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統計不正問題と映画「七つの会議」の主題は日本の問題で繋がっている!

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
データ・情報、統計は政策づくりにおいて本来は重要だ。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 最近、厚生労働省の統計不正問題が、その対象や調査方法に不正があったこと、さらにその問題に関する特別監査委員会の調査などで多くの問題・課題があったことが、国会やメディアで注目を浴びている。さらに、総務省の基幹統計「小売物価統計」でも、未調査に対する架空数値の虚偽報告という新たなる不正調査があったことが発表された。

 

 これらの話しだけを聞くと、当該の統計資料に問題があることと、関係省庁にだけ問題・課題があるかのように思われるかもしれない。

 だが、筆者は、自身のこれまでの様々な立場で政策形成などに関わってきた経験から、実はそのような問題認識では、この問題の本質は解決できないと考えている。それはどういうことかというと、日本では、少なくともこれまでは(本来は、それは1980年代には変わっているべきだったのだが)データや統計情報などを基に政策づくりをする必要もなければ、そのようなことをする政策形成の風土もなかったという事実という日本の政策や行政の根本に関わる問題に関係しており、その問題を考えないと今回の件も、根本的に解決しないからである。日本では、データ・情報などは、特定の政策を実現するために、利用されるものであると考える環境のなかで、政策形成がなされてきたということである。

 

 それが、行政・官僚機構における、いわゆる「政策は鉛筆舐め舐めでつくられている」という従来の政策形成の手法にもつながっていると考えられる。それは、別言すると、日本では政策づくりが、主に官僚がこの政策が良いあるいは必要であると考え、その政策を正当化し実現するためにデータや推定をつくり(悪い言い方をすると、でっち上げて)、政策を実現していくというやり方のことである。

 筆者としては、必ずしもそれを全面的に否定しているのではない。少なくもこれまでは(80年代までは)、月並みないい方であるが、日本がキャッチアップ社会であり、別の国・地域に先例があるので、すでに存在し設定された問題を、その先例を基に、ある意味で優秀な官僚が、必死に考えれば、そこそこの回答を出すことができたのである。その場合、わからない現状を把握するためには、必ずしもデータや統計情報等は必要でもなく、重要でなかったのだ(注1)。だからこそ、そのような環境とプロセスの中から、現在の行政におけるデータ・情報の扱い方の素地が生まれ、その延長で今回のような問題が起きてきたということが出来るのである(注2)。

 

 そのことの一端は、行政における情報に関する別の面にも現れている。それは、日本でも、国勢調査等をはじめとする多くのデータや調査データが集められている。本来は、それらは本来は政策づくりに活かされるべきものだといえるが、現在の日本の行政において、それらのデータ・情報収集と、政策形成や予算作成のサイクルはほとんど全く連動していないのである。そこにも、行政が、データや情報を基に、政策形成をする発想や意識がないことが表れているといえるのである。

 

 以上のことからも分かるように、現在起きている統計不正問題は、実は日本の行政・官僚機構の政策づくりにおける根本の問題とも関係するものなのである。それはつまり、今回の問題は、日本の行政機構等そのものおよびそこにおける人材の採用・育成方法における再考と改変が必要であるという問いかけを、日本社会に迫っているのではないかと思う。

 近年、日本の行政などでも、EBPM(Evidenced-based Policy-Making、証拠に基づく政策立案)への関心が高まっている。今回の問題を契機に、日本においても、EBPMをはじめとしてデータ・情報を活かした政策づくり、またリサーチなどを活かした政策づくりが行われるようにすべきだろう。

 そこで、本記事では、そのような政策形成が行われていくようにするために、次のようないくつかの提言をしたい。

1.省庁の関連データ等のバイヤスの回避

 官庁だけが、自己の政策や事業に関するデータ・情報を収集・発表すると、政策・事業のバイヤスが当然かかりやすくなる可能性が高い。そこで、それを防ぐために、次のような方策が考えられるべきで、その中から選択と組み合わせがなされるべきだろう。

・官庁は自身で関連データ・情報を収集しない。代わりに、政策データ・情報を取り扱う独立機関を設置する。

・官庁が自身で関連データ・情報を収集する場合は、上記の独立機関の検査・審査を必ず受けることにする。現在も、総務省の統計委員会 などがあるが、現状を大きく変えるには、ある程度の規模のスタッフを有する、現在の省庁から独立した組織である必要がある。

・省庁が収集したデータ・情報は、大学等の専門家には、申請ベースで条件付きで公開される仕組み(注3)をつくり、それらに対して外 部の目にさらされるようにする。

 またこうすることで、専門家がそれらを基に研究を自由に開始し、ある意味無料あるいは安価に、新しい政策アイデアや政策代替案等  が生まれてくる可能性もある。 

・国政をはじめとする政策づくりに関してあるいはそのために集められたデータやリサーチ等は、関連省庁が管理するのではなく、何らか の独立の公的情報管理機関が管理するようにする。

・データ・情報の収集・分析(政策評価等も含む)と政策・予算づくりの双方のサイクルを連動させるようにする。逆に連動していない限 り、新しい政策・予算は認めないようにするのも一案。

2.行政の人材の採用・育成における変更

 政策づくりで、データ・情報が活かされるためには、それを理解し、活用できる人材を採用したり、育成していく必要がある。そのために、次のようなことが考えられる。

・社会科学のデータ・情報分析について学んだ人材(注4)を採用する。また少なくも国家公務員採用総合職においては、出来れば大学院 レベルの採用に絞るべきであろう。

・公務員の幹部研修などでも、分野における研修の強化が必要である。

・各省庁に、データ・情報に基づく研究を行う研究所を設け(すでにある場合には、当該所でその観点からのリサーチの強化)、その成果 を政策に活かせるように、リサーチおよび政策・予算づくりのサイクルをリンクさせるようにして、省内でのデータやリサーチの重要性  を向上させる。

3.カウンター組織などの存在

 日本は現在も行政が政策づくりの中心だ。それも良い面もあるが、長期的に見た場合、それでは政策のアイデア・代替案、政策人材等の面で息詰まることは目に見えている。そのような状況を超え、乗越えていくには、行政機構以外にも、比較対象になりうるカウンターとしての政策の情報やアイデアの蓄積のできる場や人材がどうしても必要だ。その意味で、やはり次のような組織が必要だろう。ただし、これらに関しては、筆者は、多くの別の機会や場で発信・発表しているので、ここでは詳細は省くことにする(注5)。

・複数の民間非営利独立型の政策シンクタンクの構築。

・各政党のシンクタンク設置。

・国会などの立法府における調査機関の設置。

 最近、映画『七つの会議』という映画が封切られ、話題になっている。その映画の主題は、最後の主人公・八角民夫(野村萬斎が演じる)の独白がすべてだが、日本の社会、日本の組織の問題・課題を描いていて、今般の省庁の不正調査にも繋がる問題だと思う。同映画が、このタイミングで封切られたのは、飽くまで偶然であろうが、今の日本の置かれた状況を考えると、ただの偶然というだけでは済まされない(注6)。

 この映画を鑑賞して、日本社会のすべてを変えることはできないが、今回の不正問題を、日本の社会・政治および政策形成を大きく変化させる契機にすべきであると思った。

(注1)筆者の経験から、このような結果、日本の行政や政策形成において、リサーチは重視されていないし、行政官・官僚さらに議員も、リサーチを活用して政策づくりをしていくための、リサーチ・リテラシーが欠如しているのである。また、そのことは、日本が明治近代以降の官僚の中心が、立法でなく法律解釈を教える法学部バックグラウンドがメインであることにも関係していると考えられる。

(注2)またこのことが、森友問題等における文書改ざんなどを生んだことにも関わると考えるのは、筆者だけだろうか。

(注3)しかも、その申請の許否は、当該省庁でなく、その独立機関が行う。

(注4)近年では、ビッグデータやAIなどの分野やその取扱いについても理解もあるべきだろう。

(注5)拙著『日本に「民主主義」を起業する』「自民党シンクタンク史(αシノドス現在連載中)

(注6)ネタバレになるので、本記事では、同映画について詳しく論じることは避けておく。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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