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原油価格が5カ月ぶり高値、OPECの作戦成功

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 NY原油先物相場は1バレル=60ドル台前半まで値上りし、昨年11月7日以来となる約5カ月ぶりの高値を更新した。世界経済の減速傾向が強まる中、「経済の血液」たる原油価格も大きなダメージを受け、昨年12月には一時42.36ドルと2017年6月以来の安値を更新していた。しかし、今年に入ってからは3ヵ月連続で上昇中であり、4月入りしてから更に上昇ペースを加速させるような動きを見せている。

 こうした原油高を演出しているのは、石油輸出国機構(OPEC)やロシアといった伝統的産油国の取り組みだ。

■ミッション・コンプリート

 世界経済の急激な減速に伴う需要環境の悪化、シェールオイルの増産加速、米政府のイラン産原油に対する経済制裁と連動したサウジアラビアやロシアの過剰増産など幾つかの要因が国際原油需給バランスを供給超過方向に傾ける中、OPECやロシアは難しい選択を迫られた。減産対応を講じれば当面の需給バランスを安定化させることは可能だが、シェールオイルの増産が続く以上、一時的に減産を行ってもシェールオイルに市場シェアを譲り渡すだけの結果に終わるのではないかとの警戒感があったためだ。減産には限界があるが、増産には限界がなく、減産によってシェールオイルの増産分を吸収する戦略の是非をめぐって激しい論争が展開された。

 しかし、最終的には昨年12月のOPEC総会において、OPEC内の11カ国とロシアやメキシコ、カザフスタンなど非OPEC10カ国が合計で日量119万5,000バレルと、世界の原油生産の約1.2%を削減することで合意し、まずは今年1~6月期に減産対応によって国際原油需給と価格の安定化を目指す方針が採用された。

 当初はマーケットでも、減産合意が遵守されるのか、そもそも国際原油需給の安定化に十分な減産規模なのかといった議論があり、50ドル台から更に上値を試すことには慎重ムードが目立っていた。特に最後まで減産合意に難色を示していたロシアの動向に不透明感が強く、過剰供給解消に確信が持てない状態が続いていた。

 だが、1~3月期の減産対応状況をみてみると、減産合意の順守率は1月の83%が2月には90%まで改善し、3月にはほぼ100%に到達した可能性が高い情勢になっている。特に積極的な貢献を行っているのがサウジアラビアであり、ロイター通信の推計だと日量32万2,000バレルの減産割当に対して、その2.3倍となる73万3,000バレルもの大規模な減産対応を実施している。

 当初は需給バランスの正常化を疑問視していた国際エネルギー機関(IEA)も、3月の月例報告では4~6月期には日量50万バレル前後の供給不足が発生するとの見通しを示し、減産による過剰供給状態の解消見通しを追認した。OPECやロシアからみれば、足元の原油高は「ミッション・コンプリート(作戦成功)」との評価になるのだろう。

■イランとベネズエラ産原油を排除する動き

 そして、このタイミングに米政府が対イラン、対ベネズエラの経済制裁強化の動きを見せていることが、原油市場を更に刺激し始めている。OPECやロシアの減産対応のみでも供給過剰から供給不足への転換が見通せる状況になっているが、このタイミングでイラン産とベネズエラ産原油の供給が大きく落ち込めば、必要以上に原油需給が引き締まる可能性が浮上するためだ。

 米国務省のブライアン・フック特別代表(イラン担当)は、「(イラン産原油取引量)ゼロに向けての取組を加速させるために良い市況環境」にあるとして、イラン産原油に対する制裁の例外措置を認めない方針を強く示唆している。昨年11月に経済制裁が発動した際には、日本や韓国など8カ国が例外認定を受けていたが、例外認定の延長は行われない公算が高まっている。

 一方、ジョン・ボルトン米大統領補佐官は、ベネズエラ産原油に対する経済制裁について、米石油会社のみならず第三国の企業に対しても適用対象を広げる考えを示している。マドウロ政権の資金源を断つために、イラン産原油と同様にベネズエラ産原油も国際市場から排除することを目指している模様だ。

 昨年に原油価格が70ドル台まで上昇した当時と異なり、足元ではOPECなどが減産対応によって膨大な増産余力を有しているため、深刻な需給ひっ迫状態に陥るとみる向きは多くない。しかし、短期間に供給環境が激変し、しかも特定地域からの原油供給が途絶える事態になれば、原油の「量」とは別に「質」を巡る混乱状態も発生し易くなる。

 原油需給の短期タイト化リスクは急激に高まっており、シェールオイル増産やトランプ米大統領の産油国に対する増産要請プレッシャーなどが、いつこの流れに修正を迫るのかが注目されている。特にシェールオイルは年後半に増産ペースが加速することが確実視されているだけに、必要以上の原油高は年後半の原油需給緩和と原油安リスクを高めることに注意が求められる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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