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球界騒然?!アルバート・プホルスをメジャー契約で迎え入れたドジャースの戦略に抱くいくつかの疑問点

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドジャースとメジャー契約に合意したと報じられたアルバート・プホルス選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【球界を驚かせたドジャースの大胆人事】

 現地時間の5月15日夕刻に、MLB界を驚かせるニュースが駆け巡った。

 第一報をもたらしたのは、どうやら『LAタイムズ』紙のホルヘ・カスティーヨ記者のツイートだったようだ。その内容は、以下のような短いものだった。

 「速報:情報源によると、ドジャースと未来の殿堂入り選手のアルバート・プホルスが残りシーズンのメジャー契約で合意」

 この速報に対し現時点でドジャースから正式発表はされていないが、カスティーヨ記者は別ツイートを投稿し、同じく情報筋の話として17日に正式発表される予定だとしている。

 すでにMLB公式サイトでも報じているので、その信憑性はかなり高そうだ。

【誰もが予想しなかったメジャー契約】

 今更説明する必要はないかもしれないが、プホルス選手は今月6日にエンジェルスから40人枠を外す措置(いわゆる「DFA」)をとられ、ウェーバーを経て13日にFAになったばかりだった。

 今回の速報が球界を驚かせることになったのは、もしこの速報が事実とするならば、FAになった2日後に移籍先が決まったということ以上に、プホルス選手にメジャー契約が提示されたこと、しかもそのチームが、ワールドシリーズ連覇を狙うドジャースだということだ。

 ここまでMLB歴代5位の通算667本塁打、同3位の2112打点という実績を誇り、すでに将来の殿堂入りが約束されているプホルス選手とはいえ、エンジェルスからDFAされるまでの今シーズンの成績は、5本塁打を放っているものの、打率.198、長打率.372と深刻な状態にあった。

 さらに41歳という年齢も重なり、大方の人たちが新たな移籍先が見つかったとしても、マイナー契約になると考えていた。もちろん自分も、その1人だった。

 にもかかわらずドジャースは、メジャー契約でプホルス選手を迎え入れようとしているのだ。

【エンジェルスとは別にMLB最低年俸を保証】

 ここからは速報が事実だという前提で話を展開させてもらうが、ドジャースはプホルス選手とメジャー契約を結んだ時点で、エンジェルスとの間に残っている契約(契約最終年だった今シーズンの年俸3000万ドル)とは別に、新たにMLBが設定している最低年俸57万50ドルから残りシーズン分(日割り計算)の支払いを保証しなければならなくなる。

 それは、たとえプホルス選手がドジャースで最後までシーズンを過ごせなかったとしても、だ。最低年俸とはいえ、今後打撃を復調させられるかどうか読めないプホルス選手にメジャー契約を用意したのは、やはりリスクが伴う投資に思える。

 ドジャースに黄金時代を築き上げ、MLB屈指の戦略家として知られる編成部門の責任者、アンドリュー・フリードマン球団社長にどのような勝算があったのだろうか。

【プホルス選手に出場機会を与えられる?】

 実はプホルス選手を獲得する前から、フリードマン社長の手腕により、ドジャースの選手層の厚さはMLB随一だと謳われている。プホルス選手がどれ程の出場機会を得られるのか、すでに疑問が残るところだ。

 まず今シーズンのドジャースは、DHを必要とする交流戦を今月25,26日のアストロズ戦の2試合しか残していない。つまりプホルス選手を起用するためには、基本的に一塁か代打ということになる。

 現在ドジャースの一塁を任されているのは、主軸の1人マックス・マンシー選手だ。ここまで打率は.243と低いものの、チーム最多の8本塁打を放つなど、期待通りの活躍を見せている。

 しかも年齢が30歳と若く、2019年で141試合、60試合の短縮シーズンで行われた2020年も58試合に出場しており、故障がない限りほぼほぼフル稼働が期待できる選手だ。

 さらに現在は主砲のコディ・ベリンジャー選手と、ユーティリティ選手のザック・マッキンストリー選手が故障者リスト入りしており、彼らは必ず戦列復帰することになる。そうなれば彼らの代わりに、誰かが出場登録の26人枠から外れなければならなくなる。

【ドジャース入り後もDFAされる可能性が】

 ちなみにプホルス選手はメジャー契約を結んだ時点で、自動的に26人枠に入ることになる。

 だが前述通り、今後主力クラスの選手たちが故障から復帰してくる状況にある。その間にプホルス選手が結果を残さなければ、やはり26人枠から外される候補になってしまうだろう。

 こちらも説明する必要はないと思うが、出場登録を抹消された選手すべてがファームで調整できるNPBとは違い、MLBではマイナー降格オプション権を消化したベテラン選手を26人枠から外すにはDFAを利用しなければならない。

 つまりプホルス選手はドジャース入りした後でも、再びDFAされる可能性があるということなのだ。

 とりあえずカスティーヨ記者が報じているように、まずは17日の正式発表を待ちたい。その上でフリードマン社長がプホルス選手獲得の意図を、どのように説明するのかに注目したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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