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センバツ第8日 高橋純平は野球IQが高いなぁ

楊順行スポーツライター

高橋純平は、頭のいいピッチャーだと思う。野球IQが高いのだ。

この日は、手強い近江を相手に、自責0で完投した松商学園戦とは一転、ストレートを軸に3安打10三振で完封。

「最後の打者は三振を狙いましたが、その1球前(149キロ)が浮いてしまったので、力みを抜き、アバウトにストライクゾーンに投げたんです」

と143キロで空振り三振のゲームセットだ。その前の打者として三振した近江の四番・山本大地によると、「ストレートでも、高めを意識しすぎていると、低めにも伸びてくる。頭のいいピッチャーという印象でした」。山本に対しては、2打席目の3球目に150キロを計時。ボールにはなったが、次の135キロの「カットボール?」(山本)で意表をついて見逃し三振に取っている。

この山本、そして中学時代に同じ岐阜県選抜でプレーした日比涼介ら、ことに右打者に対して高橋は、「一塁側を踏んだほうがゾーンが広く見えるんです」と、プレートの一塁側を踏んで投げる。これは右だけではなく、左打者についても同様で、大阪桐蔭時代の藤浪晋太郎もよく同じ投げ方を見せていた。

言葉の選び方、語彙の豊富さも野球脳の高さを思わせる。わずか2安打に抑えた松商学園戦では、初回から150キロと飛ばした。

「初回はなんとしても3人で切り抜けたかったので、力で押しました。それでストレートがいい感じで指にかかり、150キロにつながったんですが、それが逆に力みになったので、3回以降は捕手の加藤(惇也)と話して、変化球中心に切り替えたんです。キャッチボールでもカーブを多く投げ、脱力して投げることを意識したら、腕の振りがよくなった。途中から、いろいろと試しながら楽しむことができました」

ダルビッシュか大谷翔平級の大物

すえはダルビッシュ有か大谷翔平か……そんな噂を聞いたのは、13年の春だ。入学直後の春の大会で145キロをマークしたというのだ。その大物は、2年春にはエースとして県大会で優勝し、夏はベスト4止まりも、秋に県大会で準優勝すると、秋の東海大会でも準優勝。その数字がすごい。東海大会では33回を投げ35三振、防御率は0.27。津西、誉といずれも3安打完封し、いなべ総合との準決勝も10回を自責0だ。しかも誉戦ではカーブを、決勝の静岡戦ではスライダーを封印し、さらにもうひとつの持ちダマ・SFFは1球も使っていない。いなべ総合戦では、9回に自己最速の152キロを2球も計時したというから、スタミナにも恵まれている。

そして、高校生の本格派といえば荒れダマがふつうだが、公式戦77回で12四死球は出場32チームのトップという無類の制球力である。松商学園との1回戦で驚いたのは、試合中に見せた細心さだ。味方の攻撃時、一塁ダグアウト前でキャッチボールを行うとき、左腕にエルボーガードをしているのだ。可能性は低くても、万が一の打球直撃に備えてというわけだ。

さらに松商戦では、「ストレートは浮き気味でしたが、スライダーが有効だったので、それを中心にうまく修正できた」とその日の軸となるタマを正確に見つけ、組み立てを変える能力。たとえば6回には、カーブだけで三番・船橋星矢を3球三振に取るなどまさに緩急自在で、ただ単にタマが速いだけの剛球投手じゃない。

県岐阜商・小川信和監督の評価は、最大級である。

「冬を越えて、内外角の投げ分けなどがさらに進化したと思います。将来的には、世界に羽ばたいてほしい逸材ですね」

岐阜県勢の戦後初優勝に向けて、準々決勝の相手は浦和学院である。

強く記憶に残る松山東

そうそう、頭のよさという点では、松山東にもふれておきたい。82年ぶり2回目の出場で二松学舎大付から記録した大会初勝利は、今治西と愛媛県勢2校の初戦突破としても84年ぶりだった。指折りの進学校。部員には京都大、大阪大への進学を目ざす者もいる。二松学舎大付戦では、好投手・大江竜聖から16三振を喫し、ヒットが出たのは3イニングに過ぎないが、その回すべてで得点しており、

「その集中力は、頭のいいチームだな、というイメージです」(二松学舎大付・北本一樹)。

東海大四戦でも、途中まで2点をリード。一死三塁や一死一、三塁のピンチでは、内野は定位置を守った。高校野球では、1点を惜しんで前進守備を敷き、傷を深めるケースをよく見かけるが、「ベンチからの指示です。1点はあげてもいい場面」(石山太郎遊撃手)。

東海大四のエース・大澤志意也によると、

「僕はけん制がうまくない。試合に入り込むと、投げるタイミングがついつい同じになってしまうんです。そこをきっちり分析されて盗塁されたり、1回戦で甘くなっていたスライダーを狙ってくるなど、すごいなと感じました」

結果的に逆転負けしてしまったが、記録的大音量の応援団とともに、記憶しておきたいチームである。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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