オスカーノミネーションが発表:作品部門は5本の熾烈な争いになるか?
これだからオスカーはおもしろい。西海岸時間本日早朝のノミネーション発表は、ますますそう感じさせた。
オスカー予測は、過去の統計を見るのが一番やりやすい。しかし、今回の候補作を眺めると、それが読みづらいのだ。作品自体には勢いがあると思われるのに、「この部門にも入っていないと、作品賞は取れない」「オスカー以前にこの賞を取っていないと無理」という必須条件を逃しているケースが、結構あるのである。
昨年の「シェイプ・オブ・ウォーター」も、映画俳優組合賞(SAG)に候補入りすることなくしてオスカー作品賞を取っためずらしい例だったが、今年もまた“常識”が破られる可能性は、十分にあるということ。「#OscarsSoWhite」のプレッシャーで、近年、アカデミーは会員数を大幅に増やし、とりわけ若い人、女性、外国人、マイノリティを取り込んできた。投票者の顔ぶれや全体の規模が変わってきている中、昔の統計は、必ずしも頼りにならなくなってきているのかもしれない。
今朝の発表でわかった作品部門候補作は、8本。この部門は、最低5本、最高10本の間で、毎年変わる。しかし10本上がったことは一度もなく、今年も8本か9本になるだろうと思われていた。
その8本は、「ブラックパンサー」「ブラック・クランズマン」「女王陛下のお気に入り」「グリーンブック」「ROMA/ローマ」「アリー/スター誕生」「バイス」「ボヘミアン・ラプソディ」だ。このうち「ボヘミアン〜」を除く7本は、事前に、アワード予測エキスパートがほぼみんな合意していた。彼らの多くはまた、8、9、10本目に、「ボヘミアン〜」「ビール・ストリートの恋人たち」「ファースト・マン」を挙げている。つまり、このラインナップ自体に、驚きはなかった。
だが、まず、監督部門がこれを複雑にする。
先に発表された監督組合賞(DGA)の候補者は、ブラッドリー・クーパー(『アリー〜』)、スパイク・リー(『ブラック・クランズマン』)、アルフォンソ・キュアロン(『ROMA〜』)、ピーター・ファレリ(『グリーンブック』)、アダム・マッケイ(『バイス』)の5人。DGAとオスカー監督部門の候補者が、ひとりかふたり食い違うことは多いのだが、今年はこの中からクーパーとファレリが落ち、オスカーには代わりに「女王陛下〜」のヨルゴス・ランティモスと「Cold War」のパヴェウ・パヴリコフスキが入っている。このことも、そう意外ではない。そもそもランティモスがDGA候補入りを逃したことに驚いた人は多かったし、外国語映画(ポーランド)ではあるが、「Cold War」が作品部門や監督部門に入るのではと予測していたエキスパートはいた。
しかし、これは、「グリーンブック」と「アリー〜」にとって、大きな打撃だ。過去90年のアカデミー賞の歴史で、監督部門にノミネートされなかった映画が作品賞を取ったことは、たった4回しかないのである。DGAにノミネートされなかった映画がオスカー作品賞を取ったことも、「ドライビングMissデイジー」(89)にさかのぼるまで、一度もない。現状、このふたつをクリアしたのは、「ブラック・クランズマン」「ROMA〜」「バイス」となる。
そして脚本/脚色部門。この部門にノミネートされずして作品賞を取った例は、「タイタニック」(97)にさかのぼるまでない。今年の脚本部門候補は「女王陛下〜」「First Reformed」「グリーンブック」「ROMA〜」「バイス」。脚色部門候補は「アリー〜」「ブラック・クランズマン」「ビール・ストリート〜」「バスターのバラード」「Can You Ever Forgive Me?」。ここは、「ブラックパンサー」「ボヘミアン〜」以外の6本がクリアした。
さらに、地味ながら実は重要なのが、編集部門だ。ここにノミネートされず作品賞を取ったのは、過去に「普通の人々」(80)と「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14)しかない。今年の編集部門候補は「ブラック・クランズマン」「ボヘミアン〜」「女王陛下〜」「グリーンブック」「バイス」だ。
最後にもうひとつ、演技部門。作品部門候補作8本の中で、演技部門にまったく食い込まなかったのは、「ブラックパンサー」のみだ。この状況で作品賞を取ったケースも、過去に11回ある。最後は2008年の「スラムドッグ$ミリオネア」だ。しかし、珍しいことであるのに変わりはなく、監督、脚色、編集も逃している「ブラックパンサー」が受賞する可能性は、とても低いと言える。
ということで、統計的に言うなら、今の段階で一番強いのは、主要部門をクリアした「ブラック・クランズマン」と「バイス」 、続いて「女王陛下〜」と「ROMA〜」となった。「女王陛下〜」は来たる英国アカデミーでも圧勝が予想されており、今後ますます勢いをつけていくことになるかもしれない。また、「ROMA〜」と「女王陛下〜」は、タイの最多10部門でノミネートされてもいる(『ブラック・クランズマン』は6部門、『バイス』は8部門)。しかも「ROMA〜」は、先日の放送映画批評家協会賞で作品賞を取った。この賞は、投票者こそかぶらないものの、投票形式がオスカーと同じで、結果が一致することが非常に多いのだ。
一方で、ノミネーション数では5部門とほかの4作品より少ないものの、「グリーンブック」は、先週土曜日、やはりオスカーと同じ投票形式をもつプロデューサー組合賞(PGA)を受賞している。PGAは、各組合賞の中でも、オスカー作品賞との一致率が非常に高い重要な賞。この10年で結果が違ったのは2回だけで、しかもそのうち1回「ラ・ラ・ランド」がオスカーを逃した年は、PGAの投票がトランプの就任前、オスカーの本番投票がその後で、国内のムードが大きく変わった異常事態の年だった。「シェイプ・オブ〜」と「スリー・ビルボード」の大接戦だった昨年も、PGAは見事、「シェイプ・オブ〜」を選んでいる。「グリーンブック」はまた、オスカー作品賞につながることが多いトロント映画祭観客賞も受賞した。
そう考えると、現状では「女王陛下〜」「ブラック・クランズマン」「バイス」「グリーンブック」「ROMA〜」5本の争いと言える。全部で8本のうち5本がほぼ横並びというのは、近年、珍しいことだ。そして、この5本ともが、ここまで来たにふさわしい秀作である。授賞式まで、あと4週間半。投票者たちは、この中のどれに、さらに思い入れを深めていくのだろうか。