センバツから導入の「飛ばないバット」 それでも指導者が「高校生にとってメリットがある」という理由は?
センバツ選考会も終わり、出場校は本番に向けて調整に余念がないところだろう。秋の実績をリセットするのがセンバツではあるが、特に今大会は新基準の「低反発バット」導入で、未知数な部分が例年よりも多い。
新バットは細いが重く、かなり高価
このバットを使っての公式戦はセンバツが最初になるので、客観的にもわからないことだらけ。同じ金属バットでも、最大直径が3ミリ細くなり、打球面を従来より1ミリ以上厚くすることによって、900グラム以上の重さを保つ。このバットの反発性能は木製に限りなく近く、そのため打球速度や飛距離も木製に準じる。ただ費用面では1本3万5千円前後で、従来の倍額となり、部活費の少ない公立校には大きな負担となる。そのため日本高野連は、全国の加盟各校に新バットを3本ずつ(当初2本も昨年末に追加)配布した。実際に現場はどのような対応をしているのだろうか。
木のバットは思い切り振れない
センバツに出場する京都外大西は、近畿大会決勝後すぐにバットを切り替えた。
上羽功晃監督(54)は当初、「木のバットの方が飛ぶ、みたいなことも聞いたので(新バットと)併用した。でも打撃が崩れたのですぐやめた」と明かした。理由は飛距離云々ではなく「慣れていない木のバットだと、折れるのを恐れて当てにいく選手が続出したから」だとか。確かに高校生の技術は発展途上で、芯を外すのは当たり前だ。低反発とはいえ「金属バットの方が思い切って振れる」(上羽監督)ということで落ち着いた。
「芯を外すと打球が遅く、野手を越えない」と主砲
実戦で使ってみての印象について、選手と指導者に聞いてみた。秋は主に3番を打った主砲の松岡耀(2年=タイトル写真)は、「芯を外れたら打球が遅くなるし、野手を越えなくなる。特にゴロが抜けない」と分析した。実際に「越えたと思った打球が普通にアウトだった」ことがあった半面、芯でとらえるとよく飛んだようだ。「芯が狭くなっているのでミート力をつけて、左中間、右中間を抜けるようなバッティングをしたい」と話し、ミート力アップに努めている。
「腕力に頼る打撃は影響がある」と監督
指導する上羽監督は、「腕力に頼る打撃には大きな影響があると思う」と話したが、戦い方に大きな変化はないという。「ウチは長打で得点しようとは思っていない。芯でとらえることは変わらないので、力任せじゃなく、ボールをとらえてしっかりしたフォームで打つという指導は、今までと変わらない」と、身振り手振りを交えて解説してくれた。むしろ影響を受けるのは守備側、特に外野守備をポイントに挙げた。
外野の守備は難しいが、投手はメンタル面で有利
外野手は打球音で飛距離を判断する。昨秋の神宮大会で、いち早く新バットで戦った北海(北海道)の試合を配信で見たが、鈍い音が多かった。上羽監督は秋に新バットで試合をした際、「『越える』と思った打球が全然飛んでいなかったこともあって、外野手の勘が狂っていた」と振り返った。打撃も守備も「まずは慣れること」だと話す一方、「投手は絶対に有利」だと断言する。「長打がないと思えれば、ストライクをどんどん取りにいける。インコースも攻められるし、メンタル面で大きい」。今センバツが、投手力のいいチームほど上位進出を期待できると言われる所以だろう。
このバットで高校生の技術は上がってくる
さらにこのバットが一般的に戦術面、費用面で否定的な受け取られ方をされる一方で、上羽監督は「高校生の技術が上がってくると思う。将来を考えると、いいこと」と、むしろ歓迎する姿勢を見せた。高校時代、猛打をほしいままにしながら木製バットになじめず、プロの壁にぶち当たった選手を数多く見てきた。この新バットを使っての打撃は、限りなく木製バットのそれに近い。これならプロのスカウトの眼力も狂うことはない。ミート力、コンタクト力に優れた打者に有利なバットは、スカウトにとっても大歓迎なのではないだろうか。