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カインズが東急ハンズをM&A 社長が語る「DIY文化の共創」と「商品開発、デジタル、物流基盤の活用」

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
会見に登壇した高家正行カインズ社長           写真:カインズ提供

 ホームセンターのカインズが、東急ハンズをM&Aすることを発表した。東急不動産ホールディングスと12月22日に株式譲渡契約を締結。2022年3月31日(予定)付でカインズグループに迎える。高家正行カインズ社長は「東急ハンズは、新たなDIY文化の共創に向けたパートナー。カインズの事業基盤を活用してシナジー効果を発揮し、東急ハンズの魅力を磨き上げたい」と緊急記者会見で語った。

 カインズは現在、郊外を中心に28都道府県で227店舗を展開。売上高は4854億円(2021年2月期)で、コロナ禍でも前期比10%増と好調をキープ。ワークマンと同じベイシアグループの一員で、グループ売上高は1兆271億円(2021年2月期)、国内6番目の流通グループの中核企業である。

 「“くらし”をDIYする」をスローガンに、くらしを良くするために自分でやってみることのすべてが「DIY」であると考え、DIYの裾野を広げ、DIYを新たなくらしの文化として根付かせていくことを使命として様々な商品やサービスを提供してきた。特に近年はデジタル化を進め、「IT小売業」を目指してきた。

 一方、東急ハンズは東急グループの一員として、「手を通じて新たな生活文化を創造する」ことを目指し、1976年の創業当時から、「手の復権」をキーワードに独自のDIYを中心としたライフスタイル提案型ショップとしてスタート。幅広い品ぞろえ、豊富な知識に基づいた目利きや、親切なコンサルティングサービスを行う販売スタッフなどが強みとなってきた。

 しかし、店頭での様々な驚きや発見、体験などを最大の提供価値としてきたこともあり、デジタル化やECなどに遅れをとってきたことも否めない。100円均一ショップやバラエティ雑貨店舗など競合も増えた。直近はコロナ禍の影響も受けた。現在は、86店舗で売上高が619億円(2021年3月期)と、かつての売上高約1000億円時代に比べて低迷していた。

 今回は、野村証券が東急不動産HDのファイナンシャルアドバイザーとなり、入札でカインズが落札した。買収金額は非公表だ。「日常のくらし全般、そして地方や郊外に強みを持つカインズと、趣味、ホビークラフトなどくらしから趣味までDIY文化の創造を目指し、都市部に強みを持つ東急ハンズは、商品の品ぞろえもそれぞれに個性がある。一方で、ご来店されるお客様に共通している思いは『自分らしいくらしの実現』だ。目指すべき価値が共通している。相互補完性が非常に高い」と高家社長。

カインズの事業基盤活用で、4つの施策を進める。

1. SPA機能(オリジナル商品開発力)活用

カインズ全売上の約4 割を占めるオリジナル商品開発基盤の活用

2. カインズの有するデジタル基盤活用

カインズの成長ドライバーであるデジタル基盤の共同利用

3. 物流仕入機能の効率化

物流基盤の共通利用と、サプライチェーン全体の効率化

4. DIY文化共創プロモーション

DIY文化という共通テーマを、カインズ・東急ハンズの店舗イベントを通じ発信

 1つ目は、SPA機能の活用だ。「カインズは2007年にSPA宣言してから15年。当初は苦労も多かったが、(中国やベトナムなど)海外にもさまざまな製造ネットワークができた。国内にはスタジオやテストラボのプラットフォームができてきた。2万人働くスタッフがオリジナル商品を開発する仕組みもつくった。東急ハンズの商品の編集力、目利きの力を合わせて、ハンズらしいオリジナル商品の開発ができたら」と高家社長。

 2つ目はデジタル基盤の活用だ。「この3年間、カインズは人、アプリなどさまざまな投資をしてデジタル基盤を作ってきた。(244万人以上いる)カインズアプリや、(ロッカー設置130店超、取り置きサービス月間2万7000件超の)カインズピックアップ、(月間455万PVの)オウンドメディア、(2020年に表参道に開設したデジタル戦略拠点)イノベーションハブなどを使っていただき、ウェブでも売上げを伸ばしていただければ」と続ける。

 3つ目は物流・調達機能の活用だ。「カインズには200を超える店がある。200を超えるとチェーンストアと言われる。物流調達ネットワークを海外を含めて作ってきた。両社を合わせると物流拠点が20拠点、仕入れ総額が約3500億円ある。ここまでチェーンストア展開で築いてきた物流・調達機能を活用して成長してほしい」。

 4つ目はDIY文化共創プロモーションだ。「新たなDIY文化を創っていくことができると考えている。カインズの基盤を使っていただきながら、ここまで45年間東急ハンズが創ってきた価値をさらに磨き上げていくことが共創につながっていく。新たな顧客層を拡大する顧客戦略や、東急ハンズの目指す価値を体現するような店舗空間づくり、空間戦略や、DIY文化を創るためのマーチャンダイジング戦略などをより一層つくり上げることで、価値を高めていく。われわれとともに新しいDIY文化を作ることを目指していけたら」と語った。

 気になる「東急ハンズ」の名称だが、3月31日のクロージングまでに、社名は変更する。「店舗については、東急不動産HDとも一定の期間、現在の店舗名を使うことをご了解いただいている。しかしながら、グループを離れた以上、適切なタイミングで屋号についても変更していく必要がある。決まったらお伝えしていきたい」。

記者会見後のフォトセッションで、高家正行カインズ社長(左)と、木村成一東急ハンズ社長(右)   写真:カインズ提供
記者会見後のフォトセッションで、高家正行カインズ社長(左)と、木村成一東急ハンズ社長(右)   写真:カインズ提供

 なお、記者からの質疑応答では、東急ハンズの都心店舗をカインズに転換するのかといった質問が多く挙がった。これに対し、高家社長は、「東急ハンズの店舗をわれわれの店舗として使うために契約をしたわけではない。45年間東急ハンズが培ってきた、『手の復権』をはじめとした、『生活文化の創造』という価値をどうやって磨き上げていくかを一緒に考えていきたい。その中で、われわれもオリジナル商品をたくさん持っていて、くらしをDIYするたくさんのいい商品がある。そういったものが、ハンズの店頭に並ぶことが、価値を磨き上げることにつながるならそういう店頭を作る。逆もある。型にはめるのではなく、4月以降、共通の価値創造に向けて共創していく。一番やってはいけないのは、両社が中途半端に一緒になることで、とがったものが丸くなること」と回答。

 また、「店舗網の魅力という意味では、東急ハンズは明らかにわれわれが出店してきたエリアよりも都市部に多くお店を持っていられる。われわれは地方に多く店がある。相互補完関係にあると思う。東急ハンズがこれまで作られてきた『生活文化の創造』をさらに磨き上げていくことを一緒にやっていきたい。その中でカインズの商品が入っていくことができるような売場ができるようであれば、それはやっていきたいと思うし、その逆もしかりだ。ただ、規模からすると、来店いただいている数は私たちのほうが多い。会員も何倍も多い。これまで接していないお客様に『生活文化の創造』という考え方や、それによって選ばれた商品をわれわれのお客様に提供することにメリットがあると思えばやっていく。まだ今日譲渡契約を結んだばかり。いろいろ議論しながら、お店作りや、オンラインのことなど、お互いのお客様にとって一番メリットがあることができれば」と会見を結んだ。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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