ノルウェー国営放送局が子ども番組で「クリントン応援団」?偏向報道だと批判
子どもを社会の一員として尊重するノルウェーでは、政治や選挙の議論に子どもも積極的に参加させる。米国大統領選においても、できる限りわかりやすい形でニュースを伝えようと、メディアは努力していた。
だが、ノルウェー国営放送局が放送する8~12才向けの子ども向けのニュース番組『スーパー・ニット』は、勢いがつきすぎたようだ。放送内容が、クリントン氏を応援する偏向報道だったと批判を受けている。
問題となっているのは、11月8日放送の7分42秒の放送回。共和党と民主党の政策の違い、ドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏の性格や発言を分かりやすく説明したものだ。
一体、何が問題だったのだろうか。
例えば、放送では、何十人もの10代の子どもたちが出演しており、全員がクリントン支持であるという発言が順番に紹介された。
- 「ヒラリーが勝つといいんだけど」(10才・男子)
- 「ヒラリー、がんばって!」(12才・女子)
- 「トランプはもっと武器を欲しがっている。よくないわ」(12才・女子)
- 「初の女性大統領なんて、格好いい」(12才・女子)
- 「ヒラリーは子どものことを気にかけている。トランプはそうじゃない。彼は子どものことはほとんど話さない」(12才・男子)
- 「彼に投票しようという人がいることが怖い」(12才・男子)
- 「トランプは違う肌の色の人が欲しくないのよ」(12才・女子)
また、「誰が勝つと思う?」という質問に、「クリントン」、「クリントン」、「クリントン」、「クリントン」と、何人もが順番に言うシーンを放送。
何か怖いことが起こるぞということを連想させるような音楽、そして写真を使った編集方法も特徴的だった。
「もし権力が間違った者の手に渡ってしまえば、悪いことが起きる」と10才のエンゾーさんが話した後は、トランプ氏の映像が出る。「民主党は防衛においては、他国との協力関係に興味がある」という解説後に、ノルウェー防衛大臣の写真が映し出された。
加えて、「大統領にはペットを飼う義務がある」と説明したうえで、「私たちのペットが、大統領選の結果を予想できるか、試してみましょう!」と実験を開始。両候補の顔写真の前に餌を置き、ハムスター、犬、猫、亀、ウサギなどが、どちらの候補者の餌を選ぶか録画した。結果、クリントン氏が大統領になるという結果に。
放送では、トランプ氏を応援する子どもの声は一度も紹介されなかった。
トランプ大統領誕生に、メディアの影響で子どもたちが怖がる?
ノルウェーのメディアは全体的に左派向けの報道をしている。数少ない右派メディアであるネット新聞ネットアヴィーセンは、「国営放送局はプロパガンダ番組を放送した」とする批判記事を掲載。
娘を持つ父親は同紙にこう語る。「ドナルド・トランプは子どもを憎んでいないと、説明しなければいけなかった。彼にも5人の子どもがいるのだからと、彼が戦争を始めるわけではないと。簡単ではありませんでした。娘はテレビの言うことが、真実だと思っていましたから」。
右翼ポピュリスト政党で、与党である進歩党にはトランプ支持者が多い。ペール・サンドバルグ漁業大臣は、今回の子ども番組に対して、「このことは私の家庭でも今日話題となっていたばかりだ。大統領選は、子どもに対して主観的な方法で伝えられているようです。あまり良い気分にはなりません」と自身のフェイスブックに寄稿。
また、シルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣(進歩党)も、メディアの報道が子どもたちを怖がらせていると、フェイスブックでコメントしていた。
放送評議会も批判
国営放送局は、ほかにもドキュメンタリー番組において、大統領選における報道の仕方に偏りがあったとされている。同局によると、ノルウェー放送カウンシルには合計149件のクレームが届いている。苦情の多くは、ドナルド・トランプにおける描写方法についてだ。
ノルウェーには国営放送局に対する苦情処理、放送内容の審査・助言を行う放送評議会がある。24日に開催された会議では、「同局は批判されるに値する」と評価。米国大統領選における報道において、クリントン氏を嫌う層を十分に分析・カバーできていなかったとみなした。
放送評議会は、昨年も、国営放送局の番組には、左寄りの皮肉・風刺が多すぎるとして、右寄りの風刺を増やすように助言。同局は、この批判を真摯に受け止めず、風刺番組などで笑いのネタとして反撃した。
Photo&Text: Asaki Abumi