THE SPELLBOUND 二つのバンドがひとつになった、大きな愛の旅で感じた幸せな時間、極上空間
「BIG LOVE TOUR -BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Special-」ファイナル
THE SPELLBOUNDの9月からスタートした全国ツアー「BIG LOVE TOUR -BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Special-」のファイナルが10月29日、Zepp Shinjukuが行われた。このツアーの基点になっているのは、今年5月に東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された、BOOM BOOM SATELLITESの25周年を祝って、THE SPELLBOUND vs BOOM BOOM SATELLITESという対バン形式をとり、BOOM BOOM SATELLITESのライヴをTHE SPELLBOUNDが“再現”したライヴイベント「BIG LOVE」だ。このライヴは大きな話題になり、ライヴ後多くのファンから「観られなかった」「自分の地元にも来てほしい」というメッセージをメンバーが受け取り、中野雅之、小林祐介もあの熱狂を目の当たりにし、全国ツアーを行なうことを決意した。
この日Zepp Shinjukuに駆け付けたファンは笑顔、笑顔。ワクワク感で溢れ、同時に“泣きながら踊る準備はできている”——顔にそう書いてあるようだった。
多くのファンの記憶の中に残り、愛されているBOOM BOOM SATELLITES(以下BBS)の名曲達を現在進行形で聴かせ、観せるというのはナイーブで繊細なハードルだったはずだ。しかし中野は小林と出会い、鳴らし続けていくことを決めた。このツアーでは各地で少しずつセットリストに変化を与え、幸せな空間と時間を作りあげた。その最終地・東京。大きな歓声に迎えられ中野雅之(Programming、B)と小林祐介(Vo、G)が登場する。BBSと同じように中野が下手、小林が上手でスタンバる。
轟音ギターが「Helter Skelter」のイントロを奏で始め、BOOM BOOM SATELLITESと書かれたバックドロップ幕が下りてくると、どよめきが起こる。ビートルズナンバーを、BBS流に四つ打ちのハードなダンスナンバーにアレンジしたカバーが、フロアに突き刺さる。アンセム的な「Moment I Count」では、音と光の洪水で激しく感情を揺さぶられるフロアは早くも忘我で踊り狂う。おなじみのサポートドラマー福田洋子と大井一彌(yahyel、DATS)が刻む重厚なリズムが心と体に大きく響き、極上の気持ち良さを作りあげてくれる。
流れはさらに攻撃的になり、「Dive For You」、そしてフロアのハンドクラップが楽器のひとつになっていた「MORNING AFTER」、BBSの名曲群の強度たるや…。10年後、20年後も聴かれる音楽を、という思いを込め音楽を作り続けてきたBBSの矜持が熱狂を生み出している。そんなことを考えながらライヴを観ていると、激しいライトとミラーボールが輝くステージの下で歌う小林のシルエットが、2016年10月9日に他界した川島道行さんのそれに見えてきた。小林は川島さんが愛用していたギター・フライングVをかき鳴らしていた。
BBSの最後のシングルとなった「LAY YOUR HANDS ON ME」が投下されると、観客は両手を挙げ歓喜の声を上げ、強靱な四つ打ちビートの乗せて小林の伸びやかな歌声が響き渡り、多幸感溢れる空間と時間になった。デビューシングル「Push Eject」のイントロが流れてくると大歓声が上がる。難解なリズムの中を観客は泳ぎ、光の演出にトリップするような感覚を覚え、ツインドラムの掛け合いに圧倒され、底知れぬパワーに包まれる。まだまだ終わらない。フライングVといえばの、多くの人に愛され続ける「Kick It Out」のイントロが流れるとグッと引き込まれる。小林の咆哮が熱狂を生み、鮮やかな突き抜け感で全員を未来へと連れて行ってくれる感覚だ。
「今日はBOOM BOOM SATELLITESとTHE SPELLBOUND、2つのバンドがひとつになる夜です」
ここで中野が熱いフロアを眩しそうに見渡しながら「むちゃくちゃ楽しそうですね。もうすでに胸が一杯です」と語る。BBSのステージとフロアに盛り上がりに感無量の様子だ。そして「今日はBOOM BOOM SATELLITESとTHE SPELLBOUND、2つのバンドがひとつになる夜です」と語り、「名前を呼んで」のイントロが流れ始めるとバックドロップ幕がBOOM BOOM SATELLITESからTHE SPELLBOUNDへと瞬時に変わる。二つのバンドが地続きであり、THE SPELLBOUNDというバンドの中にBBSは生き続けているんだということを、そこにいる全ての人が胸に強く刻んだ瞬間だ。
打ち込みのブレイクビーツを、大井が驚異的なテクで生で構築するイントロに驚かされる「名前を呼んで」は、小林の声が突き抜け、希望を連れてきてくれるような感覚になり、重量感のあるビートの「すべてがそこにありますように。」(アニメ『ゴールデンカムイ』第四期EDテーマ)は、ワイドな音像と小林のラップ的なボーカル表現が印象的だが、そこにゲストボーカルXAIの透明感溢れる声が重なり、柔らかな光が射しこんでくるような感覚になる。
「LOTUS」は、2021年にTHE SPELLBOUNDとして歩み始め、まるで心身を削るように音楽を紡いできた二人の現時点での集大成的な最新シングルだ。中野のシンセが作り出す壮大なサウンドスケープ、そして選び抜かれた、でも大量の美しい日本語のリリックもリズムとなってダンスグルーヴへと昇華されていく。THE SPELLBOUNDの記念すべきデビューシングル「はじまり」は、煌めくようなシンセと小林のメロディアスなギターが曲の輪郭を作り、ツインドラムが太い芯となって心を直撃する。フロアは音楽を自由に、心から楽しむ観客が思い思いに体を揺らしていた。
中野のシンセベースの低音が肚の底まで響いてきて、ライヴならではのダイナミズムを感じさせてくれた「なにもかも」は、2019年からデモ音源を作り続けた中で、この曲ができあがったことでTHE SPELLBOUNDというバンドが生まれた、二人にとって大切な曲だ。冒頭に<今日のために生まれてきたと 思えるくらいに美しい そんな場所がもしあるなら>という歌詞が心に沁みる。小林のハイトーンのどこまでも伸びる声が炸裂し、そこにXAIの歌声が重なり"なにもかも"のリフレインがまるで祈りのようだ。一瞬の静寂の後サビの<見つけて>という心を鷲づかみにされる。
「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」の歌詞は、THE SPELLBOUNDの楽曲の中でも特に情報量が多いラブソング。4人の演奏が徐々に熱を帯び、小林が言葉のひとつ一つを丁寧に、しかし圧倒的なスピードで歌うと、感覚が研ぎ澄まされていく中で、どこか違う世界、深いところにいざなってくれる。BBSの「FOGBOUND」の冒頭、小林がステージから捌け、中野のシンセと、福田と大井の激しいドラムセッションが繰り広げられる。THE SPELLBOUNDサウンドを支えるリードオフマンであり守護神でもある二人の圧巻のプレイにフロアも圧倒される。ハードなドラムとフライングVが2発並び放たれる音に、感情も身体も揺れる。
本編ラストはソリッドなビートが刻まれる、ハイパーなポップパンク調の「FLOWER」だ。疾走感のある爽やかな楽曲だが、フロアは泣きながら踊っている人が多数。<あなたが手をとってくれたら 何にだってなれる気がした><僕らの約束の場所で 新しい誕生日に 色とりどりの花を飾って>という瑞々しくポジティブな歌詞が、音の感触と相まって感動を連れてくる。
「僕はみんなより長生きして、みんなの人生を送り出す音楽をずっと作って、演奏していきたい」(中野)
演奏を終えると中野が語り始める。「川島(道行)くんが早くに亡くなってしまったので、僕はその分長く生きようといつも考えているんです。昔から僕たちの音楽を聴いて支えてくれた人たちと一緒に年を重ねてきましたが、ともに幸せな時間を過ごしていけたらいいなと思います。僕はみんなより長生きして、みんなの人生を送り出す音楽をずっと作って、演奏していきたい。そのためには小林祐介が必要」と純粋な気持ちを、素直な言葉でフロアに語りかける。そして盟友・小林について「彼は様々な音楽表現で僕の欲望に応えてくれて、みんなを楽しませてくれています。小林くんのことをこれからも応援してください」と語っていた。
「僕は中野さんより一年だけ長生きしようと思う。人生もバンドも続く」(小林)
それを受け、小林は「僕は中野さんより一年だけ長生きしようと思う。人生もバンドも続く」と中野とファンに約束した。そして「今回のツアーでは川島さん(が生前愛用していたギター・フライングV)と一緒に旅をしてきた」と感慨深げに語り、「人生を変えてくれたこのギターを使うのは最初は恐れ多かった。毎日宝物のような時間を与えてもらっている」と川島さんの存在を感じるギターと、BBSの音楽に感謝していた。さらに「このギターは存在し続けるし、BOOM BOOM SATELLITESの音楽も存在し続けます。みんなで鳴らし、大切にしていきましょう」と決意を新たにし、オーディエンスと約束した。
そしてアンコールに突入し、まずはBBSの「BACK ON MY FEET」から。イントロが流れた瞬間、フロアは手拍子が響き渡る。見通しのいいサウンドスケープは、瑞々しさを失わず進化している。中野はトレードマークのスタインバーガーのベースを小林と激しく弾き合う。続く「DRESS LIKE AN ANGEL」を演奏し始めると歓声が沸き起こる。演奏にドライブがかかり、さらにエモーショナルな熱気に包まれる。中野が「最高でしょ?じゃあもう一曲」とラストに投下されたのは「Sayonara」。淡々としたリズムは萌芽をイメージさせてくれ新しい世界へ連れ出してくれるように、シンセサウンドが広がりと奥深さを作り上げ、壮大なエンディングを演出する。
THE SPELLBOUNDは「現在」にしっかりと軸足を置き、「過去」と「未来」に高い光量の光を当て、全てを包括する大きな愛はどこまでも美しく、熱かった。そこにいる全ての人が心を満たされたはずのライヴ、素晴らしい一夜だったはずだ。泣いて、笑って、心を震わせながら踊り自由に音楽を楽しんだオーディエンスの顔は輝いていた。
ライヴから一夜明け、中野はSNSに「BIGLOVEツアー終了。充実した日々でした。ライブは演者だけでは完結できない。集まった沢山の人々の思いで空間が満たされていく、そんな様子がステージからよく見えたツアーでした。それはもう最高の景色。そして旅は続きます!」とツアーが充実していたことを感謝し、二人の旅がまだまだ続くというメッセージを投稿した。
”BIG LOVE”Vol2&3の開催決定
ライヴの最後に発表されたが、”BIG LOVE”のVol2&3の開催が決定した。「Vol.2」は1月27日大阪Yogibo META VALLEYで、ドラムの大井が所属しているバンドyahyelが 、「Vol.3」は2月1日恵比寿LIQUIDROOMでMAN WITH A MISSIONがそれぞれゲスト出演する。再びスペシャルな夜になりそうだ。
<BIG LOVE Vol.2>
■2024年1月27日(土) 大阪Yogibo META VALLEY
出演:yahyel、THE SPELLBOUND
<BIG LOVE Vol.3>
■2024年2月1日(木) 恵比寿LIQUIDROOM
出演:MAN WITH A MISSION、THE SPELLBOUND