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「井上尚弥は無敵ではない」バンタム級世界ランカーが語ったモンスター攻略法

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
バンタム級2冠統一王者・井上尚弥(写真:YUTAKA / アフロスポーツ)

 WBAスーパー・IBF統一バンタム級チャンピオン井上尚弥(大橋)の次回防衛戦はIBFの指名挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)を相手に行われる見込みとなっている。ダスマリナスを撃退すれば内外のファンが待望するWBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)との統一戦が再びクローズアップされるだろう。

 もう一つのWBC王座はノルディーヌ・ウバーリ(フランス)が新型コロナウイルス感染症で休養王者にシフトされたが回復し、WBCは正規王者に復活させた。ウバーリは近々、選択防衛戦をはさんで昨年流れた1位ノニト・ドネア(フィリピン)との対決に向かう運びだ。

 現状では井上、カシメロ、ウバーリ、ドネアがバンタム級のメインキャストと言えそうだが、彼らに挑戦を目指すメキシコ人、WBCバンタム級5位アレハンドロ・サンティアゴ・バリオス(以下、名前はサンティアゴと記す)に電話でインタビューしてみた。

強豪アンカハスと引き分ける

 メキシコ・ティファナ出身で同地でトレーニングに励むサンティアゴ(24歳)は2018年9月、現在8連続防衛中のIBFスーパーフライ級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に米国で挑戦。フルラウンドの戦いは三者三様のドローとなった。その後ウエートをバンタム級に上げ、7連勝5KO勝ちをマークしている。

――メキシコもコロナパンデミックでたいへんな様子ですが、練習は行っていますか?

サンティアゴ「ええ。今までのパブリックジムではなく、別のジムで月曜から金曜日まで毎日やっています。今日もスパーリングを行いました」

――最新試合は12月ティファナでエリク・ゴンサレスに4ラウンドTKO勝ち。これからの試合予定は?

サンティアゴ「今のところまだ決まっていません。4月ぐらいを考えています。でもコンディションを整えておきたいので常に動いています」

――ランキングはWBC5位ですね。

サンティアゴ「本当は4位に上がるはずだったけど、プエルトリコの選手(注:エマヌエル・ロドリゲス=2019年5月、井上尚弥に2回TKO負け)がそのまま居すわったため5位止まりです。ドネアと対戦する話もありましたが、彼がコロナに感染したためなくなりました」

――アンカハス戦の印象を聞かせてください。

サンティアゴ「あの時はまだ新人で経験不足を感じました。でも学習したことは多かった。スコアカードは割れたけど私は勝ったと信じています。即リマッチを希望しましたが、IBFに拒否されました」(注:アンカハス戦のスコアカードは116-112(アンカハス)、118-111(サンティアゴ)、114-114)

挑戦はいつでもオーケー

――その後バンタム級に上がり、ここまで好調です。2度目の世界挑戦はいつ頃を考えていますか?

サンティアゴ「いつでもオーケーです。今5位にいるし、権利はあります。(WBC)チャンピオンのウバーリでも2冠を持つイノウエに対しても準備ができています」

――では今もし井上陣営からオファーがあれば受ける覚悟ですか?

サンティアゴ「シー、シー(イエス、イエス)。もちろんチャンスが舞い込めばすぐに挑戦したい」

――井上はバンタム級最強だと思いますか?

サンティアゴ「シー。118ポンド(バンタム級)のベスト。理由はインテリジェンスがあり、パワーが破格な上にアウトボクシングもできること。特にドネア戦が印象的でした」

――プロでこれまで23勝12KO2敗5分ですが、アマチュア時代のレコードは?

サンティアゴ「私はアマチュアでは14戦しかやっていません。13勝1敗です。グローブをはめたのは13歳の時でプロデビューは16歳。アンカハスに挑戦した時は21歳でまだ成熟していなかった。アンカハスと彼のチームは簡単に勝てると思っていたようだけど、事実は違っていた」

アンカハス(右)とドローを演じたサンティアゴ(写真:Mikey Williams / Top Rank)
アンカハス(右)とドローを演じたサンティアゴ(写真:Mikey Williams / Top Rank)

井上とは頭脳戦で勝負

 今回取材をヘルプしてくれたのはティファナのボクシングファミリーとして有名なキラルテ一家のロベルト・キラルテ氏。父のロムロ・キラルテ氏はレジェンド、フリオ・セサール・チャベスをトレーナーとしてサポートしたことで知られる。息子のロベルト、ボビー氏は父といっしょにホルヘ・リナレスと対戦した元WBCライト級王者アントニオ・デマルコらを育てた。今はサンティアゴに期待を寄せる。

 ロベルト氏は「ペケ(サンティアゴのニックネーム)はジムワーク、ロードワークと毎日練習を欠かさない。向上心が旺盛で、とてもプロフェッショナルな選手」と称賛。「武器、長所は?」と聞くと「器用さ、インテリジェンス」という答が返ってきた。

――ズバリ、井上は難攻不落でしょうか?

サンティアゴ「勝つのが非常に難しい相手だけど無敵ではない。限りなく完ぺきに近い選手ですが、ボクシングに難攻不落の者はいないと信じています」

――井上と対戦するとなれば、どんな作戦で臨みますか?

サンティアゴ「イノウエはハードでボクシングがうまい選手なので周到なフィジカルトレーニングを実行しなければならない。そしていい作戦を立てること。インテリヘンシア(頭脳)を駆使することが試合のカギとなるでしょう」

井上vsネリはどっちが勝つ?

――ルイス・ネリは井上に勝てるでしょうか?

サンティアゴ「可能性はあるでしょう。2人ともハードパンチャーだから、ものすごくスリリングな攻防になるのでは?2人にとって厳しい展開が待っている。でもネリはノックダウンの経験があるから、アゴの強さが勝負を分けそうです。イノウエが有利だと思います。ただネリは同郷なので、“誰が勝つ”とは断言したくない(苦笑)」

――ランキング入りしているWBCの王者、ウバーリの印象は?

サンティアゴ「いい選手に見えます。彼も完ぺきなボクサーに近く、強靭で距離をコントロールするのがうまい。でも私は勝てると思っています」

――今後、大手プロモーションと契約する可能性はありますか?

サンティアゴ「以前はドン・チャージン氏(米カリフォルニア州のベテラン、プロモーター兼マッチメーカー。2018年に死去)と仕事をしていましたが、今はフリー。契約している会社はありません。WBAでもWBCでもIBFでも世界挑戦は歓迎します。ノープロブレム。ただWBO挑戦は考えていない。115ポンド(スーパーフライ級)でアンカハスに再挑戦できるなら体重を落とすことは問題ありません」

――ニックネームの“ペケ”の由来は?

サンティアゴ「スペイン語のペケーニョ(小さい、小柄な人の意味)が語源。子供の時から家族にそう呼ばれていて、自分でも気に入っています」

――今日はありがとうございました。

サンティアゴ「日本の皆さんによろしく」

昨年9月、WBCインターナショナル・バンタム級王座を防衛したサンティアゴ。右端がロベルト氏(写真:El Sol de Tijuana)
昨年9月、WBCインターナショナル・バンタム級王座を防衛したサンティアゴ。右端がロベルト氏(写真:El Sol de Tijuana)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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