なぜベリンガムはレアルで素早く適応できたのか?ジダンとジェラードのマッシュアップ。
本来、適応には、時間がかかるものだ。
レアル・マドリーは今夏、ボルシア・ドルトムントからジュード・ベリンガムを獲得した。移籍金1億300万ユーロ(約155億円)を支払い、イングランド代表のヤングタレントを確保している。
そのベリンガムは、マドリーで素早い適応を見せている。今季、リーガエスパニョーラ開幕から8試合で、8得点をマーク。新天地で、躍動している。
■ラウールとの類似性
なかでも印象的だったのは第4節のヘタフェ戦だ。タイスコアで迎えた95分、ベリンガムがゴール前に現れ、ボールをプッシュ。決勝点を挙げた。
多くの選手は、味方がシュートを打った時、その行方と球筋を追う。しかしながら、中にはセカンド・アクションに備えて動き出す選手というのが存在する。ベリンガムのプレーは、まるで全盛期のラウール・ゴンサレスのような得点だった。
「銀河系軍団」と呼ばれたレアル・マドリーで、ラウールはスタープレーヤーが加入するたびにベンチ要員になると書き立てられた。ロナウド、マイケル・オーウェン、ルート・ファン・ニステルローイ…。だがラウールは強いメンタルと労働力、そして「ごっつぁんゴール」で自身のポジションを確立していった。
■戦術と布陣変更
そのラウールがロナウドを最前線に置いたシステムにおいて「1.5列目」のポジションで輝いたのと、ベリンガムがトップ下で活躍しているのは偶然の一致なのだろうか。
カルロ・アンチェロッティ監督は今季、マドリーでシステムチェンジを断行した。従来の【4−3−3】をやめて、【4−4−2】を採用。中盤ダイヤモンド型の布陣で、トップ下のポジションが生まれ、そこにベリンガムが嵌められた。
それは、ある種のコンバートだった。ベリンガムはこれまで、ダブルボランチの一角、あるいはインサイドハーフでプレーしてきた。その選手をトップ下でレギュラー起用するというのは、一種の「賭け」だった。しかしアンチェロッティ監督はその賭けに勝った。
アンチェロッティ監督はかつて、ミランでアンドレア・ピルロのコンバートに成功していた。黄金時代のミランで、【4−4−2】中盤ダイヤ型もしくは【4−3−2―1】クリスマスツリー型のシステムで、アンカーにピルロが入った。
ピルロは中盤の底から自由にゲームを組み立てた。長短のパスを織り交ぜた、正確なキックで。またアンチェロッティ監督はジェンナーロ・ガットゥーゾ、マクシミリアーノ・アンブロジーニといった選手でアンカーの脇を固めて、守備を担保していた。
実は、マドリーの新ステムというのは、それに近いのではないか。
ベリンガムをトップ下に置く。彼の背後にはフェデリコ・バルベルデ、エドゥアルド・カマヴィンガ、オウレリアン・チュアメニが構えている。フィジカルベースの高い選手が揃っており、守備力の担保があって、ベリンガムの躍動があるのだ。
■ジダンの肖像
先に、ベリンガムをラウールに擬(なぞら)えた。もう一人、マドリーのレジェンドを引き合いに出す。ジネディーヌ・ジダンだ。
ベリンガムはジダンに憧れていた。ゆえに、マドリー移籍を選択し、「5番」を選んだという経緯がある。
「大げさに聞こえるかも知れないが、ベリンガムはスモールスペースでジダンのように、オープンスペースで(スティーブン・)ジェラードのようなプレーを見せる選手になる可能性がある。彼らをミックスさせたような選手になれるか? それを予言するのは不可能だ。もちろん、難しい。けれども、それが達成できたら、まさに唯一無二の選手になれる」
「ベリンガムにも課題はある。細かいところのポジショニング、ターンの仕方、パスの選択と判断、自分自身と状況に忍耐を持つことなどね。スピードの問題ではなく、試合により影響を与えるようなプレーが必要だ」
このように語るのはドルトムント時代にアシスタントコーチでベリンガムを指導したレネ・マリックだ。
ジダンとジェラードのマッシュアップーー。「5番」と「8番」を混ぜたような選手が、君臨することになる。
無論、マドリーでは、良いプレーをしただけでは評価されない。マドリディスタが望むのは勝利であり、タイトルだ。
ベリンガムはスタートダッシュに成功した。あとは、「唯一無二の選手」に向かって、タイトル奪取を目指すのみである。