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白星発進のなでしこ。PK獲得につなげた2トップのコンビネーションを解析する。

河治良幸スポーツジャーナリスト

女子W杯連覇を狙うなでしこジャパンは前半28分に宮間あやがPKを決めて奪った1点を死守する形で白星スタートとなりました。決定的なピンチでスイスのミスに救われるなど、粘り強さを見せつつも辛勝という言葉が相応しい試合で、とにかく勝ち点3を獲得できたことが全てでしたね。

攻撃も開幕独特の固さ、慣れない人工芝のバウンドもあってかミスが目立ち、なでしこらしいパスワークも散発的でした。それでもPKをしっかり決めてリードを守り切れたことで、また切り替えて次の試合に臨めるはずです。

そのPKを獲得したシーンですが、2トップの大儀見優季と安藤梢の見事なコンビネーションが相手GKのファウルを誘う結果となりました。

日本が攻撃を仕掛けたところでFWのバッハマンにカバーされ、GKテルマンにバックパスをしたところから流れは始まりました。この時点で日本は守備に切り替えるわけですが、全体的に高い位置はキープしています。

そこからキックの距離が短い女子サッカー特有の現象ではありますが、GKテルマンのキックを右サイドのヒュムが中に絞りながら受けようとしたところで、相手陣内まで出た左サイドバックの宇津木瑠美がカットし、そのボールがダイレクトパスの様な形で前方の大儀見に渡ります。

スイスは一度攻撃に入ったため、DFラインもワイドになっていた結果、大儀見をフリーにしていました。ここはスイスとしても仕方ない形ですが、問題はボールをおさめに入った大儀見に対し、慌ててアプローチした右センターバックのアッベと相棒のワルチが遅れ気味のチャレンジ&カバーになってしまったことです。

その結果、センターバックに縦のギャップができ、ワルチと左サイドバックのリナストの間にオンサイドのスペースが生じたわけですが、素晴らしかったのは安藤の動き出しと、その動きをしっかり見てパスを出した大儀見のポストプレーです。

本当はボールがDFの裏でワンバウンドした落ち際を安藤がボレーで仕留められれば奇麗な形でゴールになっていたはずですが、GKのテルマンが迫力ある飛び出しで入ってきたため、ボールが高く上がったところで合わせにいく体勢になったため、交錯する形になりました。

あらためて検証すると、GKが蹴った時点では大儀見も安藤もボールの行方を追っているのですが、そこから宇津木がロングボールをカットした瞬間には攻撃に切り替えています。そしてボールが自分のところに来る前に大儀見は瞬間視で安藤のポジショニングと相手の守備を確認しています。

安藤も宇津木がカットした瞬間に相手の守備状況は把握していたはずですが、大儀見が安藤を見たタイミングでスタートを切っています。つまり大儀見の瞬間視は確認と同時にアイコンタクトにもなっているわけです。

理想的な攻撃が展開できない中でも、素早い攻守の切り替えと的確な状況確認、そして阿吽のコンビネーションで勝利につなげた2人の働きは見事でした。

安藤さんの負傷は気がかりですが、大儀見さんの柔軟なポストプレーを中心に、こうした研ぎ澄まされたフィニッシュのイメージとコンビネーションが前線でうまく形になれば、強豪相手でもゴールを奪えると思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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