりだ。ここまではある意味順当な展開で推移しているといっていいだろう。

 そんな中、最近になって下位チームの中で米メディアから関心を集め出しているチームがいるのをご存知だろうか。強豪ひしめくア・リーグ東地区の中で唯一勝率5割を割り込み、開幕から下位に沈むオリオールズだ。

 ところがここ最近オリオールズは、明らかに開幕当初とは変貌を遂げているのだ。

【2017年8月以来の月間成績勝ち越しに成功】

 オリオールズといえば2016年シーズンの地区2位を最後に、チームは主力選手を次々に放出し若手有望選手中心のチーム再建に乗り出したが、2017年シーズン以降はずっと地区最下位が定位置になっている(新型コロナウイルスにより短縮シーズンになった2020年シーズンだけ地区4位)。

 今シーズンも4月の月間成績が7勝14敗とつまずいてしまい、そのまま下位に低迷し続けている状態だ。

 しかし5月下旬あたりから着実に勝ち星を増やし始め、6月は遂に14勝12敗と勝ち越すことに成功している。オリオールズが月間成績で勝ち越したのは、2017年8月(17勝12敗)以来の出来事となった。

【最大11あった借金が今季最長の5連勝で4まで減少】

 7月に入っても、チーム状況は今もいい方向を向いているようだ。

 7月最初のカードとなったツインズ戦は1勝2敗で負け越してしまったが、続くレンジャーズ戦は2試合連続で延長戦にもつれる苦戦を強いられながらも3連勝とスイープに成功。

 そして迎えたエンジェルス4連戦の初戦も4-1で勝利し、今シーズン最長の5連勝を飾っている。未だ40勝44敗と負け越しているものの、一時は最大で11あった借金も4まで減らしている。

【チーム成績自体は投打ともに大きな変化なし】

 着実に勝ち始めたオリオールズだが、その好調の要因を見つけるのはかなり難しい。というのも、投打のチーム成績を月別で比較しても、さほど大きな変化が見られないからだ。

 例えばチーム打率を見ると、4月が.211で、以下5月.244、6月.227、7月.238──と大きな変化はない(ただし長打率は4月から.307→.392→.427→.416と徐々に上昇している)。

 またチーム防御率を見ても、4月が3.76で、以下5月4.36、6月3.86、7月3.98──と、こちらも大きな改善が見られるわけではない。

 現時点でチームの得点数は345でMLB20位、チーム防御率が3.99で同18位ということからも、現在もオリオールズのチーム力はMLBで平均以下だと考えていいだろう。

 にもかかわらず、彼らは着実に勝ち始めているのだ。MLB屈指の攻撃力を武器に開幕から地区争いを続けながら、5月下旬から悪夢の14連敗を喫し一気に下位に転落したエンジェルスとはまさに好対照だ。

【ラッキーボーイ的存在になった?ラッチマン選手】

 現在のオリオールズを象徴するような存在になっているのが、2019年のドラフトで全体の1位指名を受けたアドリー・ラッチマン選手ではないだろうか。

 今シーズンはMLB公式サイトが選出する2022年若手有望選手トップ100で堂々の1位にランクされ、5月20日に満を持してMLB初昇格を果たしたオリオールズ期待の星だ。

 捕手という難しいポジションということもあり、ラッチマン選手の個人成績自体は打率.214、4本塁打、11打点と決して素晴らしいものではない。

 だがラッチマン選手が昇格するまでオリオールズは16勝24敗だったのに対し、5月21日のレイズ戦で彼がMLB初出場を果たして以降、チーム成績は24勝20敗に跳ね上がっているのだ。

 偶然の一致といえばそれまでだが、彼がチームのラッキーボーイ的な存在になっていないだろうか。

 いずれにせよ現在のオリオールズは、弱小チームとして片づけられることができなくなった。むしろシーズン後半戦で台風の目になる可能性すらありそうな気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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