「遺言書」はこれで失敗する!~遺言でしくじらない4つのポイント
遺言は遺言者(遺言書を作成した人)の死後に効力が発生します(民法985条1項)。
民法985条1項(遺言の効力の発生時期)
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
このことは、遺言が法的効力を発揮するときは、遺言者は既にこの世を去っていることを意味します。当然ですが、遺言の内容が実現されることを当事者である遺言者は見届けることはできません。そのため、遺言は法的に有効な形式のものを残すのはもちろんですが、さらに万全な内容にする「工夫」が必要です。
私は仕事柄、相談者がご自分で作成した遺言書を拝見する機会がありますが、工夫が欠けている遺言を見かけることが少なくありません。以下に事例をご紹介しますので遺言を残した方はもちろんのこと、これから遺言を残そうとお考えの方もこの年末年始にぜひチェックしてみてください。
その1.「遺言執行者」が指定されていない
遺言執行者が指定されていない(記載されていない)遺言書が多く見かけられます。遺言執行者とは、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務があります(民法1012第1項)。
民法1012条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
そのほか、遺言執行者が指定されていると、相続人は遺言を執行することを妨げることができなくなります(民法1013条)。
民法1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
いわば、遺言の内容を実現するための最高責任者といってよい存在です。遺言執行者が記載されていないと相続預貯金の払戻手続や不動産の相続登記が面倒になるおそれがあります。忘れずに指定するようにしましょう。
なお、遺言執行者を指定していても、その者が既に死亡してしまっていたり健康を害してしまっていたら遺言執行者を変更しましょう。
その2.「補充遺言」が記載されていない
たとえば、遺言で遺産を残すとした子どもが遺言者より先に死亡してしまうことがあります。このように、遺言で「財産を残す」とされた相続人(=受益相続人)が、被相続人より先に死亡してしまった場合は、特段の事情がない限り、受益相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合、当該相続させる旨の条項は効力を生じません。それゆえ、このような場合、対象となっている相続財産は、遺言において別の定めがない限り、いったん法定相続人に法定相続分で承継され、次に遺産分割協議により、具体的に承継されることになります。
このような事態を避けるために、遺言の作成に当たっては、受益相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、他の相続人や受遺者に相続させるないし遺贈する旨の条項を入れておくことがしばしば行われています。
このような、万一の場合に備えて、遺言者があらかじめ、財産を相続させる者または受遺者を、予備的に定めておく遺言を、補充遺言(予備的遺言)といいます。
その3.遺言を「撤回」している
たとえば、遺言に記載した不動産を売却した場合、当然ですがその不動産は遺言書で相続させるとした相続人に承継されることはありません。このように、遺言者が遺言を残した後に、遺言者がその遺言の内容と矛盾する法律行為を行った場合には、遺言中の矛盾する部分が撤回されたものとみなされます(民法1023条)。
民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
撤回とは、意思表示をなした者が、その意思表示の効果を将来に向かって消滅させることをいいます。
その4.「付言」に無用なことを書いている
「遺言には付言を書きましょう」とアドバイスする専門家が多くいます。この付言とは、遺言を残すに至った気持ちや理由を書いた文書のことを言います。「家族のおかげで充実した人生を送ることができました」といったような感謝の気持であればよいのですが、「長男の太郎の愚行のおかげで散々な目にあわされた。したがって、太郎にはびた一文財産は残さないことにした」のような恨み言などを書くと、たとえそのことが事実でもそれを読んだ当事者が「亡くなった親父がそのようなことを書くはずはない。これは二男にそそのかされて書かされたに違いない。この遺言は無効だ!」などといったように、たとえ法的に形式が有効であっても遺言を巡る紛争の原因になりかねません。
今回ご紹介した内容が該当した場合は、遺言を新たに作成し直すことをお勧めします。遺言の目的は、「残すこと」ではなく「内容を実現すること」です。このことをぜひお忘れなく。