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「禁煙のメリット」ってどんなものがあるの? 短期間でも肺がんのリスク減に

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 タバコを吸う人の多くが禁煙したいと考えている。禁煙はできるだけ早いほうがいいが、タバコをやめるメリットには何があるのだろうか。

禁煙で肺がんのリスクが減る

 喫煙は予防可能な単一の死亡原因として最大のもので、タバコのせいで世界では年間約870万人が死んでいる(※1)。タバコ会社自身がタバコのパッケージで述べているように、健康のためには加熱式タバコを含む全てのタバコをなるべく早くやめることが最善の策だ。

 まず、禁煙すると、肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息などの呼吸器疾患にかかるリスクが下がる。肺がんの死亡率は、禁煙後は徐々に下がっていき、十数年経つと非喫煙者とほぼ同じ程度にまで下がる(※2)。

 短期間の禁煙でも、肺がん患者の生存率を上げる効果がある(※3)。肺がんと診断された後でも禁煙すれば生存期間が長くなることがわかっている(※4)。

喫煙者が禁煙後、肺がんのリスクがどれくらい下がるのかというグラフ。文献2からグラフ作成筆者
喫煙者が禁煙後、肺がんのリスクがどれくらい下がるのかというグラフ。文献2からグラフ作成筆者

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、よく「タバコ肺」とか「タバコ病」などといわれるように、その原因のほとんどが喫煙だ。喫煙者の5、6人に1人は60歳くらいからCOPDにかかる危険性があるが、禁煙すれば確実にリスクを下げることができる。

感染症や認知症のリスクも下がる

 当然だが、禁煙による身体の機能改善への効果がある。それは短期間でも明らかで、禁煙後、1カ月で呼吸機能が大きく改善し、総コレステロールが低下するなど脂質代謝も正常に近づくことがわかっている(※5)。

 喫煙や受動喫煙は生活習慣病の高リスク因子だが、タバコをやめる人が増えれば病気で死ぬ人も減る。

 例えば、脳卒中の死亡率が70%減ったことに対し、塩分摂取量の減少とともに男性の高い喫煙率(1966年の男性喫煙率は83%以上)の減少、健康診断の普及などの効果を指摘する研究もある(※6)。

 タバコをやめればインフルエンザや新型コロナのような感染症にかかるリスクを下げられるし、タバコをやめればビタミンBが破壊されることがなくなり、肌の張りや艶が戻り、印象が若返るという効果もある。

 喫煙者は、非喫煙者と比べ、5倍から20倍、歯周病になりやすい(※7)。禁煙すれば、歯周病によって歯を失うリスクが下がるばかりか、歯周病によって悪影響を受け、その発症に関係するとされる、糖尿病、心血管疾患、がん、アルツハイマー型認知症などのリスクも下げられる(※8)。

 また、タバコを吸ったことのない人と比べ、喫煙者が認知症になるリスクは2.2倍、アルツハイマー病になるリスクは2.3倍になる(※9)。

短時間で禁煙の効果を実感できる

 女性の喫煙では、妊娠中にタバコを吸うとタバコに含まれるニコチン、一酸化炭素、活性酸素などが胎児の発育などに悪影響をおよぼす。その結果、胎児や胎盤への酸素供給が減り、低酸素状態になったり、低出生体重児や早産のリスクが大きくなったりする(※10)。

 禁煙した喫煙者は、男女ともに死亡リスクが低くなる。そして、10年以上の禁煙で寿命はほぼ非喫煙者と同じ程度になる(※11)。

 禁煙する人が増えると、心血管疾患と呼吸器疾患にかかるリスクが下がる。そして、これらの病気による入院リスクも下がり、低体重児出産、早産、死産などの有害な出生リスクも下がる(※12)。

禁煙後の身体の変化(複数の文献より)、表組み作成筆者
禁煙後の身体の変化(複数の文献より)、表組み作成筆者

 こうした健康への悪影響とともに、タバコは経済的にも喫煙者個人や社会全体に大きな負担を強いる。1箱600円のタバコを1日1箱、1年間買うと20万円以上になる。10年で200万円、20年で400万円だ。

 また、医療費、介護費、労働生産性の減衰など、タバコによる経済的な負担はタバコ税収を上回る。

 禁煙すれば味覚や嗅覚が正常になり、食べ物を美味しく感じられると同時に、喫煙所を探す煩わしさから解放される。

 ニコチン切れのストレスからも解き放たれ、イライラすることも減る。家族や近隣住民、ペットなどに受動喫煙の害をおよぼす心配がなくなり、人生が豊かになるだろう。

 以上をまとめれば、禁煙すると呼吸器疾患、がん、感染症、歯周病、認知症、有害出生事象などのリスクが減り、経済的な負担がなくなり、タバコを吸うことによる時間のロスも減る。

 これらは健康への危険性がある加熱式タバコでも同じだ。いいことづくめなので、喫煙者は今すぐにでも禁煙したほうがいい。

※1:GBD 2019 Risk Factors Collaborators, "Global burden of 87 risk factors in 204 countries and territories, 1990–2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019" THE LANCET, Vol.396, Issue10258, 1223-1249, 17, October, 2020
※2:Kenji Wakai, et al., "Decrease in risk of lung cancer death in Japanese men after smoking cessation by age at quitting: Pooled analysis of three large-scale cohort studies" Cancer Science, Vol.98, Issue4, 584-589, 12, February, 2007
※3:Aline F. Fares, et al., "Association between duration of smoking abstinence before non-small-cell lung cancer diagnosis and survival: a retrospective, pooled analysis of cohort studies" THE LANCET Public Health, Vol.8, Issue9, E691-E700, September, 2023
※4:Honghun Lai, et al., "Impact of smoking cessation duration on lung cancer mortality: A systematic review and meta-analysis" Critical Reviews in Oncology/Hematology, Vol.196, doi.org/10.1016/j.critrevonc.2024.104323, April, 2024
※5:Aldo Pezzuto, et al., "Short-Term Benefits of Smoking Cessation Improve Respiratory Function and Metabolism in Smokers" International Journal of Chronic Obstructive Pulmonary Disease, Vol.18, 2861-2865, 1, December, 2023
※6:Tamami Shirai, Kazuyo Tsushita, "Lifestyle Medicine and Japan's Longevity Miracle" American Journal of Lifestyle Medicine, doi.org/10.1177/15598276241234012, 19, March, 2024
※7:Jan Bergstrom, "Tobacco smoking and chronic destructive periodontal disease" Odontology, Vol.92, 1-8, September, 2004
※8-1:Ngozi Nwizu, et al., "Periodontal disease and cancer: Epidemiologic studies and possible mechanisms" Periodontology 2000, Vol.83, Issue1, 213-233, 8, May, 2020
※8-2:Pradeep S. Anand, et al., "A case-control study on the association between periodontitis and coronavirus disease (COVID-19)" JOURNAL OF Periodontology, Vol.93, Issue4, 584-590, 4, August, 2021
※8-3:Peter Riis Hnasen, Palle Holmstrup, "Cardiovascular Diseases and Periodontitis" Periodontitis, 261-280, DOI: 10.1007/978-3-030-96881-6_14, 26, May, 2022
※9:A Ott, et al., “Smoking and risk of dementia and Alzheimer’s disease in a population-based cohort study: the Rotterdam Study” THE LANCET, Vol.351, Issue9119, 1840-1843, 1998
※10-1:Judith Lumley, et al., “Interventions for promoting smoking cessation during pregnancy” Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD001055.pub3, 8, July, 2009
※10-2:Joshua P. Vogel, et al., “The global epidemiology of preterm birth” Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynaecology, Vol.52, 3-12, October, 2018
※11:Eo Rin Cho, et al., "Smoking Cessation and Short- and Longer-Term Mortality" NEJM Evidence, DOI: 10.1056/EVIDoa2300272, 8, February, 2024
※12:Shamima Akter, et al., "Evaluation of Population-Level Tobacco Control Interventions and Health Outcomes A Systematic Review and Meta-Analysis" JAMA Network Open, Vol.6(7), e2322341, 7, July, 2023

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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