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浮上する「老人クラブ」の「高齢化問題」

斉藤徹超高齢未来観測所
(写真:アフロ)

制度疲労を起こす高齢者向け活動施設

かつては多くの高齢者に支持されていた高齢者向け施設や活動が、時代の変化とともにある種の制度疲労を起こすケースが見受けられるようになっています。その代表的ケースとして挙げることが出来るのが、地域高齢者の交流の場である老人クラブ(老人会)と高齢者の職業紹介所であるシルバーサービス人材センターです。

これらの組織は、地域のリタイア高齢者が元気に活動するためのリソース提供を目的に生まれたものですが、高齢者数の増加とはうらはらに、近年、活動参加人員の減少が顕著となっています。

平成22年に718万人であった全国の老人クラブ会員数は、27年には606万人と約100万人減少し(全国老人クラブ連合会資料)、シルバーサービス人材センターの会員加入数も平成21年の79万人から漸減、26年には72万人と約7万人減少しています(全国シルバー人材センター事業協会統計資料)

この両者ともに言えるのが、従来は上手く機能していた高齢者向けの活動組織が、戦後生まれの高齢者の登場や時代変化の流れとともに、新しい高齢者の支持を得られなくなってしまっているという事実です。

老人クラブの活動実態

今回は老人クラブの活動を見てみましょう。

老人クラブ組織活動の根拠法は、昭和38年制定「老人福祉法」にあります。第13条で「地方公共団体は、老人の心身の健康の保持に資するための教養講座、レクリエーションその他広く老人が自主的かつ積極的に参加することができる事業(以下「老人健康保持事業」という。)を実施するように努めなければならない」とされ、「地方公共団体は、老人の福祉を増進することを目的とする事業の振興を図るとともに、老人クラブその他当該事業を行う者に対して、適当な援助をするように努めなければならない」と定められています。 制定当初は隠居(リタイア)した高齢者のための福祉施設としての位置づけであったと言えるでしょう。

この法律に基づき、現在も各地区でさまざまな活動が展開されています。活動に関しては、基本的に各組織の自主運営に任されていますが、多くは趣味・文化・芸術・スポーツなどのクラブ活動、健康づくり・介護予防関連活動を中心に、ボランティアなどの社会奉仕、リサイクル、地域の高齢者の見守りなどの活動が行われています。

クラブ数は全国で約10万5千クラブ、加入会員総数は606万人となっています(平成27年3月末現在)。加入条件は概ね60歳以上、一定の年会費を払えばクラブに加入することが可能です。日本の60歳以上人口は3,928万人(平成22年国勢調査)ですから、老人クラブ加入率は約15%ということになります。加入率の多寡や、組織力は別にしても、この老人クラブという組織が国内最大の高齢者団体であることは間違いないでしょう。

減少する老人クラブの加入会員

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近年の老人クラブ活動における最大の課題は、クラブ数と加入人員数の減少にあります。図1は平成22年から27年の変化を示したものです。平成10年をピークにクラブ数、会員数ともに減少に転じており、近年も同様の傾向が続いています。

会員減少の最も大きな理由は、新規会員加入率の低さにあります。その結果、クラブの会員組織自体が高齢化し、若手による事業運営の移行がスムーズに進まず、クラブ継続が困難となるといったある種の悪循環を生み出しています。

新規会員獲得が上手くいかない理由として考えられるのが、新しい高齢者ニーズとのミスマッチです。活動内容の多くは、カラオケ、囲碁将棋、健康体操、ゲートボールなど、現在の中心メンバー70代のニーズにマッチした活動が中心です。

団塊世代に象徴される戦後生まれ世代にとっては、”老人クラブ“という名称自体からして、自分自身が参加すべきサークルとして共感されていない可能性が高いと言えます。

老人という言葉の語感は、電通総研の調査でも極めてイメージが低くなっています。60~79歳の男女の7割強の人が、「老人という言葉は、まだ自分には早すぎる」と答えています。老人クラブという名称に潜むネガティブ・イメージは早々に払拭していく必要があるでしょう。

加入条件の60歳は、現在では多くの人はまだ働き続けています。改正高齢者雇用法の影響もあり、就業率は明らかに高まる傾向にあります。男性では74%、女性でも48%の人々が60代前半段階では働き続けており(労働力調査)、今や定年でリタイア可能な人は、金融的にゆとりのある特異な人といえるでしょう。

会員数の減少は、当然各老人クラブも危機と感じ、平成26年からは、「100万人増強運動期間」として、積極的な勧誘の推進、成功事例の共有などに努めています。

都道府県で大きく異なる参加率

60歳以上の老人クラブ加入率は約15%と述べましたが、県別で加入率を確認してみると、上は富山県の47%から下は神奈川県の5%弱まで大きく格差があることが分かりました。 図2-1,2は参加率上位、下位の10県を並べたものです。端的な傾向として、都市部になればなるほど参加率が低いことが分かります。都市部では、老人クラブに代替する民間のスポーツクラブや趣味教室などが数多く存在し、加えて老人クラブのベースとなるコミュニティに対する関心の薄さもあり、低い加入率となっていることが推察されます。

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地域コミュニティにおける老人クラブの重要性

今後、高齢化がますます進む中で、老人クラブの存在は、地域コミュニティを維持する上で極めて重要なコミュニティであることは疑いありません。しかし今後、サステナブルに活動を継続していくためには、今までのやり方に一定の見直しが必要であることも事実です。今後、老人クラブが地域コミュニティにおいて果たすべき役割は何か、「老人福祉法」的根拠に頼らず、再度社会的な合意形成を図っていくタイミングにあるのではないでしょうか。

体力的にも元気で働いている60歳の男性が、地域の社交クラブ活動をコミュニティに対して求めることはまず無いでしょう。むしろ将来、彼らが地域コミュニティ活動に参画してもらえるために、どのようなアプローチが必要か考えていくことが大切でしょう。元気高齢者が虚弱高齢者を支える、現役時代に得たノウハウや知識をコミュニティに還元するといったアプローチもそのひとつです。60歳からの組織と言っても、60歳と80歳では親子ほどの世代差があるわけで、思い切って活動内容を世代別に分けてみることも必要かもしれません。

老人クラブは、企業のように上意下達のヒエラルキーで動く組織ではなく、参加者の善意に基づいて成立している組織です。それだけにスピーディな意思決定は難しいでしょうが、今後NPOやボランティアなどに代表される地域での市民セクターが果たす役割はますます大きくなってくるはずです。老人クラブも超高齢社会における地域課題を解決する第3セクターとして、果たすべき役割はさらに重要となるに違いありません。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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