強豪オーストラリアを撃破も、初戦への課題は?アップデートされたなでしこジャパンの現在地
東京五輪初戦まで、あと1週間と迫る14日、なでしこジャパンがオーストラリア女子代表と対戦。53分、DF宮川麻都のパスに抜け出したMF長谷川唯のクロスが相手の手に当たり、FW岩渕真奈が決めたPKが決勝点となった。
五輪に出場するオーストラリアは、本大会前最後のこの日本戦を、「初戦のニュージーランド戦に向けたプロセス」(オーストラリア/トニー・グスタフソン監督)と割り切り、後半開始時に6人を一気に交代させるなど、大胆なチャレンジを見せた。一方、日本は久々となる強豪との対戦で、慎重さが目立った。高倉麻子監督は、「本格的に世界上位のスピードやパワーを体感しながら、前半は少し硬い感じのゲームになった」と振り返る。
守備面ではたしかな手応えがあった。
コンパクトな守備で、スピードのある選手が多いオーストラリアの縦への推進力を牽制。攻撃のキーパーソンであるFWサマンサ・カーは前半のみでベンチに下がり、脅威を感じさせる場面はほとんどなかった。昨年10月から、フィジカルの強い強豪国との対戦を想定して男子チームとの合同トレーニングを重ねてきた成果は、カウンターへの対応や、相手のクロスに対して中央を崩されない守備にも現れた。寄せが甘くなりクロスを上げられたシーンも何度かあったが、全体的に1対1の強度が上がり、無失点に抑えたことは収穫だ。
この試合でオーストラリアが用いたフォーメーションは3-4-3で、日本はこれまでの国際試合ではあまり経験がない。だが、キャプテンのDF熊谷紗希が、「相手が3バックで来るのではないかという情報を持っていたので、事前に紅白戦を含めてそういう相手にどう回すかについては、かなり練習を積んで入ることができました」と語ったように、前線からの相手のプレッシャーをうまくかわすことができていた。GK山下杏也加も含めた最終ラインのボール保持は安定しており、練習から密にコミュニケーションを重ねてきた積み上げが感じられる。
一方、相手陣内での攻撃は、避けられない課題を浮き彫りにした。
4-4-2の日本は、サイドで長谷川やMF塩越柚歩がフリーになるシーンがあったが、味方を追い越す動きや3人目の効果的な動きが少なく、リズムが単調に。レベルが同等か格下の相手には攻撃のアイデアが次々と湧き出してくるが、相手の守備の強度が上がると連係に綻びが出て、個人頼みになってしまう。それは、昨年3月のシービリーブスカップで、強豪国のアメリカやスペイン、イングランドと対戦した際にも直面した問題だ。
この試合では、久々の強豪との対戦で「先に失点を避けたい」という思いも、慎重さや硬さにつながったように見える。加えて、岩渕は予想以上の湿度の高さに苦しんだことも明かしており、「自分自身も含めて全体の運動量を上げた中で、もっとボールに絡む意識を全員が持たなければいけないなと思います」と、初戦のカナダ戦までの1週間で、コンディションを上げていく必要性を口にしている。
グループステージを確実に勝ち上がるために、初戦はあえてリスクを冒さず、守備重視で勝ち点「1」を取りにいく戦い方もある。だが、高倉監督は、「目の前の試合に勝って試合を進めていくのは自分の中で当然です。3試合目になれば勝ち点計算で狙いを持ってやることはありますが、初戦は全力で勝ち点3を取りにいきたいと思います」と明言している。
カナダは、日本より二つ上、オーストラリアよりも一つ上のFIFAランク8位だ。サイドも含めて前線にスピードのある選手が複数いるため、あえて引いた状態で日本のミスを待ち、カウンターを仕掛けてくる可能性もある。日本は2019年のW杯初戦で、引き分け狙いで守備に徹したアルゼンチンに対して最後までゴールを奪えない苦い経験をした。同じように緊張感が張り詰める大舞台で、「一発」のあるカナダに対して、どのようにリスクを冒して点を取りにいくのか。
流れを見ながら積極的に交代カードを切り、変化をつけて、相手の運動量が落ちるであろう後半で一気に仕留めるのも一つの有効な策だろう。
オーストラリア戦で、日本は1点をリードした後の62分に一気に前線を4枚入れ替え、攻撃を活性化した。MF遠藤純の左足の強烈なミドルシュートが枠を捉えた64分のシーンは流れを変えたし、MF杉田妃和の運動量とテクニックは、足が止まったオーストラリアに脅威を与えた。
前半、効果的にボールを動かして相手を消耗させることができれば、勝負どころはまた変わってくる。先発と交代のバランスや組み合わせによって、攻撃面の課題を解消することはできるかもしれない。
カナダ戦まで、いよいよあと5日。チームは試合翌日の15日に、初戦が行われる札幌に入り(21日、札幌ドーム)、チーム作りの最終段階に入った。