11年目を迎えたくるり主催《京都音楽博覧会》を支える京都の結束力
大小様々な音楽イベントが増えている京都で、11年目を迎えた《京都音楽博覧会》(音博)が9月23日(土・祝)に開催された。場所は一回目から変わらない京都市下京区にある梅小路公園の芝生広場。演奏が外にそのまま聴こえる野外音楽イベントながらJR京都駅から徒歩15分(《音博》公式HPより)という立地で日中開催、さらに今年は、雷雨に見舞われた昨年をとりかえすかのように暑いくらいの好天に恵まれ、遠方からのファンや小さな子供連れのファミリーを含めた多数のオーディエンスがつめかけた(公式発表入場者数11000人)。
今年のメインは“歌謡ショー”
主催は京都出身バンドである、くるり。岸田繁(ヴォーカル、ギター)、佐藤征史(ベース、ヴォーカル)、ファンファン(トランペット、キーボード、ヴォーカル)という3人のメンバーが、出演アーティストや構成、出店ブースなどを決め、イベント中も幕間に登場しては次のアクトを呼び込んだり紹介したりと、自ら演奏する時間以外も“ホスト”として場をしっかりと作る。アーティスト主導型フェスは多いが、極力ハンドメイドであろうとしていることも10年以上続いている人気の秘密だろう。今年は、前半がディラ・ボン(インドネシア)、トミ・レブレロ(アルゼンチン)、京都音博フィルハーモニー管弦楽団というスペシャル・オーケストラ、その音博フィルらを従えたアレシャンドリ・アンドレス&ハファエル・マルチニ(ブラジル)という海外アーティストたちを中心としたパフォーマンス。そして、音博フィルとの共演でくるりが約1時間演奏した後、後半はそのオーケストラと佐橋佳幸(ギター)や屋敷豪太(ドラム)らによるハウス・バンドがバックアップしての“歌謡ショー”だ。順にASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchこと後藤正文、ORIGINAL LOVEの田島貴男、UA、布施明、二階堂和美が登場し、それぞれ代表曲3曲ずつを披露していった。衰えのない歌唱力で「君は薔薇より美しい」や「My Way」を熱唱した布施が拍手喝采に包まれた瞬間こそは、歌でつなぐ今年の《音博》の象徴でもあったろう。
ジェイアール京都伊勢丹とのコラボも
出演者の知名度、国境、ジャンルを超え、オーディエンスを選ばないことを一つの目標とするようなそんな《音博》だが、10年以上連続開催されている背景には京都の町の結束力がある。開催当初から飲食エリアでエコロジー、クリーン運動を徹底し、時間をかけて徐々に受け入れてもらえるよう働きかけてきた結果、近年は近隣の飲食店や京都女子大による模擬店もフードエリアに出店するようになり、京都の生活者たちを支援する異業種交流会《京都元気クラブ》のブースも登場した。全国人気を誇るくるりがあえて地元でスタートさせた音楽イベントを、できるかぎり町ぐるみで応援していこうとする動きが年々高まっているのがわかる。
ちなみに飲食エリアは会場外。入場チケットがなくても誰でも利用できるため、流れてくる音だけを聴きながら焼きそばとビールでのんびり…なんて気分で近所からフラリとやってくる人も多い。もちろん使用食器類はリユース。返却すれば100円が戻ってくるということもあり、飲食を終えた人たちは放置せずに率先して片づける。マイ食器を持参すると店ごとのサービスも受けられるとあって、タッパーやタンブラーを用意してきた参加者も少なくなかったようだ。また、今年は創業20周年を迎えたジェイアール京都伊勢丹とくるりが、書き下ろしメモリアル・ソング「特別な日」でコラボレート。京都駅直結の店舗では特設ブースが用意され《音博》オリジナル・グッズも販売、その「特別な日」のPVは従業員たちが出演し店内で撮影されたものだ。もちろん同曲はイベント当日にくるりによる生演奏で披露された。
再開発エリアへ人の流れを
そもそも、第一回目が開催された2007年にはまだ閑静だったこの梅小路界隈も、2012年に京都水族館が、2016年には京都鉄道博物館が公園に隣接して誕生。新たな人気エリアとして飲食店も増えてきたことから、2019年春には近くにJRの新駅が開設される予定だ。必ずしもすべてが《音博》効果ではないが、10年かけて築いてきた町との絆は、人の流れを市内最大ターミナルである京都駅から、賑やかな中心市街地である四条河原町界隈や、清水寺、金閣寺、嵐山といった人気観光名所だけではなく、平安遷都1200年を記念して1995年に建設された市民の憩いの場、梅小路公園周辺へも導くきっかけの一つになったと言っていい。
京都を新たな音楽文化都市に
もちろん住民あっての町。いたずらに再開発を進めていいものではなく、実際に今も静かに暮らす周辺住民たちはこれら町の変化すべてを歓迎しているわけではないだろうし、いくら観光客対応とはいっても、町中のいたるところで進むホテルや宿泊施設の建設ラッシュに対して思うところのある市民も少なくないはず。梅小路公園周辺にもゲストハウスが目立つようになってきた。だが、くるりは大型ロック・フェスなどにも出演する全国規模の人気バンドとして影響力を持つ一方、あくまで市井の人々の暮らし、古都の風情と伝統を大切にしながら、新たな音楽文化都市として発展させようとひたむきに働きかけてもいる。その“プロジェクト”の一つという役割も持つ《音博》の継続は、2021年までには文化庁も移転してくる、革新と保守の両面を持つ歴史ある京都の町の目には見えない結束力をじわじわと引き出しているのかもしれない。