Yahoo!ニュース

DFAされたプホルス、筒香を獲得したドジャースの思惑と編成部門責任者が2人に託した賭け

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
プホルス選手の入団発表後にオンライン会見に応じるフリードマン社長(筆者撮影)

【DFA2選手を獲得したドジャース】

 すでにご承知の通り、ドジャースがエンジェルスから40人枠を外され(いわゆる「DFA」という措置)、FAになっていたアルバート・プホルス選手と、レイズからDFAになりウェーバーに入っていた筒香嘉智選手を獲得し、メディアやファンを驚かせている。

 今回の補強は、ドジャースの主力選手に故障者が続出したことによる緊急措置という意味合いが強いものだが、両選手ともに前所属チームで、期待された打撃を披露できずにDFAされている境遇だ。移籍後の彼らの活躍に疑問を抱く人も少なくないはずだ。

 本欄でもプホルス選手がドジャースでどこまで機能できるのかを危惧する記事を公開しているが、今後主力選手たちがケガから復帰してくる中で、プホルス選手のみならず筒香選手がこのままチームに残れるのか、微妙な状況にあるのは間違いないところだ。

【編成部門責任者のフリードマン社長が現状説明】

 そんな我々の疑問に答えられるのは、ドジャースの編成部門責任者であるアンドリュー・フリードマン社長をおいて他にいない。

 低予算チームのレイズをポストシーズン常連チームに変貌させた後、ドジャースで現職に就いて以降も地区優勝8連覇を続ける黄金期を築き上げた。そして昨年は、32年ぶりのワールドシリーズ制覇を成し遂げ、現在のMLBで最も優秀なフロントの1人だと言われている。

 そんなフリードマン社長が、プホルス選手獲得の正式発表後にオンライン会見に応じている。彼の説明によれば、今回の補強はまさに緊急という言葉に相応しく、彼自身も2選手に対し、将来的な明確なビジョンがあったわけでなかったようだ。

【1週間先も見通せないチーム状況】

 フリードマン社長の会見の前に、入団会見を行ったプホルス選手は、複数チームのオファーの中からドジャースを選んだ理由として「チームとしてのプランが素晴らしかった」と話している。

 だがフリードマン社長はプホルス選手との話し合いで、具体的な起用法について説明してはいなかった。

 「(今後のプホルス選手の起用法については)我々も見守っていく。

 とにかく彼に対して正直に伝えることを心がけた。我々としても1週間後、さらに2週間後、1ヶ月後に(チームが)どんな状況になっているのかも見通すことができない。

 状況は常に変化している。その上で目前の状況と向き合いながらあらゆるシナリオを想定しながら対処していくしかない」

 そうしたチームの現状を正直に話しながら、プホルス選手と向き合っていたのだ。

【フリードマン社長が2選手に抱く勝算】

 だからと言って、敏腕のフリードマン社長が闇雲にプホルス選手と筒香選手を獲得したわけではない。彼なりに2人に対して勝算があると踏んでいたからだ。

 まずプホルス選手について、以下のように説明している。

 「我々は、彼がチームの若い選手たちに大きなインパクトを与えてくれると信じているし、それと同じくらい、彼のバットはまだ死んでいないと思っている。まさに現在のチーム状況にフィットしてくれる選手だと感じている。

 彼から話を聞いても、現在の健康状態はここ数年で最もいいと話している。自分が記憶する限り、この15~20年間で、彼ほど凄い打球を打てる選手はいなかった。素晴らしい打球を放ち、貴重な得点を生み出す彼の能力は今も健在だと思っている」

 筒香選手についても、フリードマン社長の強い信念を感じる。

 「日本時代から彼のバッティングを気に入っていたし、今も彼が日本時代のバッティングができるようになると信じている。

 時には環境が変わることが(打撃復活の)助けになることがあるし、実際にそうしたケースも見ている。今回は我々がそうした恩恵を受けられることを願いたい」

【すべてのカギを握るのは2選手の化学反応】

 だが先の状況は見通せないと話している通り、フリードマン社長がプホルス選手と筒香選手の打撃復活を確信しているわけではない。それを物語るように、筒香選手の打撃復活について「それがいつになるのかは我々にも分からない」と話してもいる。

 今回の補強の裏にあるフリードマン社長の思惑は、両選手の実績、才能を十分に評価した上で彼らにチャンスを与え、彼らが期待通りの打撃を取り戻してくれれば、間違いなく危機的状況にあるチームの手助けになる、というものだ。

 今後プホルス選手と筒香選手がどうなっていくのかは、フリードマン社長にも分からない。それは彼の信念に裏づけられた賭けのようなものなのだろう。

 今は2人がドジャースという新たなチームで、どんな化学反応を起こすのかを見守っていくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事