6月までなら無罪放免に… 営業車内で女性社員を盗撮、上司が逮捕された経緯
会社の営業車で千葉県内を走行中、ダッシュボードに設置した小型カメラで助手席に座る女性社員のスカート内を盗撮したとして、上司だった男(62)が逮捕された。6月までなら罪に問えなかった。なぜか――。
逮捕の経緯は?
事件は9月に起きた。味をしめた男はその小型カメラを会社の女子トイレにも設置したが、別の女性社員に発見されてしまった。
動画データに今回の盗撮も記録されており、会社側が10月に警察に相談した結果、男の退職を経て11月の逮捕に至った。
罪名は千葉県の迷惑防止条例違反であり、男は容疑を認めているという。
7月に改正条例を施行
しかし、この条例は2月に県議会で改正され、7月に施行されたばかりのものだった。
すなわち、それまで千葉県では、盗撮そのものを明確に取り上げた規定がなく、条例で規制されていた「卑わいな言動」の一つとして取り締まりが行われていた。
そこで、まずは次のとおり盗撮そのものを「卑わいな言動」から独立させ、正面から禁止することとした。
「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を差し向け、若しくは設置すること」
重要なのは、たとえ盗撮に至らなかったとしても、そのためにカメラを差し向けたり、設置するだけでアウトになったという点だ。
撮影に成功した場合の最高刑も、懲役6か月から懲役1年に引き上げられており、常習だと懲役2年まで言い渡すことが可能となった。
規制の範囲も拡大
規制の範囲も、これまでは公共の場所・乗物に限定されていた。道路や駅、公園、店舗、ホテルのロビー、電車、バスなどであればアウトだが、これでは学校や会社などでの盗撮を規制できなかった。
そこで、改正条例では次のとおり拡大された。
(1) 人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所及び住居
(2) 不特定若しくは多数の者が利用し、若しくは出入りすることができる場所又は乗物
(1)は、銭湯の浴場、脱衣場、海水浴場やプールの更衣室、衣料品店の試着室、駅や公園、学校などのトイレ、ホテルや民宿の客室、住居内の浴室やトイレ、寝室などがそれにあたる。
また、(2)は、学校や学習塾の教室、会社の事務室、カラオケボックスや漫画喫茶の個室、タクシー、貸し切りバス、スクールバスなどが該当する。
特に(2)について重要なのは、「不特定 and 多数」ではなく、「不特定 or 多数」なので、たとえ少人数しか利用していなくても、決まった顔ぶれでなければアウトだし、ごく限られた特定の人しか利用していなくても、多数であればアウトになるという点だ。
会社の営業車もこの(2)にあたる。6月までなら規制の対象外であり、罪に問うことができなかったというわけだ。
盗撮罪を創設すべき
なぜこうした事態が生じるかというと、わが国には盗撮一般をストレートに規制し、処罰する国の法律が存在しないからだ。
この点、軽犯罪法が「正当な理由がなくて…人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としているが、刑罰が極めて軽く、わずか1年で時効になるし、そもそも営業車内における犯行には適用できない。
そこで、千葉県のように、本来であればパブリックな空間における迷惑行為を規制するための迷惑防止条例を改正し、盗撮規制の範囲を拡大することで取り締まろうという自治体が出てきている。
しかし、いまだに改正に至っていない自治体や中途半端な改正にとどまっている自治体も数多くある。同じ盗撮に及んでも、ある自治体だと条例違反で処罰でき、別の自治体だと処罰できないという不合理な事態が生じているわけだ。
被害者からすると、どこで盗撮されようが同じだ。盗撮は単なる迷惑行為ではなく、性犯罪の一種にほかならない。正当な理由のない盗撮行為や盗撮した動画の拡散行為などを法律で全国一律に規制し、厳罰化する必要があるだろう。(了)