なぜアトレティコはエルモソ獲得に失敗したのか?堅守速攻というスタイルの代償。
アトレティコ・マドリーが昨夏、ジョアン・フェリックス獲得に移籍金1億2700万ユーロ(約146億円)を支払ったのは、大きな話題を呼んだ。
アントワーヌ・グリーズマンの代役を確保するために、巨額の資金が動いた。だがディエゴ・シメオネ監督に課せられていたタスクは、それだけではなかった。
ロドリ・エルナンデス、ディエゴ・ゴディン、フアンフラン・トーレス、ルカ・エルナンデス、フィリペ・ルイス...。長年、シメオネ・アトレティコの中心になっていた選手が、クラブを去っていった。主力の高齢化が叫ばれていたアトレティコで、まさに「アップデート」が必要になっていた。
とりわけ、ディフェンスラインの再構築は大きな課題だった。そこで選ばれたのがマリオ・エルモソである。
エルモソはレアル・マドリーのカンテラ出身選手だ。2006年に、11歳でマドリーのカンテラに入団した。レアル・マドリーC、バジャドリーへのレンタル、マドリー・カスティージャでのプレーを経て、2017年夏にエスパニョールに移籍。エスパニョールで好パフォーマンスを見せ、ルイス・エンリケ監督からスペイン代表の招集を受けた。セルヒオ・ラモスの相棒として、スペイン代表の未来を担うを存在になると期待されていた。
750万ユーロ(約8億円)の買い戻しオプションを有していたマドリーだが、エルモソの再獲得には動かなかった。移籍金固定額2500万ユーロ(約28億円)で、アトレティコが彼の獲得を決めた。
フィリペ・モンテイロ、キリアン・トリッピア―、レナン・ロディがエルモソと共に到着して、アトレティコの守備陣は刷新された。その中で、シメオネ監督が考えていたのが、3バックの導入である。
■戦い方の変更/スタイルの狭間で
【4-4-2】を基本布陣とするシメオネ・アトレティコにおいて、3バックの導入は、これまで考えられない案だった。しかしながらグリーズマン(バルセロナ)、ロドリ(マンチェスター・シティ)といった、2018-19シーズンの主力選手の退団は無視できるものではなかった。彼らがポゼッションを志向するチームに移籍したのは、偶然ではない。
より良いフットボールをーー。今季、序盤戦でシメオネ監督がポゼッションへと舵を切っていたのは明らかである。プレシーズンでは、ジョアン・フェリックス、ジエゴ・コスタ、アルバロ・モラタの3トップが試されていた。そして、そのテストの一環として、3バックが適用された。エルモソがサイドバックに入り、「左SB+2CB」でビルドアップする。右サイドのトリッピアーが上がり、右肩上がりの【3-1-4-2】の形を採る。
シメオネ監督は昨季終盤、F・ルイス、ゴディン、ヒメネスで「左SB+2CB」の3枚ビルドアップを行っていた。左SBが最終ラインに下がり、2人のセンターバックと協働してボールを運ぶ。ここにエルモソが嵌(は)まると見ていた。ただ、指揮官が思っていたようには、いかなかった。バジャドリー、マドリー・カスティージャ、エスパニョールで基本的に4バックのセンターバックとしてプレーしていたエルモソにとって、左SBから可変で3バック化するというのは、スムーズな動きではなかった。
また、シメオネ監督自身が、徐々に戦い方をシフトしていった。もっと言えば、戦い方を「戻した」のである。1月に行われたスペイン・スーパーカップをきっかけに、チャンピオンズリーグ・ラウンド16のリヴァプール戦を見据えて、堅守速攻のスタイルが再び模索された。【4-4-2】でブロックを築き、ショートカウンターで相手を仕留める。その成否は、リヴァプール戦の結果を見れば、自明だ。
来季に向けて、アトレティコはモハメド・サリス(バジャドリー)の獲得に動いているといわれている。左利きのセンターバックだ。となると、エルモソの出場機会が危ぶまれる。それ以上に、「第4のCB」となってしまったエルモソが、シメオネ監督の構想に入っていない可能性がある。
ポゼッションと堅守速攻。2つのスタイルの狭間に、エルモソという選手が放り込まれてしまったような気がするのである。