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「サンウルブズに日本人少ない」と仰る皆さん! ごめんなさい、説明不足でした。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
(写真:ロイター/アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦して4季目のサンウルブズが、2月23日、東京・秩父宮ラグビー場で国内初戦を迎えます。

 サンウルブズは日本代表強化のために作られたプロクラブ。日本代表でのプレーの期待されるメンバーが参画し、スーパーラグビーというハイレベルな舞台で経験値を積めるのが存在意義とされています。テレビ局によっては「もうひとつの日本代表」と呼ぶほど。

 ところが16日にシンガポール・ナショナルスタジアムでおこなわれた今季のサンウルブズのオープニングゲームでは、一部のファンの方が「外国人が多すぎる」と異議を唱えたようです。確かにシャークスに10-45で敗れたこの試合では、先発した日本生まれの選手がわずか1名でした。現在のサンウルブズに、ワールドカップを経験した日本代表選手がわずかしかいないことにも疑義が生じているようです。

 これにはまず、一介のラグビー記者として謝罪いたします。

 今季のサンウルブズのメンバーに海外出身者が多いのは、今季の枠組みを踏まえれば当たり前のこと。とはいえその枠組みについての説明が不足していたため、一部の方が「外国人が…」と不要なストレスを抱いてしまったのでしょう。申し訳ありません。

 では、枠組みとは何か。本稿読者の皆様にはすでにご存知の方も多いと思いますが、おさらいさせてください。

 今年9月、ラグビーワールドカップが日本で開幕します。このビッグイベントでの日本代表の成功は、この国の楕円球界の未来のためにも不可欠。そのため日本代表を統括する日本協会は、ジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチのアイデアのもと候補選手の強化方法を策定しました。

 日本協会主導でスケジュールを管理したい代表候補選手を「ラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)」としてリスト化。従来年明けまであった国内トップリーグのレギュラーシーズンを12月中旬までとして、同時期に発表した「第3次RWCTS」のメンバーに長期休暇を付与。ワールドカップイヤーへ万全の準備をさせるためです。

 今年に入ると、「第3次RWCTS」はふたつのグループにわかれました。

 ひとつは、1月からのサンウルブズのプレシーズンキャンプに加わるグループ。フッカーでレギュラーを狙う坂手淳史選手、パワフルなロックのウヴェ・ヘル選手などが該当します。直近での試合出場数がそれほど多くないこと、首脳陣に国際経験を積むよう期待されていることなどが彼らの共通項かもしれません。ちなみにサンウルブズのヘッドコーチはトニー・ブラウン。日本代表でジョセフの右腕を務める戦術家です。

 現在サンウルブズにいるRWCTSの中村亮土選手は、こう意気込みます。

「もうちょっと経験が必要だからと、こっち(サンウルブズ)に選んでもらえた(と思う)。こういうチャンスを活かし、選手としてもう一段階レベルアップすることを意識して日々トレーニングしています」

 そしてもうひとつは、2月上旬からのRWCTSキャンプに参加するグループです。

 こちらにはキャプテンになりそうなリーチ マイケル選手、キャプテン経験のある堀江翔太選手、各種メディアに引っ張りだこの姫野和樹選手と、ワールドカップ本番での主力入りの待たれるメンバーがずらり。彼らは現在、東京・町田で基礎的なトレーニングを実施中です。

 このRWCTSキャンプには、RWCTSの予備軍として発表されたナショナル・デベロップメント・スコッドの選手も繰り上げの形で参加しています。指揮官のジョセフは2月中旬以降、こちらに合流しています。

 RWCTSキャンプ参加組には、予め今季のサンウルブズと契約している選手、以前サンウルブズと契約したことのある選手もいます。もっとも彼らがサンウルブズに合流するとしたら、3月以降となる見込みです。

 そもそもRWCTSキャンプ序盤の主なフォーカスポイントは、コンディショニングと基本スキルの見直し。選手がよりよい状態でワールドカップ本番に臨めるようにするのが狙いです。RWCTSキャンプ参加組ですでに実力が高いと評価されている選手は、怪我予防の観点からサンウルブズに合流しない可能性もあります。

 3月下旬からは、このグループが主体となった「ウルフパック」がスーパーラグビークラブの控えチームと対外試合をおこないます。ジョセフは「これで2本目の選手たち(RWCTSキャンプに参加するNDSのことか)に試合をさせ、ワールドカップへの準備の前の準備をします」と説明しました。

 このような事情から、2019年のサンウルブズでは日本代表になれる選手が季節ごとに入れ替わってプレーする見込みです。とはいえ、チームは生き物です。1週間おきにやって来る試合を通してプレーを改善したり、課題を克服したりして強くなるには、ずっとチームにいられる選手の存在は不可欠。そのため今季のサンウルブズは、日本代表入りの資格をもたない外国人選手たちを招き、軸に据えているのです。

 ジョセフと親交が深い藤井雄一郎・日本代表強化副委員長兼サンウルブズゼネラルマネージャーは、代表首脳陣の思いをこう代弁します。

「サンウルブズは外国人で勝てるチームを作り、そこに日本代表候補のうちもうひと伸びして欲しい選手を入れる。スーパーラグビーを通してスーパークラス(の日本代表候補)を作る(育てる)というのがジェイミーの意向。その選手たちがここでレギュラーを獲れるようにしないとワールドカップでは…というのがコーチ陣の考えだろうから」

 国際経験の豊富なある選手は、サンウルブズ誕生前の時点で「(発足予定のサンウルブズでは)外国人選手のなかに10~15人くらいの日本人選手が混ざってやれば、サンザー(スーパーラグビーの統括団体)も納得してもらえるうえに(日本人選手が)経験を積める」と看破していました。いわばサンウルブズは、時間をかけて本来あるべき姿に近づいているようなものです。

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  本稿筆者としては、あまねく読者の疑念を晴らすために上記の説明を各種媒体でおこないました。日本協会も、RWCTSの仕組みを図解つきで説明したことがあります(左図。筆者撮影)。

 とはいえ、2016年のサンウルブズでは堀江選手ら日本代表勢が身を粉にしていた歴史、日本が海外との交流を図りづらそうな島国であるという地理的条件などを鑑みれば、感情的な理由で「外国人が…」と申される方がいても不思議ではありません。したがって、冒頭で謝罪をさせていただきました。

 

 ただ、サンウルブズや日本代表への「突っ込みどころ」は、むしろ選手の国籍と違う場所にあります。

 というのもサンウルブズのトニー・ブラウンヘッドコーチは、開幕からチームを離れているのです。理由は、ジョセフのいるRWCTSに帯同するため。なぜRWCTSに参加しているかと言うと、「パーソナルディベロップメント(PD)」のためだとされています。

 日本協会の関係者は、「スーパーラグビーや代表でコーチをする人間はPDを受けないといけない」と説明。ジョセフがRWCTSの序盤に合流せず、欧州を視察していたのも「PD」の一環だと続けました。カテゴリー、競技を問わず、自分が持つチーム以外の場所で一定期間の研修や活動を求めるのが「PD」のようです。ジョセフやブラウンはサンウルブズと代表活動を兼務するため「PD」に費やせる時間が限られていて、選手が活動し始める時期も「PD」の期間に充てなくてはならないのだ、と、前出の関係者は付け足します。

 一方で、筆者はこの「PD」に関する公的な文書などを見つけるには至っていません。また、日本代表は多くの海外出身コーチを招いていますが、ジョセフが就任するまで「PD」という単語が話題に挙がったことは一度もありません。

 ヘッドコーチを引き抜かれた格好のサンウルブズでは、事情に精通した主要の関係者でさえ「PD」という制度の有無について「初めて知りました」と話す人がいました。

「今回のことは、ジョセフがワールドカップのために決めたことだと理解しています。でなければ、開幕の時期にヘッドコーチがいないなんて…」

 もし、今後も追加調査が必要であろう「PD」というシステムが存在するのだとしても、その日数をRWCTS合宿に充当することは正解かわかりません。ジョセフにとってブラウンが必要不可欠な人材なのは確かですが、いまのRWCTS合宿では基礎練習が反復されています。ブラウンが辣腕を振るう場は限られているでしょう。

 何より、過去3年で通算6勝のサンウルブズはいま、チームの戦術を考えたヘッドコーチを欠いたまま格上の古株チームと戦っています。いまのサンウルブズで身体を張る選手やスタッフは「(ヘッドコーチ不在でも)すべきことは変わらない」としますが、そもそもラグビーは人間がするものです。「何をするか」が一緒でも「誰がするか」が異なれば、試合内容や試合結果も自ずと変化します。スーパーラグビーへの当面の参加年限が2021年までとされるサンウルブズにとって、ひとつの白星には1勝以上の意味があります。

 ジョセフもブラウンも、2015年にはハイランダーズを束ねてスーパーラグビーを制しています。上記で触れた勝負の原則やスーパーラグビーの状況なら、きっと深く認識しているでしょう。

 それでもブラウンがRWCTS合宿に帯同する理由があるとしたら、意思決定者が幾度かにわたって説明するほうがよさそうです。ジョセフは協会関係者を通し、メディアへ対応を最小化したいと伝えているようですが…。

 とにもかくにも、サンウルブズの国内初戦はもうすぐやってきます。相手のワラターズにはバーナード・フォーリーら現役オーストラリア代表がずらり。サンウルブズとしては、主軸にプレッシャーをかけ続けなければ苦戦は必至。ブラウンの仕込んだ組織的な攻撃を仕掛ける時間を少しでも増やすべく、課題の組織防御を改善したいとしています。

 中村選手は、ワールドカップイヤーへの思いも踏まえて言います。

「(日本代表の)セレクションに対してのモチベーションは高い。チェックされているとは思うので、自分のベストを出し続けるのは大事だと思います。(RWCTSキャンプ組とは)そこまで深くではないですが、ちょこちょこ連絡は取り合っています。いい形でやっているみたいなので、負けられないですね」

 きっと「外国人が…」と仰られた方は、日本のラグビーを愛しているのだと思われます。愛していただいているのなら、言い訳を挟まずに戦う選手たちの姿、もしくは選手の国籍を問う以前の課題に着目していただくのはいかがでしょうか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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