旧統一教会への解散命令の司法判断が近づくなか、早急に国としてやるべきこと ザル法とならないために
9月21日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は集会後に会見を行い、旧統一教会問題として残された課題について「不当寄附勧誘防止法の見直し」「解散命令後の清算手続」「宗教2世問題」の3つをあげて声明を出しました。
不当寄附勧誘防止法の見直しについて
木村壮弁護士は「2022年12月10日に成立した不当寄附勧誘防止法の成立から、1年9ヶ月が経っています。成立の時点で十分議論が尽くされなかったことを国会でも理解した上で、附則で『2年を目途に見直しをする』ことが決められています。当時の内閣府特命担当大臣であった河野太郎大臣も『法律が実際に適用される状況を見ながら、今後のことを色々考えていかなければならないだろうと思いますし、その案で100%全ていいとは思っておりません。見直しの議論について何らかの検討会をしっかりやってまいりたい』と話しています」として、早急な見直し議論の必要を訴えます。
附則第5条では「政府は、法施行後2年を目途として、本法の規定の施行の状況及び経済社会情勢の変化を勘案し、規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるもの」となっています。
ザル法とならないために
不当寄附勧誘防止法は、旧統一教会による高額献金の甚大な被害を受けて、短期間で成立したため、議論を尽されたとはいえず、同法は元信者である私の目から見ても、不当な寄附勧誘を横行させてしまうような穴がたくさんみられます。それを埋めなければザル法となり、今後も献金被害は起き続けることが考えられます。
同法の見直しを求める声明のなかで「際限なく献金をさせられている信者と生活をともにする配偶者や子どもたち、家族の被害を抜本的に救済できるように、家庭裁判所の監督の下で信者本人に代わって献金を取消し、その財産を管理することのできる制度(かつ準禁治産産制度類似の制度)を設けるよう求める」との提案をしています。
この点も大事だと思っています。高額献金をした信者を持つ家族は、今も苦しんでいます。同法では「債権者代位権を行使して寄附の返還を求めることができる」としていますが、実際にこの2年で、これが運用された実例があるのか、まったくみえていません。
「どんな相談があって、どのような処理をしたのか」情報開示の必要性
木村弁護士も「消費者庁に寄附勧誘対策室が作られましたが、出てくる情報は抽象的なもので、どんな相談があって、どのような処理をしたのか、家族被害がどの程度あったのか。詳細は表に出てきていません。もちろんプライバシーの問題はあるとは思いますが、どのような類型の相談が、どの程度あったのかがわからないと議論もできない」と話しており、そのあたりの情報開示が求められます。
紀藤正樹弁護士は「この(不当寄附勧誘防止法の)条文建てではダメだということを、2022年にはかなり強く言ったんです」として、現状で同法が充分に運用されていると言い難い状況を前にして「今後は、こういう条文建てをして下さいと、我々から考える理想の条文を、こちら側から明示して話をしていく必要があると思っている」と話します。
早急に行う必要性のある、解散命令後の清算手続に向けた法整備
2つ目は解散命令後の清算手続についてです。解散命令の司法判断が刻々と近づくなかで、被害救済を迅速に進めるためにも早急に行わなければならないことです。
声明では、国会に対し、宗教法人法第81条1項1号ないし2号前段を理由として「1.解散請求に基づき選任される清算人の権限強化を図るよう求める。2.解散の場合における清算手続終了後の残余財産について、清算結了後に脱会する信者の被害救済の途が残されるような必要な法整備を求める」としています。
井筒大介弁護士は、次のように説明をします。
「現在の宗教法人法に清算人の権限あるいは清算にあたっての条文があるのですが、極めて簡潔で清算人の権限については、具体的に何ができるというものは置かれていない状態です」
旧統一教会は非常に巨大な組織であり、反対する者たちに敵対的な行動してきたことを考えると「清算手続を、このような簡素で曖昧かつ抽象的な条文だけしかない状態で、きちんと手続きを遂行できるのか。不安を感じます」「破産法では非常に細かく具体的な規定が置かれていますので、清算手続を遂行する上で、他で設けられているような規定を取り込んだ方が良い」としています。
脱会しても、すぐに被害の声をあげられない人たちを置ざりにしてはならない
「清算手続が終了した後に資産・財産が残っている場合(残余財産)、これがある場合、清算人はしかるべき第三者にそれを引き渡すことになっています。現行法を読むと誰に引き渡すのかについて、対象宗教法人(旧統一教会)が指定できるというように読めてしまいます。統一教会が違法不当な活動によって蓄えた財産が(教団の関連組織に)残ること自体がおかしなことです」
いまだに旧統一教会には多くの信者がいます。今後、そうした人たちが教団の活動に疑念を抱いて、信者をやめようとしても教え込まれた教義やサタンや先祖の因縁の恐怖心などからすぐに脱することは難しい状況です。年単位のメンタルのケアが必要となることもあります。
同弁護士は「(教団を)やめても、すぐに被害の届けを出すことが難しい方々が、たくさんおられると思います。解散命令が出れば被害の届け出をしたい方は増えると思いますが、全員ができるわけではないと思います。そんな中で財産はもうありません。清算の手続きはもう終わりましたでは、後で被害の名乗りを上げる方が、請求ができないことになります。しかも、財産を引き継いだ統一教会の関連団体も責任を負いませんという状況になれば、非常に問題がある」としています。
現状のままでは被害者を置き去りにするような法律の運用になる恐れがあります。
ようやく、教団に被害の声をあげる宗教2世たちも出てくるも、次の課題も
3つ目は宗教2世問題です。
声明では「1.子ども家庭庁、法テラス等に対し、自治体等とも連携して『宗教2世』がその所属する団体に対して損害賠償請求権等の権利の適切な行使により被害回復を図ることができるようにするための相談体制の整備等の対策を講じるように求める。2.国に対し、宗教2世に対する宗教法人等による理不尽な人権侵害に対して、慰謝料額算定の適正化に必要な立法措置等を講じるよう求める」としています。
久保内浩嗣弁護士は、宗教2世らへの自立に向けた支援は十分ではないとしています。一方で、次のステップに移ってきているともいいます。
「教団に対して損害賠償請求をしたいという方が現れてきたことです。2世問題に限らず、訴訟提起は精神的にかなり負担の大きいものです。基盤となる生活環境、精神の安定がなければできません。2世の方には、訴訟を起こしたい気持ちはあるけれども、現実的にそれをできる状況にない方もいらっしゃいます。それに、そういう訴訟を起こせる情報にアクセスできていない方もいるかと思います。国や法テラスが相談先となっている広報を継続的にやって頂きたい」といいます。
声明のなかで「宗教団体等によって、宗教等2世は『宗教選択の自由を奪われ』『恋愛、婚姻の自由を奪われ』『進学、就職の自由を奪われ』『その結果、成人後の人生を含む全人生において、全人格を奪われた』と評価できる」として「宗教団体等から受けた不法行為による被害を金銭的に評価するとすれば、現在の裁判実務の慰謝料額の基準では到底、適正なものとは言えない」と指摘しています。
久保内弁護士は「現状の裁判では、慰謝料の金額が極めて低額です。そうすると『その程度の金額のために、訴訟を起こすことをしなくてもいいかな』という気持ちになるかもしれません。被害実態に見合った金額となっておらず、この点は改善しないといけない」と強く話します。
「自らの存在を消したい」とまで、思いこんでしまう宗教2世たち
集会のなかでは、過去に自傷行為や自殺未遂をした宗教2世(男性)からの話もありました。なぜそのような心境に至らざるをえないのでしょうか?
この方は旧統一教会の合同結婚式によって結ばれた両親から生まれています。
つまり、生まれた時から教義、信仰が当たり前のように存在しており、彼らは罪のない「神の子」といわれます。しかしこの男性はそもそも信仰などないなかで育ち、統一教会という存在があるから自分が生きているという苦悩のなかで育ちました。
「(神の子といわれている自らの)存在を消したい」と思いや「神の子(として育った自分)への攻撃性」が自傷行為とつながったかもしれないと話しています。
こうした宗教団体によって精神的苦しみのなかにいる宗教2世、3世は多くいます。政治の不作為によって、長年にわたって甚大な被害が生み出し続けられましたが、その人たちへの救済の法整備などに対しては不十分な状況です。政治家、関係各所はまったなしで、これを進めていく必要があります。