ベルギービール専門店がなぜラーメン?「130周麺」に込められた思いとは
「ベルギービール好き用ラーメン」が好評販売中
名古屋のベルギービール専門商社「木屋」が創業130周年を記念して袋入りラーメン「木屋130周麺」を売り出しました。創業記念イベントを開催した11月13日に発売すると2日で400食を販売。ベルギービール+ラーメンの組み合わせはなぜ生まれて、なぜウケているのでしょうか?
コロナでとん挫したベルギー本国でのビールづくり
「本当はベルギー本国へ行ってオリジナルビールをつくる計画だったんです」
こう明かすのは同社5代目の三輪一記さん。今から30年近く前、日本でいち早くベルビービールの販売を始めた三輪さんは、この業界の第一人者。現地の醸造元との信頼関係も活かして、ちょうど2年前からビールづくりの準備を進めていたといいます。
「日本らしく醤油を加える、社名にちなんで木のチップを入れて香りをつける、などいろいろな案を出しながらベルギーのブルワリーと相談を重ねて、2キロリットル(330ml瓶で約6000本分)を仕込む計画でした。2021年の6月1日に現地へ行くスケジュールまで決まっていました」
ところが折からのコロナ禍によって渡航は断念。イベントでの販売も見込んでいたためその目途も立たず、計画そのものがとん挫してしまいました。
「代わりに国内でビールをつくることも考えましたが、うちはベルギービール専門商社なので、やはりベルギーでビールをつくりたい。昨年の春には計画をあきらめざるを得なくなり、しばらくは何も考えられない状態でした」
130周年を盛り上げて沈滞ムードを吹き飛ばしたい!
コロナショックは酒販店にも深刻な打撃をもたらしました。同社は飲食店向けの業販は少なく、小売中心でしかもネット通販が売上の6割を占めるため、被害は最小限にとどまりましたが、それでもイベントは軒並み中止になり、20リットル×300樽分の在庫を抱えることに。酒販売も規制の対象となり、業界全体に沈滞ムードが広がりました。そんな意気消沈しがちな時世にあって、三輪さんにハッパをかけてくれたのが店のスタッフたちでした。
「“130周年どうするんですか?”と事あるごとに気にかけてくれて、愛知県のキリマルラーメン(小笠原製麺)でコラボラーメンをつくれるというのも店長が見つけて勧めてくれました。最初は“ビールなら売れるけどラーメン…?”と思って、しかも最少ロットが1000袋というので、“もう少しリスクが小さい駄菓子とかでいいんじゃない?”とお茶を濁すようなことを言っていたんです。しかし、“やるなら思い切ってやりましょう!”とスタッフたちが背中を押してくれました」
愛知のご当地ラーメンとして知られるキリマルラーメンは、碧南市が拠点でラーメンは醤油味がベース。実は木屋は江戸後期に醤油醸造を手がけ、かつては碧南市の蔵元に製造委託をしていたという歴史を持ちます。こうした史実から、キリマルラーメンとの縁も感じたと三輪さんは言います。
「いくつか味のサンプルを取り寄せ、醤油味なら優しい味わいでベルギービールにも合う。これでキリマルラーメンさんとのコラボラーメンを作ることを決めたのが、今年に入ってのことでした」
1日限りの「ラーメン木屋」で50食完売。ネット通販も好調
三輪さんの似顔絵を配したパッケージデザインやユニークなネーミングもスタッフが率先して作成・考案してくれたもの。11月13日の創業記念イベントでは1日限定で「ラーメン木屋」ののれんを掲げてラーメンを調理して販売。“ふるまいビール”のサービスもあって多くの常連が訪れ、用意した50食が完売しました。
「ネットショップではベルギービールとのセットも販売。11袋を10袋分の価格3900円で販売するサンキューセットもよく売れています。店頭での販売分の方が多いほどで、応援する気持ちで店に足を運んで買ってくれる方がたくさんいらっしゃいます。SNSにアップしてくれる方も多く、それがネット通販にもつながっています」(三輪さん)
筆者も自宅で調理して食べてみましたが、あっさりした醤油ラーメンとビールの相性は確かに文句なし。“ベルギービール好き用”というのはあくまでしゃれであって、そもそもラーメンとビールはベストマッチのコンビなのですから合わないわけがないのです。そして、ベルギーの国旗を模した黒・黄・赤の具(木屋のおススメはのり・だし巻き卵・赤ウインナー)を盛りつけると“映え”要素も加わり、SNSにアップしたくなるという効果もあります。
ビールを楽しむ遊び心が消費者の購買意欲を喚起
コロナ禍の沈滞ムードを少しでも払しょくしよう!、そんな心意気でつくられた遊び心あふれるラーメン。ベルギービールと合わせて購入しSNSに積極的に発信するファンの消費動向からも、これを飲食を楽しむひとつのきっかけにしたいという思いを感じます。
「次は135周年。今度こそオリジナルのベルギービールを作りたい!と思っています」という三輪さん。逆境にも負けない想いがとびきり美味しいビールとなって結実することを、今から心待ちにしたいと思います。
(写真撮影/筆者。「ラーメン木屋」の写真は木屋提供)